女性の活躍推進に向け、幅広い取り組みを進めている東京都。昨年は「女性活躍推進条例」の制定を目指す検討部会を設置し、夫婦間の“年収の壁"対策に乗り出すなど、その動きをますます加速させている。

1月28日には、主に企業を対象としたシンポジウム「東京女性未来フォーラム2025~企業が“女性活躍"を考える場~」を開催。経営者の意識や職場の文化の変革を促すため、女性登用の必要性や企業における具体的な事例を紹介したほか、参加企業の経営者らとともに、女性活躍・ダイバーシティ経営の推進に向けた共同宣言を行った。

  • 「東京女性未来フォーラム2025」開催

JAL、女性管理職比率30%を達成。次なる目標は…

冒頭、基調講演を行ったのは、日本航空 代表取締役社長・グループCEOの鳥取三津子氏だ。鳥取氏はJALで初めて客室乗務職からCEOに就任した女性リーダーとして、世間でも高い注目を集めている。この日は「経営戦略としての女性活躍、DE&Iの推進」をテーマに、自身の経験も交えて講演を行った。

  • 日本航空 代表取締役社長・グループCEOの鳥取三津子氏

JALが抱える約3万6500人の社員のうち、男女比は大体50:50と理想的なバランスではあるが、客室乗務員の99.8%を女性が占めるのに対し、運航乗務員や整備士の女性比率は1.7〜3.4%にとどまるなど、職種別に見ればジェンダーに大きな偏りがあるという。

これについて鳥取氏は「業務の特性や労働環境といった背景はありますが、長年の慣習の蓄積が偏った構造をつくった」と指摘。「一朝一夕で解消できるものではないので、10、20年をかけて根気よく改善しなければいけません。まずは採用の時点からバランスが取れるよう、職場環境や制度を整えている最中です」と現状を報告した。

  • JALにおける職種ごとのジェンダーバランス

一方、マネージメントポストへの女性登用ではすでに成果が上がっており、今年度からは日本全国にある7つの支社のうち、4拠点で女性が支社長を務めることになるなど、初めて過半数の女性比率を達成。「女性を強調するような意図はありませんが、お客様に関わる職種には女性社員が多いことを考えると、この構成も自然なことだと思います」と、鳥取氏は話す。

女性管理職の比率も、今年度末には経営目標だった30パーセントに達する見込みだとし、「次の目標は、女性管理職の比率50パーセントを目指していきたい」と述べ、社内の環境整備についてもさらに進めていくと訴えた。

「アンコンシャス・バイアス」解消の手立てとは?

  • 左からモデレーターの木村恵子氏(朝日新聞出版 AERA編集部 編集長)、村田善郎氏(高島屋 代表取締役社長)、井上裕美氏(日本アイ・ビー・エムデジタルサービス 取締役執行役員)、加藤勝彦氏(みずほ銀行 取締役頭取)、山下良則氏(リコー 代表取締役会長)

その後は、経営者らによる「経営戦略として考える女性リーダー登用と企業成長」と題したトークセッションが行われた。モデレーターは朝日新聞社 AERA編集部の木村恵子編集長が務めた。

  • みずほ銀行取締役頭取 加藤勝彦氏

みずほ銀行の取締役頭取である加藤勝彦氏は現状の女性活躍をめぐる課題について、「周囲や本人の意識改革が必要」だという。

「リーダーになってくださいとお願いしても、『私には向いていません』『部下を持つとマネージメントに時間を取られるので、子どもがいると難しい』といったアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)も根っこにあります。でも、世の中は多様性で変わってきていて、女性活用は経営者の責務。みずほ銀行では、すべての人材が自分らしく働けるよう新たな人事制度を導入し、業務の幅なども含めた見直しに取り組んでいます」(加藤氏)

  • 高島屋代表取締役社長 村田善郎氏

高島屋の代表取締役社長 村田善郎氏も「加藤さんが申し上げたアンコンシャス・バイアスの排除は非常に重要」だと認める。その上で、「ひとつは女性自身のアンコンシャス・バイアス。『自分はそんな能力ないんだ』というものをまず取っ払うためにも、周りが『できるんですよ』と言ってあげる。そうやって登用して、結果を出す。その循環をつくって女性のアンコンシャス・バイアスをなくす必要があると思う」と主張。

さらに、「もうひとつは経営者としてのアンコンシャス・バイアス。例えば、女性より男性の方が急な出張も嫌な顔をせずに行ってくれるというが、当然ながらもっと前もって出張の計画を予定すれば、女性だって対応できるんです。そういった管理監督者の画一的で偏ったマネージメントを解消しないといけないと思います」と呼びかけた。

  • 日本アイ・ビー・エムデジタルサービス 取締役執行役員 井上裕美氏

日本アイ・ビー・エムデジタルサービスの取締役執行役員 井上裕美氏は、「私も子どもが2人いるので、私自身も『子どもがいながらリーダーになるのは……』というアンコンシャス・バイアスがあったと思います」と振り返る。その上で、日本アイ・ビー・エムデジタルサービスが実施している育成プログラム『W50』について紹介した。

「弊社では、すべての方がチャレンジできる機会をつくるために、将来の女性管理職候補の方々を毎年50人くらいノミネートし、1年の時間をかけて育成しています。そこではなぜダイバーシティが大事なのか、どんないい影響をもたらすのかといった知識も学んでもらい、ほとんどの方が2年以内に次世代リーダーになっていきます。

エグゼクティブの方々のメンタリングもあるので、最初は『自分には無理かな』と思っていた社員も、だんだん『ちょっとやってみようかな』という気持ちに変わっていく。“強い女性がリーダー"といったアンコンシャス・バイアスにとらわれることなく、いろんなロールモデルの中から自分に合ったリーダー像を追い求められるよう、サポート体制を整えています」(井上氏)

  • リコー代表取締役会長 山下良則氏

ダイバーシティインクルージョンはもともと、女性を含む多様な人材が活躍できることを目指す考え方だ。リコー代表取締役会長の山下良則氏はすべての人がチャレンジできる環境づくりについて、次のように述べる。

「リコーには従来から社内の公募制度があって、何かポストにチャレンジしたい社員が手を挙げるという文化がある。2022年には『リコー式ジョブ型人事制度』を始めました。管理職以上のジョブディスクリプションを全社員に公開し、『このポストはこういう要件になっていますよ』と示しているので、そのポストにいきたい人は勉強や努力をします。これがキャリアを実現するインフラになっています。

上司の評価がよければいい時代は終わりました。社員たちが『そこのポジションにいくには、こういう能力がないとダメなんだ』と理解することが重要で、会社は『これができればこのポジションになれる』とはっきり言わないといけません。広いチャンスを与えるのはすごく大事。日々、そういうカルチャーを会社に落とし込もうと取り組んでいます」(山下氏)

  • 女性活躍・ダイバーシティ経営の推進に向けた共同宣言を発表した

この日は東京都の小池百合子知事も登壇。女性活躍・ダイバーシティ経営の推進に向けた共同宣言を前に、「この大都市東京は人がいないと動きません。人がいるからこそ輝いています」と挨拶。

「そしてもっと輝かせるためにも、女性のエネルギーをもっともっと有効に活かしていくことが必要。それは女性側からすれば、自己実現できる多様な選択肢を持つ社会でもあるという風に思います。時代もどんどん変わっています。複雑で多様化する時代、その意思決定の場に女性がもっともっといてほしいと思っています」と訴えた。