ホンダ、日産自動車、三菱自動車工業の3社トップが記者会見に臨んだ。ホンダと日産は共同持株会社設立による経営統合に向けた検討に関する基本合意書を締結。三菱自動車は両社の枠組みに参画するかどうかを検討していくという。
経営統合を検討する背景は?
ホンダと日産が経営統合に向けた話を進めるのは両社に共通の危機意識があるからだ。
ホンダの三部敏宏代表執行役社長は、中国勢の台頭や新興勢力の参入により自動車産業の構図が劇的に変わりつつあり、クルマの電動化・知能化によりクルマの価値や自動車産業のビジネスモデル自体も変化しているとした上で、2030年あたりになっても「戦う力」を持つことができなければ「とても勝負にならない」との認識を示した。
日産の内田誠代表執行役社長兼最高経営責任者も自動車産業の事業環境がスピーディーに変化し続けているとの認識は同じ。大企業であっても、常識にとらわれて判断が遅れれば「未来を切り開けない」とする。
クルマの電動化・知能化という観点から大規模かつスピーディーに物事を進めていかなければいけない両社だが、そのための研究開発費は巨額で、「残念ながら、個社でやるのは厳しい」(三部社長)というのが現状。ソリューションとして浮かび上がったのが経営統合だ。
両社のビジネスを単純に足し合わせると売上高は30兆円以上、自動車の販売台数は年間750万台の規模になる。スケールメリットは「これまで以上に大きな武器に」なるというのが内田社長の考えだ。
経営統合は確実?
あくまで今回は経営統合に向けた検討を始めることについて合意したもので、経営統合が本当に実現するかどうかは現時点で不明だ。統合実現には日産が発表した事業構造計画「ターンアラウンド」の着実な実施が前提条件となる。内田社長は、「ターンアラウンド」の実行で日産は「トンネルに入る」としつつも、ホンダとの経営統合で「その先の光」を示したいと表現していた。
どっちが主導権を握る?
経営統合の方法としては、共同持株会社を設立し、両社がその下にぶら下がる形式を想定している。共同持株会社の取締役の過半数と代表取締役はホンダが出す。時価総額など企業の規模で上回るホンダが、まずは経営統合を主導していくことになる。ただ、「永遠にホンダがリードしていくわけではない」(三部社長)そうで、最適な人事を含めて成長可能な企業を目指していくとのことだ。
今回の統合については「ホンダによる日産の救済では?」との見方があるが、三部社長は「救済ではない」とはっきりと否定。あくまで中長期的に企業の競争力を向上させていくために経営統合の検討を進めていくという。経営統合による企業価値の向上という目的を達成するためには、ホンダと日産の両社が「自立」している必要があるとの認識だ。
ちなみに、今回の経営統合に向けた協議が加速したのは、台湾のホンハイ(鴻海精密工業)が日産の買収に動き出したからだとの報道もあったが、内田社長は「そういう事実はない」と否定した。
ブランドは残る?
統合によって両社のブランドがどうなるのかはクルマ好きにとって大きな関心事だが、会見の中で三部社長が「両者の理念とブランドは変わらず残していく」と言及していたので、とりあえずは安心してもいいようだ。
期待できるシナジー効果は?
経営統合で追求したいのはシナジー効果だ。中身についてはこれから検討していくそうだが、シナジー効果が期待できそうな領域としては下記の7項目を挙げる。
①車両プラットフォームの共通化によるスケールメリットの獲得
②研究開発機能の統合による開発力向上とコストシナジーの実現
③生産体制・拠点の最適化
④購買機能の統合によるサプライチェーン全体での競争力強化
⑤業務効率化によるコストシナジーの実現
⑥販売金融機能の統合に伴うスケールメリットの獲得
⑦知能化・電動化に向けた人財基盤の確立
シナジーと聞くと、例えば両社で生産拠点を統廃合したり、互いに商品を補完し合うことで減産を行ったり、人員を削減したりといった「合理化」が進みそうだと思ってしまうが、内田社長は「合理化ありきではなく最適化ありき」の統合だとし、両者のブランド価値と企業価値の向上につながるシナジーを目指すと強調した。三部社長も「決して合理化するために統合するわけではない」と話していた。
今後のスケジュールは?
経営統合に関する今後の予定としては、2025年6月に最終契約書を締結し、2026年8月には共同持株会社を上場させるとしている。三菱自動車は2025年1月末をめどに経営統合への参画・関与の可能性に関する検討結果を出す方針だ。
会見で三部社長は、シナジー効果の「成果物」が出始めるのが2030年手前、「刈り取り」を行うのが2030年以降になるとの見立てを示していた。