三重県志摩市とNTT西日本、NTTSportictは7月26日、志摩市における「スポーツDXによる地域コミュニティ活性化をめざしたとりくみ『マチスポ』に関する包括連携協定」を締結し、実証を開始した。志摩市が導入したスポーツDXとはどのようなものだろうか?

  • 9月17日に行われた志摩市とNTT西日本、NTTSportictにおける連携協定の発表会

志摩市が取り組むスポーツDXによる地域コミュニティ活性化

『マチスポ』とは、NTT西日本とNTTSportictが取り組んでいる「スポーツDX×まちづくり」ソリューションだ。「マチのスポーツ映像化」「マチのスポーツ情報発信」「マチのスポーツ施設DX」の3つを大きな柱とし、地域の課題解決と街の人々の活動・交流づくりを行っている。

志摩市は「スポーツDXによる地域コミュニティ活性化をめざした取り組み『マチスポ』に関する包括連携協定」(以下、連携協定)を通じて、体育施設やアリーナ、そして小・中学校の体育館などに撮影・配信プラットフォームを導入。地域イベントやスポーツ大会などの発信力を強化することを狙う。同時に、施設の利便性向上による障がい者スポーツの振興を通じて、地域コミュニティの活性化を図っていくという。

発表会において、志摩市の橋爪政吉市長は、学校施設にカメラを置いたことで、施設の活用がオンラインで多くの人の目に触れる機会が生まれたことに対し「素晴らしい実証実験」と感想を語る。

「(マチスポは)施設の利用者が広がるひとつの大きな手法にもなってくるのかなと。このカメラをスポーツ推進の切り口として活用し、街の活性化に繋げたいと思っております」(橋爪市長)。

  • 志摩市 橋爪政吉市長

NTT西日本 三重支店は、ICTを活用したDXを進めるなかで志摩市がスポーツ合宿の誘致を検討していること、スポーツ推進を基本理念として取り組みを行っていることを知り、スポーツDXを得意とするNTTSportictを紹介したという。

NTT西日本 三重支店長の佐藤麻希氏は、「今回は合計5カ所でトライアルを実施いたします。各種スポーツ配信を通じて、地域スポーツの発信力強化、生涯スポーツの振興による地域コミュニティ活性化、さらには施設管理の効率化にお力添えできればと思っております」と抱負を述べた。

  • NTT西日本 三重支店 三重支店長 佐藤麻希氏

NTTSportictとNTT西日本による"スポーツDX×まちづくりソリューション『マチスポ』"の実証実験は、すでに沖縄県石垣市や和歌山県上富田町などで開始されている。しかし志摩市での実証実験では、全国初となる学校施設へ導入が実現した。また、これまでNTTSportictのライブ配信では球技が主体だったが、志摩市ではビーチでの活用という新しい取り組みも行われている。

NTTSportict 代表取締役社長の中村正敏氏は、「志摩市市制20周年という記念すべき年の取り組みに我々が参加できること、スポーツを通じたまちづくりを志摩市のみなさまと一緒にできることに感謝を申し上げます」とその思いを伝えた。

  • NTTSportict 代表取締役社長 中村正敏氏

NTTSportictの「STADIUM TUBE」

2020年4月にNTT西日本と朝日放送グループホールディングスの合弁事業として設立されたNTTSportict。“あなたの頑張る姿をあなたの誰かに届ける”をミッションとし、プロ・アマ問わず映像化されてないスポーツの映像化をめざしている。

これを実現する手段として用いられているのが、試合を自動録画・自動編集・自動配信するというAIスポーツ映像ソリューション「STADIUM TUBE」だ。競技場にAIカメラを設置するだけで、AIが人やボールの動きを理解し、必要に応じて拡大・縮小・切り抜きを行って配信してくれる。電源とインターネット回線が引ければ映像スタッフがいなくても映像配信が可能であり、現在野球、サッカー、バスケットボールなど16種類の競技に対応している。

  • AIスポーツ映像ソリューション「STADIUM TUBE」の仕組み

志摩市における実証実験では、この「STADIUM TUBE」の野球専用AIカメラ「Double Play」を「長沢野球場」に設置。実際に撮影した映像では、バッターボックスにバッターが立ったり、守備側が定位置に着いたりすると、センター側やホーム側の映像が自動的にスイッチング。またストライク・ボール・アウトのカウントやスコアボードを、映像にピクチャー・イン・ピクチャーではめ込むといった編集も自動で行われていた。

  • 長沢野球場のセンター側、ホーム側に設置された「STADIUM TUBE」

  • 「Double Play」を使った実際の配信映像の例

「文岡中学校・鵜方小学校体育館」や「国府白浜園地休憩舎」にはスポーツ用のAIカメラではなく、遠隔操作でカメラの動きを制御できる定点アングル撮影用カメラ「PTZカメラ」が設置された。"PTZ"とは、パン・チルト・ズームの頭文字を取った言葉。自由にアングルを変更できるだけでなく、どのカメラがどのエリアを撮影するかを事前に設定できるため、コート全体、コートの奥など撮影したいエリアを複数登録しておけば、ボタンひとつで簡単に望むアングルの定点撮影が可能となる。

  • 全国初となる学校施設へ導入が実現した鵜方小学校体育館

  • 体育館後方上部に設置された定点アングル撮影用カメラ「PTZカメラ」

  • 国府白浜園地休憩舎での「PTZカメラ」屋外設置例

  • 国府白浜園地休憩舎のリアルタイム映像をノートPCから確認したところ

  • 「国府白浜園地休憩舎」に設置されたPTZカメラで撮影された映像

また、地元サーフィン大会では、自動トラッキングカメラ「STADIUM TUBE X(STX)を仮設して実証実験を行った。このカメラの大きな特徴は、競技者などの対象を自動で追尾して撮影することが可能な点にある。

  • 自動トラッキングカメラ「STADIUM TUBE X (STX)」

  • 「STADIUM TUBE X (STX)」で150メートル先のサーファーを追尾撮影した様子

なお、これらの映像は、専⽤の応援コミュニティプラットフォーム「マチスポ志摩市ポータル」で配信される。閲覧者はスポーツ情報配信サービス「SpoLive」から、AIカメラで撮影された⻑沢野球場の試合や、国府⽩浜園地休憩舎からみえる波の状況をリアルタイムで視聴可能。また、試合への応援コメント入力や地域情報の発信も行われ、地域交流の場として運営される予定だ。

  • スポーツDXによるまちづくりについて説明した、NTTSportict カスタマーサクセス部 担当課長 川崎豪己氏

構造計画研究所の「まちかぎリモート」と「RemoteLOCK」

AIスポーツ映像ソリューションと合わせて、志摩市は、構造計画研究所の公共施設の予約管理システム「まちかぎリモート」と、暗証番号型スマートロック「RemoteLOCK」も導入した。すでに全国の自治体で採用が始まっており、とくに学校開放のDX化を実現するために導入している自治体が多いという。

  • 「まちかぎリモート」「RemoteLOCK」について説明する、構造計画研究所 すまいIoT部 市場開拓室 自治体チーム チームリーダー 岡田佳也氏

現在、多くの自治体が施設運用に悩みを抱えている。その大きな要因は少子高齢化。施設のカギ管理や予約管理は施設のある地域の住民が行っているが、その担い手がどんどん減少しているのだ。とはいっても、新たな担い手がすぐに見つけるのも難しい。そんな悩みを解決するのが「まちかぎリモート」となる。

  • 暗証番号型スマートロック「RemoteLOCK」

「まちかぎリモート」は、複数施設のカギの管理業務を、遠隔から安全に行える予約管理システム。専用WEBページより予約を受け付け、予約ごとに異なる暗証番号を発行する。

「文岡中学校・鵜方小学校体育館」では、体育館の入り口に「RemoteLOCK」を取り付け、この中にカギを収納。「RemoteLOCK」に暗証番号を入力してカギを取りだし、体育館を開けるという運用を採用した。管理者と利用者がカギを受け渡すために移動する必要がなく、また受け渡しに時間の制約も受けないため、施設利用の利便性が向上するだけでなく、少ない人数で施設管理も可能となるだろう。

  • 鵜方小学校体育館の入り口に設置された「RemoteLOCK」

  • インターネットから取得した暗証番号で「RemoteLOCK」を開けると、中からカギを取り出せる

「100人が見る試合を1万試合配信」をめざすNTTSportict

志摩市はこの連携協定を皮切りに、サーフィンという同市の特色を活かした取り組みをさらに加速させていく予定だ。サーフィンは根強い人気を誇るスポーツだが、決して映像配信が多い競技ではないだろう。こういった競技は世の中にたくさんあり、草の根活動で続けられているスポーツ大会もたくさんある。また学校や自治体など、地域で行われる小規模な大会は現地に行かないと観戦することも難しい。

NTTSportictは、こういったあらゆるスポーツに光を当て、交流を深めることをめざしている。同社が掲げるスポーツ配信の未来は「100万人が見る試合を1試合放送するのではなく、100人が見る試合を1万試合配信する」だ。さまざまなスポーツがより身近になることで、地域の特色を出しやすくし、地域創生に繋げる。そんな未来が訪れることに期待したい。