日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント‘24』(毎週日曜24:55~)では、9月に行われた自民党総裁選と立憲民主党代表選に出馬した政治家たちの人物像に迫った『総理大臣を目指した人たち ~2024 二つの党首選から見えたこと~』を17日に放送する。企画したのは日テレ政治部だが、ディレクターを務めるのは、映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』で知られるドキュメンタリー監督の大島新氏(ネツゲン)だ。

日々政治報道に向き合うテレビ局の政治部が、なぜ同氏とタッグを組んだのか。そして、トップを目指す政治家たちへの取材で何が見えてきたのか。大島氏と、日テレ政治部長の井上幸昌氏に話を聞いた――。

  • 大島新氏のインタビューに応える石破茂氏 (C)日テレ

    大島新氏のインタビューに応える石破茂氏 (C)日テレ

『なぜ君は総理大臣になれないのか』は17年の密着だったが…

テレビ局の選挙報道は、放送法に明記されている「政治的に公平であること」といった規定を必要以上に気にするあまり、選挙期間中の報道に対して「発信が弱い」「切り込みが甘い」と批判の声が高まっている。こうした現状に、日テレ政治部長の井上氏と官邸キャップの平本典昭氏の間で、「政治報道をイノベーションしないと、テレビ局の政治部の存在価値が下がってしまう」と危機感が共有されていた。

そんな中、自民党の総裁選と立憲民主党の代表選が同時期に行われることに。そこで、普段の『news zero』『news every.』『真相報道バンキシャ!』といった番組で動きを追っていくとともに、別のアプローチでそれぞれの党首選を伝える手段として、「ドキュメンタリー」という案が浮上した。

白羽の矢が立ったのは、小川淳也議員(現在は立憲民主党所属)の初出馬から17年におよぶ奮闘を追った映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』(20年)の監督を務めた大島氏。井上氏は「テレビ局の政治部の仕事はほとんどが永田町の取材で、実は政治家が生まれ育った地元までガッツリ取材することはあまりないんです。大島監督は、香川1区(小川議員の選挙区)に入り込んで選挙を見ている方なので、広い視点をお持ちの監督にお知恵をもらえないかと考えました」とオファーの経緯を明かす。

この話を受けて、「テレビでできないことをやろうと思って映画にシフトしていって、テレビのディレクターは6年半くらいやっておらず、気持ち的にはもう元テレビマンという感じだったので、びっくりしたのと、ありがたいお話だと思ってうれしかったです」という大島氏。

映画はテレビよりも見る人が能動的で深く刺さり、尺や表現の制約も少ないため、「思い切りバットが振れて、作り手と見る人の思いが合致した時にすごく良い関係性が生まれる」と魅力を感じていた一方、「『なぜ君』はドキュメンタリー映画としてヒットしたと言われていますが、動員は4万人弱くらい。これはテレビの視聴率に換算すると0コンマいくつの数字なんです。テレビでもドキュメンタリーは数字をとるのが難しいと言われますが、それでも良い時は(世帯)10%近い番組をやると、“見たよ”という人の数はケタが違うのを知っています。それに、深夜であっても不意打ちに出会えるというマスに開かれた良さがあるので、最近は改めてテレビの魅力というのを感じていたところでした」という中での今回の依頼だった。

  • 演説を聞く大島氏 (C)日テレ

テレビの制約を感じる場面は放送尺程度

『なぜ君』を見てのオファーに喜びも感じながら、同時に不安も抱えていた。この映画で追った小川氏は、大島氏の妻と高校の同級生だったことをきっかけに始まった17年にもおよぶ関係性、そして彼のある種“無防備”な人間性もあっての距離感で成立した作品だけに、「私にとっても特殊な事例なので、あのような作品を期待されてしまうと難しい。総裁選や代表選という緊張の現場で、あのような素材が撮れるのだろうか」という懸念があったのだ。

それでも快諾したのは、日テレ政治部の持つ政治家へのアクセス力。「放送に出るのは総裁選も代表選も終わった後なので、票につながらないわけじゃないですか。そこに僕が一つ一つ事務所に連絡して取材依頼していたら、半分も受けてもらえなかったと思います。日テレ政治部が培ってきた関係性がある中で、様々な政治家にインタビューできるという欲が勝りました」と、今回の企画が動き出した。

『NNNドキュメント』は、日テレ系列局の社員がディレクターとして制作することがほとんどなだけに、制作会社の大島氏が担当し、なおかつ自らが一人称でナレーションもするのは異例。政治を真正面から捉えるテーマも珍しいケースで、「多少は社内で調整もありましたが、やはり面白いものを出したいという思いで乗り越えられました」(井上氏)という。

そんな姿勢ゆえ、大島氏も「テレビの制約を感じる場面は放送尺くらいで、本当に自由にやらせてもらいました。編集しながらプレビュー(試写)を重ねていますが、そこで指摘いただくのは、より面白くするための意見なので、納得できることが多かったです」と満足の行く番組制作ができたようだ。