第83期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は5回戦が進行中。11月7日(木)には豊島将之九段―永瀬拓矢九段の一戦が名古屋将棋対局場で行われました。対局の結果、力戦調の角換わり腰掛け銀から抜け出した永瀬九段が117手で勝利。今期4勝目を挙げ挑戦権争いに踏みとどまりました。
それぞれの正念場
ここまで1勝3敗の豊島九段は残留に向け負けられない戦いが続きます。後手番で迎えた本局、豊島九段が用意したのは△3三金型腰掛け銀と呼ばれるやや力戦調の角換わり戦術でした。意表を突かれたか、これを見た永瀬九段は持ち時間を投入して慎重に対策を考慮。やがて盤上は相腰掛け銀の持久戦へと進みました。
順位戦らしいジリジリとした間合いの計り合いが続いたのち永瀬九段が4筋の歩を交換したのをきっかけに本格的な戦いが始まります。一歩を手にした豊島九段も9筋の端攻めで応戦、局面は盤面全体を使った攻め合いへと突入しました。23時頃、豊島九段は敵陣深くへの銀打ちでペースをつかみます。
終盤に落とし穴が
打たれた銀はすぐに敵飛に取られる運命にあるものの、一手を争う終盤戦ではこれを取る手が緩手になりかねません。永瀬九段が攻め合い志向の角打ちで応じたのは受けていてもキリなしと見た開き直りでしたが、結果的にこの勝負手が奏功して形勢が逆転。後手としては危険な自玉を顧みずさらに攻め合う手が有力とされました。
永瀬九段の勝負手に対して実戦で豊島九段が選んだ受けは自然なようでいて、この数手後に待つ自玉への詰み筋を軽視した格好に。終局時刻は翌8日0時24分、最後は自玉の詰みを認めた豊島九段が投了。長い中盤戦のあとの急転直下の結末となりました。勝った永瀬九段は4勝1敗の白星先行、敗れた豊島九段は1勝4敗の苦しい星取りとなっています。
水留啓(将棋情報局)