大阪市は10月3日、報道発表資料「夢洲アクセス鉄道に関する検討会の開催について」を公開した。2025年大阪・関西万博の終了後、大阪IR(Integrated Resort : 統合型リゾート)が建設される予定の夢洲へ向けて、4路線からなる3ルートの整備を検討するという。

  • 「夢洲アクセス鉄道」の検討ルート(点線)と関連路線(国土地理院地図を筆者加工)

夢洲は大阪港の北部(北港)にある人工島。2002年に夢洲コンテナ埠頭が開業し、物流の拠点となった。2025年大阪・関西万博の開催地として整備が進み、2025年1月19日に大阪南港のコスモスクエア駅から夢洲駅まで、中央線(Osaka Metro)の延伸区間が開業予定となっている。

万博終了後、2029年にカジノ、国際会議場、国際展示場、ホテル、エンターテインメント施設など備えた統合型リゾート施設「大阪IR」の開業を予定している。運営会社の「大阪IR株式会社」は、米国ラスベガスのIR事業会社「MGMリゾーツ・インターナショナル」日本法人と、日本の金融サービス業大手であるオリックスが共同出資して設立。関西の有力企業も出資者に名を連ねている。

大阪IRの年間来場者数は約2,000万人を見込んでいる。ちなみに、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の年間来場者数は2023年に約1,600万人。テーマパーク来場者数ランキングで世界第3位とのこと。約2,000万人の来場者を単純に見積もって、往復で4,000万人の交通需要が発生する。鉄道事業者にとって魅力的な施設となる。2025年1月19日に夢洲駅まで延伸開業予定の中央線(Osaka Metro)だけでは輸送量が足りないかもしれない。

そこで、大阪市としてはかねてより構想のある「北港北ルート」を整備したい。2024年11月から検討会を開始し、令和7年度前半、つまり2025年9月までに検討結果を取りまとめる予定とした。

整備路線の概要をおさらい

検討対象路線は4路線。このうち「京阪電鉄中之島線延伸部(中之島~新桜島)」と「北港テクノポート線延伸部(夢洲~新桜島)」は直通して1つのルートとなり、「JR桜島線延伸部(桜島~夢洲)」は夢洲まで到達する。「京阪電鉄中之島線延伸部(中之島~九条)」は夢洲へ到達せず、九条駅で中央線(Osaka Metro)と阪神なんば線へ乗換え可能として鉄道ネットワークを形成する。それぞれ長らく構想のあった路線ばかりだ。

「京阪電鉄中之島線延伸部(中之島~新桜島 / 中之島~九条)」

朝日新聞大阪版1989年7月18日付「大阪ビジネス街の東西の軸、中之島線が堂島川地下を西進」によると、中之島線建設は京阪電気鉄道が1986年から可能性を探っていたという。京阪線の起点は淀屋橋駅で、御堂筋線と接続しているものの、梅田の南、難波の北にあって、繁華街から少し離れている。そうした事情もあり、京阪としては西へ延伸したかった。

一方、大阪市は中之島の再開発のために鉄道が必要と考えていた。そこで、京阪は天満橋駅から分岐する中之島線を構想した。都心部にターミナルを2つ持つことで、淀屋橋駅の混雑を分散する目的もあった。京阪線の三条駅から出町柳駅までを結ぶ鴨東線の計画もあり、列車を増発して通勤客と観光客の増加に対応する考えだった。

1989年5月、運輸政策審議会は「大阪圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について(答申第10号)」を発表した。この中で、中之島線の天満橋~玉江橋(現・中之島)間が「西暦2005年までに整備することが適当である」と定義された。この答申では、大阪圏において他にも片福連絡線(現在のJR東西線)、なにわ筋線など25路線を掲載しており、現在の大阪圏ネットワークのあり方を示していた。

中之島線建設中の2004年に公開された「近畿地方交通審議会答申第8号」で、中之島線をさらに延伸し、西九条駅を経由して新桜島に至るルートが示されている。京阪はUSJ開業時から「ホテル京阪ユニバーサル・シティ」を運営しており、2008年にUSJ付近のホテル日航ベイサイドを継承し、「ホテル京阪 ユニバーサル・タワー」を開業。京阪が桜島方面に関心を持っていたことがうかがえる。一時はさらに咲洲、夢洲を経て、コスモスクエアまでの延伸にも意欲を示していた。

京阪線の輸送強化という大きな期待を受けて、2008年10月に中之島線が開業したものの、中之島駅で連絡する予定のなにわ筋線が開通していなかったこともあり、輸送量は期待を下回った。ここで延伸計画は停滞する。延伸計画が進まないまま、2021年に「ホテル京阪ユニバーサル・シティ」の運営から手を引いてしまった。

2016年に国会でIR推進法が成立し、大阪府と大阪市が夢洲で建設する検討に入る。2017年7月、京阪ホールディングス社長は、「IRが実現するなら、中之島線を九条駅まで延伸する」との考えを示した。九条駅で中央線(Osaka Metro)と連絡すれば、大阪IRから京都市の祇園四条駅まで1時間で結ばれるため、京都の訪日観光客誘致に貢献する。

2018年に大阪・関西万博の開催も決定し、大阪IR実現の動きが活発になると、京阪は九条~西九条間の延伸にも意欲を示した。夢洲に直通できないが、大阪IRとUSJの両方に乗換え1回で行ける。軌間が同じ中央線(Osaka Metro)との直通運転も検討課題となった。

2023年7月、京阪ホールディングスは夢洲方面の延伸を判断するため、「中之島線延伸検討委員会」を設立した。ただし、同年9月に大阪府および「大阪IR株式会社」が締結した協定で、IR事業者は違約金なしで契約を解除できる権利を有していた。京阪としては、大阪IR開業が未知数であるとして結論を出せなかった。この解除権は2024年9月6日に失効したため、大阪IRの開業が確定した。

「北港テクノポート線延伸部(夢洲~新桜島)」

1989年5月の運輸政策審議会「大阪圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について(答申第10号)」の中で、「南港テクノポート線」の「中ふ頭~海浜緑地(現・コスモスクエア)~大阪港」と、「北港テクノポート線」の「海浜緑地~北港南(夢洲)~北港北(舞洲)~此花方面(新桜島)」が記載されていた。どちらも事業主体は大阪港トランスポートシステムだった。

このうち「南港テクノポート線」の中ふ頭~コスモスクエア間は、現在、ニュートラムの一部として営業中。コスモスクエア~大阪港間も中央線(Osaka Metro)の一部となっている。

「北港テクノポート線」のコスモスクエア~夢洲間は2000年に鉄道事業が許可された。2009年に同区間で道路鉄道併用の夢咲トンネルが建設され、道路部分は供用開始したが、鉄道部分は躯体の準備工事にとどまり、これ以外の工事は着手されなかった。当時の夢洲では、鉄道の収支が成り立たないため、大阪市行政評価委員会の答申によって事業休止となってしまう。

しかし2018年に大阪・関西万博の開催が決定すると、軌道系交通アクセスの必要性が高まり、2019年にコスモスクエア~夢洲間の事業再開が決定。中央線(Osaka Metro)の延伸区間として、2025年1月19日に開業する予定となった。

残された夢洲~舞洲~新桜島間が、大阪市による「夢洲アクセス鉄道」の検討区間となる。このルートは、「近畿地方交通審議会答申第8号」の「京阪電鉄中之島線延伸部(中之島~新桜島~夢洲)」と重複することもあり、京阪中之島線の延伸として整備することになるだろう。つまり、「北港テクノポート線」は夢洲駅を境に線路規格が異なり、北側は京阪電気鉄道、南側は大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)により運行される。

新桜島駅はユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の北側にあり、夢洲の大阪IRと合わせて京都へ直行できるルートとなる。なにわ筋線が開業すれば、中之島駅で京阪中之島線から連絡できるため、阪和線方面と南海線方面に加え、関空方面からも乗換え1回で夢洲、舞洲へアクセスできるようになる。大きな需要が開通を待っているだろう。

「JR桜島線延伸部(桜島~夢洲)」

桜島線は大阪環状線の西九条駅から桜島駅までを結ぶ路線。1898(明治31)年に西成鉄道として開通し、1906(明治39)年に国有化された。桜島駅への延伸開業は1910(明治43)年だった。以来、桜島の工業地帯への通勤路線として利用されてきた。2001年のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)開業に合わせ、最寄り駅としてユニバーサルシティ駅が開業。大阪環状線との直通運転も行われ、この頃から「JRゆめ咲線」の路線愛称が使われるようになった。

桜島線の夢洲延伸は1994年頃にも検討された。2008年に夢洲をメイン会場とした大阪五輪の誘致活動が始まったからだった。しかし、2001年に北京開催が決定し、招致活動が終了すると、延伸の構想も途絶えた。2009年には、大阪府庁移転計画に合わせ、桜島駅から南下してニュートラムのトレードセンター前駅へ延伸する構想もあったが、移転計画は大阪府議会で否決された。

2012年、大阪府は交通網の環状化を構想した。JRゆめ咲線(桜島線)を南港経由で長居駅まで延伸し、阪和線に乗り入れて天王寺駅に至る。長居駅に大阪モノレールも連絡し、大阪モノレールは堺市まで延伸するという内容だった。これは構想にとどまっている。

そして2024年、改めて北港延伸ルートの舞洲経由夢洲まで検討が始まる。JRゆめ咲線(桜島線)延伸の利点は大阪駅まで直通できること。2014~2016年に新大阪~桜島間の臨時列車が運転されたこともあり、この列車を復活させて舞洲まで到達すると、「新大阪~夢洲」直行便を設定できる。「JRゆめ咲線」の愛称には、たびたびささやかれた「夢洲」「咲洲」延伸の願いも込められているようだ。

長らく構想止まりだったそれぞれの路線で、延伸計画がようやく動き出す。財政などの課題も多いが、大阪IRの集客力を考えると、必要な路線ばかりといえる。これら「夢洲アクセス鉄道」が、大阪IRの成功の鍵を握っている。