アジア太平洋放送連合(ABU)が主催するABU賞の授賞式が22日(日本時間)、トルコ・イスタンブールで開催され、今年4月4日にフジテレビで放送されたドキュメンタリー番組『元日の大震災 日本航空石川野球部 ~つながる絆、恩返しの甲子園~』が審査員特別賞を受賞した。
この番組は、2024年元日に能登半島を襲った大地震で住むところも練習場も失い、様々な問題に直面しながらも甲子園を戦った日本航空石川野球部に密着したスポーツドキュメンタリー。最も被害の大きかった被災地の輪島から、遠く離れた山梨で練習をする球児たちの“今、野球をしていいのか”という葛藤を軸に描いている。
避難所に家族を残してきたことに悩む部員の心情、バラバラになりかけたチームが一つになっていく過程、そして部員たちと遠く離れた避難所の人々との心が通い合う様子が丁寧に紡がれている。甲子園ではキャップの裏に“笑顔、感謝、恩返し”という言葉を書いてグラウンドに立った野球部員たち…故郷を思ってつづったその文字は、この言葉以上の意味を持つことに気付かされる。
「野球部員たち、そして被災地の人々がどんな思いで日々を送っているかを一人でも多くの人に知ってもらいたい」という制作陣の熱い思いも評価され、今回の受賞となった。
アジア太平洋地域最大級の番組コンクールであるABU賞は、ABUに加盟する放送機関が制作したテレビ・ラジオ番組の中で優れた作品に贈られる賞で、今年は、加盟機関から、テレビ部門、ラジオ部門、デジタルメディア部門を合わせて342作品の応募があった。審査員特別賞は、最終選考に残った全ての番組の中から、最終審査員によって選ばれるもので、その題材、完成度、制作価値によって、審査員に特別なインパクトを与えた番組を表彰するもの。この賞は必ずしも毎年授与されるわけではなく、最終審査員が適切と判断した場合のみ授与される。フジテレビが同賞を受賞するのは、『ザ・ノンフィクション ボクと父ちゃんの記憶 ~家族の思い出 別れの時~』(2022年)以来2度目。
コメントは、以下の通り。
■プロデューサー:藤田昌弘氏(フジテレビ スポーツ番組制作部)
「本当に多くの人たちが取材に協力してくれました。できればその方たち全員を登場させてあげたかったのですが、作品のテーマを表現するのに泣く泣くカットしました。今回の受賞は制作した私たちではなく、石川の被災されたすべての方々が受けた賞です」
■ディレクター:嶋雄士氏(クロスロード)
「“笑顔、感謝、恩返し”を胸に甲子園を戦ったあと、初めて石川の母校に帰った部員たちは、落ち込むのではなく終始笑顔でした。"被災地のために"数々の試練に立ち向い乗り越えてきた彼ら。この時の笑顔はこれから訪れるであろう、更なる試練も、この三つの言葉を胸に立ち向かう"覚悟の笑顔"だと感じました」
■制作統括:高木健太郎氏(フジテレビ スポーツ推進部)
「このドキュメンタリーは、野球部員たちの葛藤、避難所の人々の心の揺れ、そこから見える被災地の現状を一人でも多くの人に知ってもらうため、セオリーにはとらわれない演出で制作しました。まだまだ復興には長い年月が費やされます。ほんの少しでも、この作品が被災地の方々の心の支えになれたらと願っています」
(C)フジテレビ
【編集部MEMO】
『ザ・ノンフィクション ボクと父ちゃんの記憶 ~家族の思い出 別れの時~』は、若年性認知症の父の介護で揺れる息子と、その一家のひと夏を見つめたドキュメンタリー。かつてはスーパーマンのような存在だった父の記憶から家族の思い出が消えてゆくという、誰の家族にでも起こりえる苦悩と現実を描いたことが評価された。