全国の特産品を国が地域ブランドとして保護するGI制度に福島県の「南会津」が日本酒の産地として9月に指定を受けた。これをうけ、仙台国税局がGI南会津のスタートアップイベントを、10月21日に八芳園にて開催。当日、会場では日本酒アドバイザーによる基調講演や蔵元を交えたトークイベントのほか、GI指定された日本酒と南会津食材を使った料理が振る舞われた。
「GI南会津」って?
そもそもGI制度(地理的表示保護制度)とは、原料や品質など一定の基準を満たした特産品などについて国が産地の表示を認め、地域ブランドとして保護する制度。
国内では、北海道夕張市を生産地とする「夕張メロン」や、秋田の代表的な燻製(くんせい)干しのたくあん漬け「いぶりがっこ」などがあるほか、日本酒(清酒)においては「GI長野」や「GI灘五郷」など、20に満たない日本酒の産地が登録されている。
また、国際的にも広く認知されているGI制度は、世界100を超える国と地域でも導入され、代表的な例としてボルドーワインやブルゴーニュワインなどが挙げられる。このGIマークを表示することでブランド価値が高まり、今後、海外でのブランド保護に向けても有効だという。
今回指定されたGI南会津のマークを表示できるのは、福島県南会津町産の米と水を原料に町内で製造・貯蔵・瓶詰めされた日本酒の中から、味や色、香りなどの審査に合格したものが対象。
本イベントで基調講演を行った福島県日本酒アドバイザーを務める鈴木賢二氏は、福島県全体のお酒の特徴を「芳醇・淡麗・旨口」と説明した上で、GI南会津の日本酒の特徴について解説した。
南会津は、急しゅんな山々に囲まれた豪雪地帯であり、阿賀川や伊南川の上流域に位置している。つまり、気温が低い環境下でミネラル分の溶け込みが少ない豊富な軟水を使った酒造りがかなうエリアなのだ。
鈴木氏は「低温下で醸造する最大のメリットは、吟醸香が高くなるため、味がきめ細かく上品になりやすい。軟水で醸造するメリットも低温下と同じで、発酵がおだやかになるため、きれいな甘みが出やすいといった特徴があります。その結果、南会津のお酒は福島県のお酒の特徴である芳醇・淡麗・旨口が強く表現されやすいのです」と説明した。
今回、GI南会津に認定されたのは、国権酒造、開当男山酒造、会津酒造、花泉酒造の4蔵元の全7銘柄。イベント当日はこの7銘柄の中から4種のお酒が、南会津食材で作った料理4品にあわせて振る舞われた。
GI南会津の日本酒は、総じて口当たりがやわらかく、米由来の優しい甘みと酵母の特徴であるフルーティーさが引き立てられており、会場のゲストたちもこの美酒と美食のペアリングに舌鼓を打った。
蔵元の想いとは…?
蔵元は今後、GI制度をどのように活用していくのだろうか。展望や想いを聞いてみた。
開当男山酒造の渡部謙一醸造元は、「GIの制度を消費者のみなさんに知ってもらうことが一番だと思います。また、海外のほうがGIの認識は高いので、それにあわせて今後海外にも展開していきたい」と語った。
次に、国権酒造 代表取締役の細井信浩氏は「日本におけるGIの認知度はまだまだ低いですが、ヨーロッパ、特にフランスなんかでは関心度が高い。今回、GI認定を取得したばかりにもかかわらず、イギリス人から『GI取ったんだって』と連絡がきたほど。また、GI指定の範囲が狭ければ狭いほど、価値があると見られやすいんです。単独の町内での指定は日本初なので、これをいかに活用できるかを考えています」とした。
花泉酒造 代表取締役の星誠氏は、今後の展望を次のように述べた。
「GI南会津といえば4蔵がこういう酒造りをしてる、こういう味わいなんだ、というのを海外の人に深く知ってもらうことが大事だと思っています。日本酒という文化を多くの人に知ってもらうためには、"地域性を生かした"という点がより重要だと考えています」
続けて、"地域を生かした酒造り"の中でも米に着目し、「耕作放棄地といって、近年どんどん米が作られない場所が増えています。耕作放棄地が増えるということは町自体がさびれていくんです。ですが、酒造メーカーが酒造好適米(酒米)を町に持ってくることで、耕作放棄地が減ったり、町の仕事が増えたり、住民の利益が少しでも増えていく――。日本酒を造ることで、町内が少しでも豊かになっていけば」と、その想いを伝えてくれた。
最後に、会津酒造9代目杜氏である渡部景大氏は、「GIの認知度が高い海外でGI南会津をアピールし、そこで認められたものを国内に持ち帰りたい。外で認められたものを持ち帰ったほうが説得力があったり、興味を持ってもらえたりすると思うんです。そして、最終的には、南会津全体に興味を持ってもらえたらうれしいです」と、笑顔で語った。
いずれの蔵元も、日本でGIの認知度を高めていくとしつつ、GIへの理解が深い海外での展開に積極的な姿勢を見せた。自然豊かな南会津の酒が、日本から飛び出し異国の地でどう楽しまれるのだろうか。GI南会津の魅力を伝える酒蔵の挑戦は始まったばかりだ。