ROMS・コマースロボティクス・ロジテック3社が共催する、「物流現場の実態と未来~ロボット×システム×人材 各分野で第一線を走る企業の代表が物流業界の実態/課題/未来の各テーマで鼎談~」と題したウェビナーが9月4日、行われた。
2024年4月からトラックドライバーの時間外労働時間を年間960時間に制限する「働き方改革関連法」で発生する、物流業界における「2024年問題」。物流の現場で現在起きていることの実態をはじめ、課題、業界のあるべき方向性を、業界の第一線を走る3社の代表としてそれぞれの方面から話し合った。
物流業界のロボット化の現状と課題
登壇者は、モデレーター役を務めるロジテック代表取締役・川村将臣氏、コマースロボティクス代表取締役・伊藤彰弘氏、ROMS 代表取締役・前野洋介氏の3名。
ロジテックは、人材に強みのある物流会社、コマースロボティクスはWMS(倉庫管理システム)、 ROMSは物流業界向けのロボティクス、自動化ソリューションサービスを提供している企業だ。
川村氏はまず「自動化やデジタル化という表現自体は非常にメジャーになっている。やったほうがいいことはわかっていて検討されている企業が多いが、取っ掛かりとして最初はどこから手をつけていけばよいのか?」と質問。
これを受け、伊藤氏は、「それぞれのお客様の課題感というのが一番大事な部分。そもそも課題がなければデジタル化とかロボット化というものはあまり必要ないのではないか。課題がないなら何も必要ない」と答えた。
その上で、物流業界の課題は大きく2つの流れがあるとする。1つ目が"人材不足"。
「労働人口が減少していて長期的に人材が不足していく。あとは高齢化。それから生産性が低い。これらが同時に来ている。物流業界特有の問題としては、2024年問題もある。残業時間の制約が出てきて働けなくなる。そういった環境の変化があるから、その結果として1つの選択肢としてデジタル化とかロボット化というのがある。ただし、そもそも論としてEC物流に関して本来は人間が担うのがいい。仕事がある、つまり『人が働く場』が提供されている。だから人間でやったほうがいいと思う」と伊藤氏。
また、自動化の問題点として「ロボットは柔軟性を乏しくしてしまう。人でできるところは人でやったほうがいい。それがうちの“ハイブリッド稼働”という考え方のベースにあるところ」と前野氏は語る。
「いろんなお客様と話す中で、デジタル化とか自動化するなら、逆にカスタマイゼーションをやめましょうと。個々の現場で、その現場固有のやり方をしているのに、後から入ってくる手法や、自動化で何かを変えようとすると、逆にボトルネックになっている」と問題点を指摘。
「適切な手順でいうと、デジタルを使って標準化して、そこから自動化、かつこの自動化も『どこが本当に自動化したほうがいいか』を工程から生産性、生産技術の観点ですべて見た上でやっていくことがすごく大事」と前野氏は見解を述べた。
物流業界の「2024年問題」
もう1つの流れとして、2024年問題や物流クライシスの問題がある。
伊藤氏は「Eコマースの分野は小さい会社も割と多い。個人で始めて、そこからビジネスが成長していくというモデルなので、大規模に出荷するようなお客様の比率は数パーセント。月間出荷数が1,000~2,000件くらいの会社が比率的には多い。だいたい3PL(サードパーティ・ロジスティクス)に物流を委託している会社が多いが、出荷数としては月間1,000とか数千件くらいが多い」と現状を語る。
そのような状況のなか、「EC物流をやっている3PL側も自動化したくても、お客様が流動的だったり規模がそんなに大きくなかったりする。ロボットとかを入れてもなかなか回収できる目処が立たないようだ。荷主との契約も1年契約など、大きい取引先が抜けたら稼働率が急に下がってしまう。ロボットとか機械化で自動化したくても、導入後の保証がないので、そこが一番困っている。ある程度の企業規模がある大手のメーカーやECであれば、ロボット化や機械化は自社の責任で導入できると思うが、3PLのように中小企業を束ねている会社だと自社でやるには投資のリスクが大きすぎる」と課題を明かす伊藤氏だった。
また、前野氏も「メーカー物流の場合、荷姿がだいたい決まっていて、ケースもだいたい標準化されているので、1日どれくらい出てくるかがだいたい分かっているので自動化しやすい。物流クライシスの視点よりは、いかに効率化していくかという目線で自動化をしている印象です」と述べる。
伊藤氏も「3PLも大手と中小で毛色が違うと思うが、大手と中小で共通している事項でいえば、荷主との契約年数が短すぎる点。荷主との契約が3~5年だからそれ以内に回収したいとあって、そこがネックになることは結構多い」と補足した。
物流業界の人手不足問題
大手と中小で異なるもう1つの問題は、人材不足だ。
「中小企業では人手不足が深刻。かつ、他社比較においてビジネスにおける優位性をどう出すかという部分で手詰まりしているケースが、今相当出始めている」と前野氏。
また、川村氏は人材派遣・紹介も含めたサービス提供をする物流会社の観点から実状を次のように語った。
「人手不足という意味で、中小企業が仕事を受けた後に、自分たちだけでは人手が足りないから助けてくれと言われます。でも同じ仕事を直接メーカーから受けたときと、その下請け会社から受けたときで、例えば時給ベースの平均で100円、200円違う。物流費という観点から考えてもそこは大きい差でしょう」
続けて前野氏は3つの課題があり、1つ目は「"生産技術"という考え方が物流の中であまりない」と指摘。
「全工程を見た時にどうしたほうがいいかというよりも、この部分だけを改善しようという動きが多くて、そこだけ一気に改善したところで前後工程があまり改善されてなければ、そこだけ能力が高すぎるという議論に陥りがち。全工程を見た場合、本当にそんなに必要なのかとなる。違うところでちゃんと平準化、標準化していけば、もう少し良くなるのではないかいう話は結構ある。中小、中堅規模の企業になればなるほどそれがより顕著になる。加えて、従来はマニュアルでやっている中で自動化を進めると、自動化のところで結構他のしわ寄せになるという考え方も強かったりする」(前野氏)
次に"人件費の安さ"を前野氏は挙げる。
「人件費との比較で自動化の話をすると、まだまだ時給1,000円とか時給1,100円での計算で比較される。そもそも『人を雇えないから自動化」という話なのに、なぜ人件費視点での比較をするのか。安い人件費と比較されたところで自動化は基本的にペイしないので、まだまだ考え方を変えてもらう必要がある」と話した。
最後の課題は"投資と回収"だ。
「荷主との契約期間が短すぎるので、投資という選択を取れないところが多い。経済産業省などの物流会社や荷主向けの補助金を活用し、いろいろとサポートして採択・交付決定している会社はあるが、特に中小の物流会社は荷主との短すぎる契約期間を理由に、その契約がなくなったら……と判断し、柔軟性を確保するなら『人手のほうがまだどうにかなる』と結論付けて投資に至らない。短期的にはいいかもしれないが、中長期的に見たときに本当に成り立つのだろうかと、いつも疑問に思い、それをどう解決していくかが大きな課題」と危惧していた。
物流業界の将来
昨今の物流クライシスと言われる時代において、今後も生き残っていける会社像をそれぞれ次のように話した。
「長期的なトレンドとして日本国内は人手不足という問題はずっと続く。そうなってくると、ロボットとか機械化というのは不可欠で、機械を入れた状態で仕組み化、サービスを作っていけるような会社が理想像」(伊藤氏)
「機械化・自動化は不可欠。自動化・ロボット化・機械化に期待しすぎないこと。皆さんが思っている以上に、人のほうが基本的な生産性は高い。それを理解し、踏まえて仕組み化できるような会社がこれから生き残っていくと思う」(前野氏)
一方、機械化・自動化の禁じ手を「一気に大がかりに自動化すること」と語る。
「下手すると二桁億円が普通に発生する世界。全然うまくいかなくても後戻りできない。なるべく小さく、スタッフもひっくるめて会社としての自動化だったり、その前のデジタル化もひっくるめたナレッジをきちんと溜めていける会社、そういう姿勢が生き残っていくためには必要。まずはスモールスタートでいいのでやってみる、というところがすごく大事だと思う」(前野氏)
「無数のいろんな現場を見るなかで、自動梱包機や大型の仕分け機を入れた何社か倒産しているのを目の当たりにしています。理由は場所を取るから。場所を取った上に、利益も生まないので日々の収支も合わないとなるので、まずは小さめのものから」(伊藤氏)
アメリカでは、「人がすぐに辞めてしまう」という理由から物流の自動化・機械化が一気に進んだ。それに対し、日本では人手不足という側面から自動化や機械化が進んでいくだろうというのが3人の共通した見解だ。
しかし、現場で抱える現状の問題点として「弊社の場合でも日雇いのアルバイトとして、毎日違うスタッフが業務する際、初めてなのでうまく使えないというケースがすごく多いのが、まだまだ自動化のハードルが高い要因でしょう」と前野氏。
「日雇いスタッフにも使いこなせる自動化システムというのを導入しない限りは、使ってもらえなくなるという問題が出てくるので、そのあたりを相当意識して作っていくというところもすごく大事」と強調した。