皇居東御苑内の皇居三の丸尚蔵館で、展覧会「花鳥風月―水の情景・月の風景」が始まりました。花鳥風月は、自然の美しい風景を表す言葉ですが、今回はそうした四季折々の景色のなかから、特に「水」と「月」の情景をあらわした選りすぐりの絵画や工芸品を、献上や御買上げで皇室に伝えられた収蔵品から紹介しています。

工芸品は、江戸時代から大正時代の漆工や金具などで、例えば今年の大河ドラマでもおなじみ、『源氏物語』を書いた紫式部の姿を表したものも。紫式部は石山寺で8月15日の夜に観た琵琶湖に浮かぶ月から着想を得て「須磨」の帖を書いたと伝わっているそうで、新しい物語を思案する式部の姿を表した蒔絵文台と、湖面にひっそりと映る月を表した硯箱は、1900年のパリ万国博覧会に出品するために、帝室技芸員(※)の作者が明治天皇の御下命を受けて製作したものです。
※明治23年から昭和19年にかけて、美術の奨励と庇後を目的として任命された美術・工芸家

  • 《石山寺蒔絵文台・硯箱》川之邊一朝/1899年

  • 《竹に月蒔絵巻煙草箱》1898年頃

満月が照らす静かな竹林の中をゆるやかに水が流れてゆく情景を描いた煙草箱は、大正天皇より秩父宮雍仁親王が1913年に引き継いだ品。「今ではあまり使われなくなった煙草入れですが、昔は宮内省にお邪魔すると応接間に必ず置いてあって、蓋を開けて、『どうぞ』と勧められることがありました」と、島谷館長。そういった質の高い煙草箱が何点も登場しているのですが、そうした工芸品を鑑賞すると、美術品の振興に皇族・皇室が深く関わってきたことを実感させられます。

  • 萬古焼《金烏玉兎図花瓶》1915年

  • 《塩瀬友禅に刺繍嵐山渡月橋図掛幅》1887年頃

また絵画や書跡は、江戸時代に京都で活躍した天才絵師・伊藤若冲の国宝《動植綵絵》30幅のうち、満月の下で白い花を咲かせた梅を描いた「梅花皓月図」や、のちに帝室技芸員となった上村松園が大正天皇の后である貞明皇后の御下命を受けて制作した「雪月花」などの名品が紹介されています。

  • 右:国宝《動植綵絵 梅花皓月図》伊藤若冲/江戸時代(18世紀) 左:《寒林幽居》小室翠雲/1913年

  • 《雪月花》上村松園/1937年

雪月花は春の桜、秋の月、冬の雪のことで、四季の中で最も美しい風物を指し、平安の典雅な宮中文化を題材に自然を愛でる姿と心を描いたこの三幅を、20年以上かけて完成させた松園は、自らの画業の一つの頂点と評したとか。

  • 展示風景

金曜・土曜は夜間開館

なお前回の展覧会「いきもの賞玩」から始まった夜間開館は、今回も継続。毎週金曜と土曜は20時まで開館しているので、お仕事帰りに美術鑑賞がてら、夜の皇居東御苑から秋の月を眺めて、花鳥風月を味わってみるのもいいですね。季節によって表情を変える水と月の多様な表現を堪能できる「花鳥風月―水の情景・月の風景」は、10月20日まで開催です。

  • 《夕月》藤井浩祐/1922年

■information
「花鳥風月―水の情景・月の風景」
会場:皇居三の丸尚蔵館
期間:9月10日~10月20日(※9/16、23、10/4は開館)、月曜休、9/17、24、10/15休
時間:9:30~17:00(毎週金土・は20時まで※9/27と10/18は除く)
料金:1,000円/大学生500円/※高校生以下及び満18歳未満、満70歳以上、障がい者手帳提示の方および付添者1名まで無料