北海道新聞の8月24日付全道版朝刊にて、JR北海道が来年3月のダイヤ改正で根室本線(花咲線)東根室駅の廃止を検討中と報じられた。同紙の8月28日付釧路版朝刊によると、根室市長の石垣雅敏氏は8月27日の定例記者会見で、廃止案を知っていると語ったという。

  • 日本最東端の駅として知られる東根室駅。廃止を検討中だという

JR北海道は9月4日、「黄8線区(輸送密度200人以上2,000人未満の線区)における事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画」を公表。花咲線の実行計画において、具体的取組内容のひとつ「徹底したコスト削減」の一環で「ご利用の少ない駅見直し(東根室駅など)」と明記した。

東根室駅は、「日本の鉄道で最東端にある駅」として鉄道ファンから知られ、訪れる観光客も少なくない。歴史を振り返ると、国鉄時代の1961年2月、花咲駅(2016年廃止)と根室駅の間に設置されたが、当初は正式な駅ではなく、「仮乗降場」という扱いだった。

仮乗降場は地域を統括する鉄道管理局の裁量で設置できる。便宜的に列車を停車させ、乗客扱いをする場所だった。正式な駅ではないため、きっぷを買う際は正規の駅を乗降する建前になっていた。つまり、根室駅で乗車して東根室駅で下車する場合、根室駅から花咲駅までのきっぷが必要。逆方向も同様で、東根室駅で乗車し、根室駅で下車する場合、花咲駅から精算する必要があった。

東根室駅が設置された背景として、根室市の市街地拡大があった。根室は親潮由来の漁場に近いため、漁業や水産加工業が盛んである。1961年といえば、「神武景気」と呼ばれた好景気で、水産加工業も成長していたことだろう。工場や住居の地域が拡大していく中で、根室市も東根室駅の東側で光洋団地を計画し、1962~1977年に建設していった。

東根室駅は根室駅から1.5kmという短距離のため、設置当初は加減速性にすぐれたディーゼルカーのみ停車したという。仮乗降場の利用者は目論み通り多かったと見えて、設置から7カ月後の1961年9月、国鉄東京本社から正式に「駅」として認可された。

それまで日本最東端の駅は根室駅だった。しかし、根室本線は東側から根室駅に回り込むルートで、そのルート上に東根室駅ができたため、1961年から日本最東端の駅は東根室駅に移った。

  • 根室駅と東根室駅の位置(地理院地図を加工)

余談だが、Wikipediaの「過去の鉄道に関する日本一の一覧」に日本最東端の駅の変遷が掲載されている。日本初の最東端駅は鉄道仮開業時代の品川駅、2代目の最東端駅は鉄道正式開業時の新橋駅(後の汐留駅)だった。最北端の駅も同じである。そりゃそうだろうと思う。3代目として北海道の札幌駅になり、以降は北海道の鉄道延伸とともに東へ移っていく。1921年に根室駅に達したが、1929年から根室半島方面の根室拓殖鉄道にあった婦羅理駅、歯舞駅に移り、1959年に根室拓殖鉄道が廃止されて根室駅に戻る。そこからたった2年で東根室駅にタイトルを奪われた。2025年に東根室駅が廃止されると、根室駅は64年ぶりの「タイトル奪還」となる。

東根室駅を廃止する理由は

東根室駅が廃止される理由は、これまでJR北海道が駅を廃止した理由と同じ。「利用客の少なさ」と「経費削減」である。JR北海道は2008~2022年の平日1日平均利用客10人以下の駅について、廃止または自治体管理を提案する方針としている。このとき東根室駅は10.8人だった。ただし、乗客のほとんどが根室高校へ通う高校生だった。

「根室地方総合開発期成会根室本線花咲線対策特別委員会」が2017年に公開した「花咲線存続に係る検討・分析報告書」を見ると、「北海道根室高等学校の通学利用者は、最寄駅である東根室駅にて降車した後、徒歩で登校している」とある。この高校生たちが去ってしまうと、平均利用客はゼロに近づく。

おもな利用者である高校生が去る理由は、卒業だけではない。通学に便利なバス路線が設定されたからでもある。2023年4月、根室交通バス落石線がルートを変更して復活した。1日1往復で、水曜日のみ昼間の下校便が増便される。だった1往復ではあるが、東根室駅に停車する1日11本の列車のうち、登校に使える便は1本しかない。しかも根室高校から東根室駅まで徒歩20分に対し、バスのほうは根室高校前バス停がある。

このバス路線は花咲線の落石駅、西和田駅の近くを通る。しかし根室行の列車が到着するより先に発車するので乗り換えられない。おそらく高校生はバス沿線の集落に住んでいるのだろう。東根室駅が廃止になれば、落石駅で接続するバスがあるかもしれない。あるいは根室駅へ直行し、バスの納沙布線に乗り換えれば、8時半に根室高校前に着く。

  • 根室交通バス落石線のルート(地理院地図を加工)

高校生以外の生活者はどうかというと、ほとんどがマイカー利用だろう。東根室駅から根室駅まで1.5kmという近さであり、徒歩だと30分かかるとはいえ、自転車だと9分である。前出の光洋団地から根室駅までも自転車で12分とのこと。設備が整い、きっぷも買える根室駅に直接向かったほうがいい。東根室駅は駅周辺の人々にとって利用価値が低かった。高校生の利用がなくなったら、存在する理由がなくなる。

JR北海道にとっては、駅がなくなって通過できることで、速達性も若干上がる。年間100万円程度という経費も減らせる。100万円の中身のほとんどは除雪費であり、無人駅だからと放置できない。ホームの線路際は雪溜まりもできて線路を塞ぐ。ホームの積雪を放置すれば、わずかな乗客に怪我をさせるリスクもある。では100万円を自治体が引き受けられるかといえば、地方自治体にとって100万円は大金といえる。

根室市長は廃止したほうが良いという考え方を示した。8月27日の定例会見で、JR北海道の方針に理解を示し、「観光にはプラス」と評した。これはなぜだろう。

2つの最東端駅をひとつにまとめる

北海道新聞の記事を見ると、「市民、関係者らが困惑」とあり、地元の人々にも話を聞いている。札幌に行くとき使うという近隣の老人は、64年前に駅ができて喜んだ記憶もあるのだろう。ネット上でも「残念」の声が多い。

JR北海道が挙げた平均利用客数は平日に限定している。しかし、「日本最東端」の魅力で訪れる人は土休日に多いはず。根室市の観光協会が根室駅前で配布している「最東端駅 東根室到着証明書」は、2023年度に6,425枚と過去最多になった。とはいえ、「ご自由にどうぞ」方式だから、全員が訪れているとは限らない。2024年度に実施した配布時の調査では、回答者の46%が実際に東根室駅を訪れたという。見方を変えれば、半数以上は実際に訪れていない。

日本最東端の駅という他にはない特徴を得ているにもかかわらず、東根室駅を盛り上げ、鉄道利用につなげていくしくみが乏しい。最東端駅証明書も根室駅付近で配布しており、実際に行かなくても入手できる。2024年度の比率を2023年度の配布数に当てはめると、2,955人になった。すべて土休日に訪れたとすると平均25人にもなるのだが、全員が列車で来たとは限らない。イベント列車等の取組みはあったものの、乗降客増に結びつかなかったようだ。

筆者がこどもの頃に読んだ鉄道書だと、「日本最東端の駅は2つある。有人駅だと根室駅、無人駅では東根室駅」「日本最東端の根室駅、本当は隣の無人駅の東根室駅」という紹介が多かった気がする。昭和40年後半の話だから、東根室駅の開業から10年ほど。鉄道趣味の世界では、「最東端は根室駅」という固定観念が強かったかもしれない。

この影響もあり、筆者にとって「日本最東端の駅は2つ」という感覚が強い。日本最東端の駅はややこしいと感じている。東根室駅が廃止され、根室駅を名実ともに日本最東端の駅として、ひとつにまとめてもらったほうがすっきりする。根室市にとっても、無人駅は盛り立てづらいだろう。「日本最東端の根室駅」のほうが、根室市側も観光集客しやすいと思われる。

根室市の「第9期 根室市総合計画」の序論を見ると、「観光客の入込数に比較し、宿泊客が少ない典型的な通過型観光であり、観光客の大半が日帰りとなっています。さらにイベントがある夏季集中型の形態となっていることから滞在型観光への転換や入込数の平準化が課題となっています」と書かれてある。

この課題を改善するためにも、根室駅を拠点に「日本最東端の駅のまち」を強く推し出したい。「日本一早い日の出」を「初日の出」の1日だけでなく、通年観光にしたい。それは花咲線(根室本線)の利用推進策にもつながる。東根室駅を好む人には申し訳ないが、「最東端の駅」の「選択と集中」である。無人駅にこだわるより、根室駅を中心とした活性化に取り組み、花咲線そのものを維持する策を考えたほうが良いと思う。