甲府盆地の自然豊かな丘に「サントリー登美の丘ワイナリー」はある。今年で創設115年を迎えた、サントリーを代表するワイナリーだ。約50の区画からなる自園畑では、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、シャルドネ、甲州などのワイン用ぶどう品種を栽培。一般向けにはワインショップを展開し、見学ツアーも実施している。8月下旬、現地で取材した。

  • サントリーのワイン事業について、現地で聞いてきた

■ワインショップにて

サントリー登美の丘ワイナリーは、JR中央本線「甲府駅」からタクシーで約30分という好立地。ワインショップでは自園産ぶどう100%のワインをはじめ、様々な日本ワインを取り扱っている。

  • サントリー登美の丘ワイナリー(山梨県甲斐市大垈2786)。晴れていれば富士見テラスからは広大なぶどう畑、甲府盆地、富士山の絶景を望むことができる

  • ワインショップをのぞいてきた

ショップでは、日本固有のぶどう品種「甲州」について「1000年近くの歴史を持つ日本の土着品種で国内栽培に適したぶどう」、そして「マスカット・ベーリーA」について「欧米の種を交配させ、日本の気候風土に合わせて作られたぶどう」と紹介する。

  • 日本固有のぶどう品種を紹介

  • 「甲州」の上品で繊細な味わいは、世界からも高い評価を得ている

店内のディスプレイでは『SUNTORY FROM FARM登美 甲州 2022』が「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード2024」において最高位のBest in Showを受賞したこと、また『同 登美の丘 甲州 2022』が金賞、『同 甲州 日本の白 2021』などが銀賞を獲得したことを伝えていた。

  • 日本から出品されたワインがBest in Showに選ばれたのは史上初の快挙だそう

  • 『SUNTORY FROM FARM登美 甲州 2022』は9月10日よりサントリー登美の丘ワイナリー、ECサイト「SUNTORY FROM FARM Online Shop」などで数量限定発売を予定

このほか、厳選された畑からとれたぶどうを匠の技で磨き上げた「シンボルシリーズ」、サントリーの「登美の丘」「塩尻」から自信を持って提供する「ワイナリーシリーズ」、日本固有品種の特徴を最大限に引き出した「品種シリーズ」などを販売。気になる品種を15ml、30ml、45mlの好みの量で試飲できるテイスティングカウンターなども設置している。

  • (左から)『SUNTORY FROM FARM登美の丘 ロゼ2022』(6,600円)、『同 登美の丘 ブラック・クイーン&マスカット・ベーリーA 2020』(5,940円)、『同 登美の丘 シャルドネ2021』(5,940円)

■ツアーに参加

ぶどう畑の見学ツアーに参加した。案内役のサントリー ワイン生産部の大山弘平氏は「本日は台風の影響で生憎の雨模様ですが......」と前置きしつつ「登美の丘は、年間を通じて降水量が少ない土地です。富士山、南アルプス、甲斐駒ケ岳、八ヶ岳など高い山々に囲まれているため雨雲が近づきにくいんですね。昼夜の寒暖差が大きく、降水量が少なく、日照時間が長いという、ぶどう栽培に最適な条件が揃っています」と話す。

  • カベルネ・ソーヴィニヨンの畑の前で。登美の丘ワイナリーでは、テロワール(ぶどう畑を取り巻く自然環境)の個性を最大限に活かすため約50区画に分けてぶどうを栽培している

  • 畑はすべて南向きの斜面に広がっており、日照時間も長い

「メルロは7月下旬から色づき始めます。しかし今年は(例年に比べて)夜の気温が下がらず、ぶどうも夜眠れない状態が続きました。そこで新梢の先端を切除し、脇芽を育てることで成熟の時期を遅らせる『副梢(ふくしょう)栽培』を行っています。これは山梨大学さんと2021年から共同研究している栽培方法です」と大山氏。

  • サントリー ワイン生産部 登美の丘ワイナリー 栽培技師長の大山弘平氏

  • 収穫期に向けて成熟期を調整中。これから甘さが増していく

一方、甲州については「糖度が上がりにくい品種です。今後、世界の白ワインに肩を並べる存在にしていくために、いかに”凝縮感”を高めていけるか。いま試行錯誤しています」と明かす。具体的には、適した圃場を選ぶ(2014年~)、適した系統を選んで植える(2015年~)、甘熟ぶどうだけを収穫する(2020年~)といったチャレンジを続けている。

  • 広大な自家ぶどう園を持つ強みを最大限に活かして、様々な取り組みに挑戦中

「水はけの良い南東向きの斜面に棚仕立てで育てたぶどうは、香りのボリュームが出て凝縮した味わいのワインになります。また日当たりの良い真南向きの斜面に垣根仕立てで育てたぶどうは、心地よい渋さがあって勢いがある味わいのワインになります。サントリーではこれまでの甲州の概念を超える”凝縮感”を追い求めて、収穫の直前まで徹底した取り組みを行っています」

  • ぶどうの生育状況により、ワインの味わいはいかようにも変わる。奥が深い

このあと熟成庫を見学した。ここは1959年に完成した施設。山をくり抜いた半地下構造で、室温が年間を通じて16~18度程度に保たれるという。

  • ワインの熟成に適した温度・湿度に保たれる熟成庫

はじめに訪れたのは、発酵後の若いワインを樽に詰めて熟成させる樽熟庫。なるほど外気温(30度)と比べるとヒンヤリとして涼しい。ここには最大で250樽ほどが入るそうだ。続いて地下道を抜けていくと、たくさんの瓶を寝かせている倉庫にたどり着いた。瓶熟成の段階で、ワインの香り、味わいが少しずつまろやかになり、色合いにも深みが増していくという。

  • こちらが樽熟庫。ほのかにワインの良い香りが漂う

  • 地下には瓶熟成の段階のワイン。施錠された柵の向こうには、庫内でイチバン古いという1966年製のヴィンテージボトルもあった

■甲州を世界ブランドに

この直近の10年で、実は国内のワイナリー軒数が急激に伸びている。サントリーの吉雄敬子氏は「2024年現在で、おそらく500軒まで到達していると推定します」と分析する。それにともない、日本ワインの品質も向上中。海外のコンクールで賞を獲得するワイナリーも増えている。

  • サントリー 常務執行役員 ワイン本部長の吉雄敬子氏

  • 日本ワイン市場のトピックス

こうした状況のなか、同社としては甲州ワインのさらなる魅力強化に努めていく考え。吉雄氏は「日本固有の品種であり、世界的にも評価されているのが甲州です。和食にも合います。サントリーでは甲州を使って世界レベルのワインをつくっていくことで、日本ワイン市場を牽引していきます」と強調する。

  • 甲州ワインを世界に比肩するブランドまで高める

なお登美の丘ワイナリーでは9月より、新・醸造棟の建設にも着工する。設備投資には約7億円をかけた。「より洗練されたワインづくりを目指したものです。新・醸造棟の稼働によって、ぶどうの個性をさらに引き出すことができれば。サントリーでは今後もとどまることなく、中味品質の向上に全力で取り組んでいきます」と言葉に力を込めた。