コロナ禍は、制作者をめぐる環境も大きく変えた出来事だった。野中氏は「『音が出たら負け』は、コロナ禍じゃなかったら通ってないって言われました。1人で静かにやってるんで、飛沫しないというのが通った理由の一つだったので。当時は局内とかで“番組ではなく、コーナー企画だ”と言われたんですけど、時代とマッチングしたというのがありました」と打ち明ける。

天宮氏は「やっぱり“おうち時間”があったことで、日本を含め世界の人たちが家で映像作品を楽しむという機会がすごく増えたと思います。韓国ドラマが盛り上がっていったのも“おうち時間”がきっかけだったような気もするんですけど、そういうふうに世界にこんなに面白い作品があるんだと皆さんが気付ける機会にもなったと思います。そこで、改めて映像って面白いなと思った機会になったと思うので、今だからこそ“頑張って面白いものを作らなきゃな”、“日本の作品も負けないぞっていうのを届けなきゃな”と実感した期間でもあったと思います」と回想。

柳田氏は「自分が働き始めてから一番ぐらいのとんでもないことが世界的に起きて、“今の東京を撮らねば”という不思議な使命感がありました。渋谷のスクランブル交差点に誰もいなくなって全ての広告がなくなって、その中で頑張っている人たちのドキュメンタリーを当時作ったんですけど、今自分がこの世界の状況になったときにこの仕事にたまたま就いたんだから、“やんなきゃ”と思ったんです」と突き動かされた。

丸山氏は「みんな圧倒的に暇な時間があって、連続でいろんなエピソードを見る習慣が増えたことで、ドキュメンタリーでは特にシリーズ化しようという流れが本当に強くなりました。今までは1つの事件とか、珍しい人をキャラクターにしたドキュメンタリーを作ろうとなったら、1時間とか90分で1本で作って、『NHKスペシャル』でかけるとか、映画祭に応募しようということだったと思うのですが、一つの出来事も2話・3話・4話と作っていくとドラマを見ているかのような気持ちで楽しくシリーズを見られるということになって、これはストリーミングとおうち時間の掛け算で出てきた新しいことなんじゃないかなと思います」と変化を捉えた。

  • 司会を務めた辻よしなりアナ

日韓でのお金のかけ方の違い

コロナ禍による“おうち時間”も背景に、サブスク系の動画配信サービスが大きく成長したことに伴い、番組の海外進出も伸びており、「世界との距離が縮まった」と実感する4人。

『不適切にもほどがある!』は、Netflixで190カ国に配信され、韓国でもリメイクの引き合いがあるというが、天宮氏は「最初は国内の皆さんに楽しんでもらえる作品をということで考えていたんです」と明かす。そして、「国内ヒットとグローバルヒットは、作品の系統や趣向が異なるものだと思うので、世界の人のために作った作品が、必ずしも日本でウケるものとは限らないということもあります。なので、どちらの視点も持ちながら、“今回はまずは日本の人に楽しんでもらおう”とか“今回は世界的なヒットを狙おう”とか、作品によって手法を変えながら作っていくことになるのかなと思います」と解釈。

野中氏は「『はじめてのおつかい』がめちゃくちゃ海外で売れているのは、自分たちの日常だと思っていたものが、海外から見ると“子どもを一人で歩かせるなんて日本人は頭がおかしい”ということから、“うちの国じゃ見られないから見たい”になっているんですよね。だから、逆に狙いに行くと外すこともあって、『音が出たら負け』も狙ってないのに海外で売れたんですけど、“これは海外に売れてる”っていう邪念が出てきたら日本での放送が終わって3年半くらい凍結されて、8月19日にまた放送させてもらうことになりました(笑)」と実体験を語った。

この海外展開で、日本の一歩も二歩も先を進むのが、韓国。野中氏は「韓国の有名なドラマの会社の人と話していたら、日本はお金があると、爆破するか、海外(ロケ)に行くか、ギャラの高い人を集めるかからダメだと直接言われました(笑)。韓国は、本にお金をかけるというんです。脚本家に何千万円払って何人も用意するそうで、それくらい考え方が違ってるんだなと思いました。それに韓国はスタジオ主導なので、テレビ局に対して制作会社が“買うか?”という立場で、優位性が日本と逆。制作側が川上にいるので、テレビ局に対して“これだけいいもの作ったから買うだろう”ってなれるんですけど、日本はテレビ局から“この予算でやれるか?”なので、韓国まであと何年かかるんだろうという感じですね」と衝撃を受けたそうだ。

古くは『冬のソナタ』など、韓国ドラマを買い付けてきたNHKエンタープライズに所属する丸山氏は「韓国ドラマが流行り始めた頃は“日本の人も見てくれるんだ”という驚きがあったわけですが、『イカゲーム』とかアジアの人が主人公のアジアの作品を、いろんな国の人が同時に見てトレンドが起きるというのは、コロナの頃にたくさん見て、すごいなと思いましたね」という。

そんな中で、TBSは今年5月、「Studio Dragon」などを持つ韓国のCJ ENMと、地上波ドラマ・劇場映画を共同制作することを発表。天宮氏は「かなり密に、それぞれの制作過程の違いなどを共有したり、ディスカッションしたり、それぞれの撮影現場に見学に行くというのも両方でやって、お互いの良いところを生かして一緒に作品を作っていきましょうという動きが活発です」と報告した。