軽自動車と小型車を得意とする自動車メーカーで『魔改造の夜』での活躍も記憶に新しいスズキが未来に向けた技術開発の方針を発表した。変化の激しい自動車業界でスズキは、今後も小さくて軽くて安いクルマを作り続けられるのか。説明会で聞いてきた。

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    『魔改造の夜』(NHK)の『電動マッサージ器25mドラッグレース』でMブチモーター、T橋技術科学大学との激戦を制したSズキのマシン

まだ軽くできる? クルマを100kg軽量化

スズキには「小・少・軽・短・美」というモノづくりの考え方(行動理念)がある。この理念を今後も突き詰めていくというのがスズキの大方針だ。

技術説明会に登壇したスズキの鈴木俊宏代表取締役社長によれば、「小・少・軽・短・美」なクルマは「まず、動かすためのエネルギーが少なくて」済む。そうすると、電気自動車(EV)であれば電池が小さくて済むし、エンジンを積むクルマなら燃料が少なくて済む。そういうクルマなら使う材料も製造のために使うエネルギーも少なくていいし、使う際のコストや資源リスク、リサイクルの負担も小さくできる。こうして「天使のサイクル」が生まれるというのがスズキの考えだ。今後も「エネルギーを極小化させる技術」に磨きをかけていくという。

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    「小・少・軽・短・美」が生み出す「天使のサイクル」

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    スズキが説明会で発表した技術開発の5つの柱

例えば「軽」の部分については、クルマの「軽量化100kg」に挑戦する。

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    軽いクルマを作ることはスズキのお家芸。ここから、更に軽くできる?

軽自動車「アルト」の歴史を振り返ると、車両重量は世代交代を重ねるつれ、右肩上がりに増加してきた。時代が進むごとに新しい技術は登場するし、安全面での規制も厳しくなるしで、クルマの部品・機能の数は基本的に増え続けていく。重量増加は、クルマにとっていわば必然だ。

そんな状況の中、スズキでは軽量プラットフォーム「ハーテクト」を開発し、8世代目アルトへのモデルチェンジのタイミングで120kgの軽量化を成し遂げた。

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    歴代「アルト」の車両重量の変遷

今後は「更なる10年を見据え、軽量化100kgにチャレンジ」するとスズキ。同社取締役専務役員で技術統括の加藤勝弘さんは、「1部品1グラム」の精神で「小さな積み重ね」をやっていけば不可能ではないと話していた。

とはいえ、ハーテクトを開発する際にも、かなり大幅な軽量化を成し遂げているわけなので、ここから重量を削っていくのは簡単ではなさそう。おそらく、既存の何かをブラッシュアップしていくというよりも、抜本的に変えていかないと100kgも軽くするのは無理なのではないだろうか。

そのあたりについて鈴木社長は、かなり踏み込んで考えている様子。「生活レベルの向上と競争が相まって、クルマは非常に豪華になりましたが、『クルマに要求されるモノって、そういうモノなの?』と再考してもいいのでは」というのが鈴木社長の言葉だ。

例えば、ライバルとなるクルマに負けないために付けているような、ある意味では無駄な部品は、クルマを軽くするため、取り外してしまうことを検討してみてもいいのでは? というような考え方らしい。「樹脂(車内の樹脂トリム)を取っちゃえ!」とか、「バッテリーを取ってもいいのでは?」といったようなことを、社長自らが技術陣に提案しているそうだ。

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    むき出しでも美しいのであれば、樹脂トリム(のような飾り)がなくてもOKというのが鈴木社長(写真)の思いらしい。かなり進んだ考え方だと思う。ただ、技術陣に話を聞くと、樹脂トリムを外して骨組みむき出しでクルマを作るとなると、その部分に塗装をしたり、どうやってエアバッグを取り付けるかを考えたりしなくてはいけないので、それはそれで難しいこともあるとのことだった

必要最低限のEVをスズキが作る?

クルマの電動化については、国や地域によって電源構成が異なる現状と未来予測を踏まえ、EV、ハイブリッド車(HV)、カーボンニュートラル燃料で走るクルマなど、ラインアップのマルチパスウェイ化を進めることが不可欠とする。

非化石エネルギー/再生可能エネルギーの電源構成に占める割合が75%を超えない市場では、今後もHVが主力になるというのがスズキの見方。例えば日本では、2035年に新車販売の7割がHV、3割がEVになると同社は予測する。スズキのHVは現状、12Vのバッテリーを使ったマイルドハイブリッド車(MHEV)が主流だが、今後は48Vバッテリーを用いた「スーパーエネチャージ」を開発していくとのことだ。

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    クルマの電動化に関するスズキの予測。2035年の新車販売は欧州でEV100%、日本でEV3割、HV7割、スズキが得意とするインドではEV、HV、内燃機関/バイオ燃料が3分の1ずつという見立てだ

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    日本、欧州(ドイツ)、インドの電源構成についてのスズキの予測。電源構成に占める化石燃料と非化石燃料の割合によって、その地域で販売すべき車種は違うというのがスズキの考えだ

スズキが作るEVについても楽しみになってきた。鈴木社長は前提として、「例えば通勤で使うクルマは、スズキの社員でも1日に20km走るかどうか。1日のうち8時間は(勤務先の)駐車場に止まっている。ガソリン車は有能すぎて、満タンにすれば500kmでも走れるけれど、それと同じ性能が(EVでも)欲しいと思うのはどうなのか。100km走れば十分なのでは」とする。休日に遠出したり、親族が集まるなどして多人数で移動したくなったりすれば、そういうクルマを借りればいい。「CASEが進めば、(借りるクルマが)自動運転で家の前まで」来てくれるのだから、と鈴木社長は語る。こちらもずいぶん、進んだモノの考え方だ。

「こんなのが欲しかったんだと言われるクルマを作りたい」「クルマは非常に高価になっているが、(例えば装備について)本当に必要なのかということを、お客様とも対話していかなければ」「うちの役員にもよく言うんですけど、リアワイパー、本当に使ってますか?」などなど、鈴木社長から面白い発言が次々に飛び出したスズキの技術説明会。これにはおそらく、社内向けに、クルマづくりを抜本的に再考していこうというメッセージを送りたいという意図もあるのでは……。そんな気がするイベントだった。

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    こちらは『魔改造の夜』の『ワニちゃん水鉄砲バースデーろうそく消し』に参戦したSズキが開発した「ワニワニバンバンバーン!」

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    こちらの写真は『電動マッサージ器25mドラッグレース』に向けてSズキが作った試作機。このレースでは結果的に、電動マッサージ器1台で動くSズキのマシンが優勝を果たした。鈴木社長は、「部門・年齢を問わず、やりたいと手を挙げたメンバーが集結し、『かんかんがくがく』の議論を重ね開発したマシンは、他チームが2台・6台のマッサージ器を使ったのに対し、シンプルに1台のマッサージ器で、小さく、部品は少なく、軽く、短く、性能・耐久性が要求されるところには技術を注ぎ込んだ美しいマシーンでした。これぞスズキの行動理念『小・少・軽・短・美』を体現したもの」と評した