• 小池栄子

――最近でも『不適切にもほどがある!』が大きな話題になった宮藤官九郎さんの脚本はいかがでしょうか。

小池:やっぱりすごく面白いですし、運ばれてくる患者さんのバックグラウンドやエピソードがニュースで見たことがあるようなもので、今の時代だからこその題材をうまく描かれているなと思いました。今回はW主演と言っても群像劇で、みんなに均等にたくさんエピソードがあるんです。患者さんと接する中でそれぞれの人物がどういうふうに感じて、どういうふうに変わっていくのか。

 また、医療とは何か、人の命を救うとは何か、自分の存在意義とは何かというものを、宮藤さんが丁寧に書いてくれています。先ほど「コントみたいに」と言いましたけど、別に笑わせようとするわけではなく、一生懸命な部分が滑稽であったり、ホロっときたりして、そこがとても絶妙に描かれているので、さすがだなと思いました。

仲野:今回も宮藤さんの“メス”が鋭利だなと思いました。

小池:scalpel!

仲野:メスのことですか?

小池:yes, scalpel!

仲野:こんな風に楽しくできそうな気がします! 僕は、宮藤さんはユーモアいっぱいに物語を描くけど、本質ではすごくヒューマンドラマであるし、根底はとっても社会派だなと思っているんです。今回もその宮藤さんが描く社会の切り口というのが、すごく鋭いなと思っていて。歌舞伎町の物語ではあるけど、日本の不条理や不寛容というものがすごく描かれている気がするんですよね。

 例えば、難民申請しても申請が下りなかった外国の方だったり、元ヤクザだったり、トー横キッズだったり、偏見や差別とかのカテゴライズで、社会が“ちゃんとカウントしてくれない”人たちが出てきて、命は平等のはずなのに本当の公平さって何だろう、命の重さに大小はあるのだろうかとか、そういうことが、このドラマでは根底に描かれているんです。なので、ここまでユーモアをはらんだ社会派ドラマはなかなかないなと思っています。もちろん、ドラマを見て笑ってほしいし楽しんでもらいたい部分もあるけど、宮藤さんじゃないと書けない、ある種リアリティのあるドラマになっていますね。

――宮藤さんは現場にもいらっしゃったそうですが、どんなお話をされましたか?

小池:終始、控えめな感じでいらっしゃってましたね。小さくなられて、「みんな医療シーン大変なのにすいません、頑張って書きます」って感じでした(笑)

仲野:いつもそうなんですよね。

小池:でも、リハーサルを楽しそうに見て笑ってくださってたので、ホッとしました。

仲野:宮藤さんが笑ってくれてるだけで、ちょっとホッとする感じはありますね。

小池:見守ってくださってる感じがあるんですよね。

  • 仲野太賀

3回目での「はい入って!」に動揺

――撮影現場の様子は、いかがですか?

小池:空気ができるのが早かったです。事前にスタッフさんが代役を務めていろいろ動きを作ってくださって、それを2回見て、3回目で「はい入って!」って言われて、すごく動揺したのを覚えてます(笑)。そのスピード感だけでなく、「この人とこの人の関係性から、この人はどういう気持ちでここにいるのか」とか、「医療を志したときと今はどう違うのか」というところまで丁寧に演出されているんです。

――相当人が動く演技になる中で、細かい部分まできちんと作られていく現場なんですね。

小池:そうですね。

仲野:それを楽しんでもらえるよう頑張ります……といっても、僕はあんまりすることがないので(笑)。一番大変なのは小池さんで、それに比べたら僕は非常に楽な立場ですいません!

小池:いえいえいえ(笑)

――小池さんは『新ナニワ金融道』(2015年)以来の河毛俊作監督ですね。

小池:やっぱり監督の顔を見ると、緊張してビシッとしますよ。最後には「一緒にやって良かったな」と思ってもらいたいと思って、一生懸命やってます。「なんだ、つまんなかったな、こいつ」とは思われたくないので(笑)

――仲野さんは、河毛組の現場は初めてですか?

仲野:はい。やっぱりフジテレビの巨匠の監督さんという印象で、そんなすごいキャリアのある方と宮藤さんが組むというだけで楽しみでしたし、そこに携われるのもうれしいです。河毛さん、宮藤さん、小池さん、僕で世代が違うんですが、その中で同じものが作れるということが、素敵だなと思います。

――河毛監督独特の撮り方というのはあるのですか?

仲野:撮影が始まったばかりのころ、リハが終わったら河毛さんが、「今言うのもアレなんだけどさ、俺、基本1テイクしか撮らないから」っと宣言されて(笑)。撮影は速いですし、失敗できない緊張感がありますね。

小池:緊張しますよ。そこにみんなが思いを込めますからね。