映画『湖の女たち』(公開中)のトークイベント【圭介編】が2日に都内で行われ、福士蒼汰、大森立嗣監督が登壇した。
同作は、吉田修一氏の同名小説の実写化作。琶湖近くの介護施設で100歳の老人が不可解な死を遂げた。老人を延命させていた人工呼吸器の誤作動による事故か、それとも何者かによる殺人か。謎を追う刑事たちと介護士の女、そして過去の事件を探る記者の行方は、深淵なる湖に沈んだ恐るべき記憶にのみ込まれていく。
■映画『湖の女たち』トークイベントに福士蒼汰登場
「松本さんはおもしろかったですね」と切り出した福士は、「すごくまじめで、ピュアなんですよね。そこを信じたいみたいなエネルギーが強い人なんですよね。だからわたしは佳代になるんだという覚悟が強い人で。俺なんかは休みになるとご飯を食べに行ったり、彦根城に行ったりしてたんですけど(笑)。逆に彼女は常にオンの状態でいたんですよ。休日も台本とにらめっこしていたり、狭い場所でジッとしていたと言っていましたけど、そうやって自分を追い込んで。そしてその追い込んだ自分が、さらに自分を追い込む、という複雑なことをしていた。それが佳代らしいというか。圭介がスイッチを押してしまったことで、波が押し寄せてしまい、それが自然になってしまった。そこで松本さんの生き方と、佳代の生き方とがリンクしたような感じがあって。つらいんだけど、でもやらなきゃいけない、でも波に乗るのはすごく気持ちも良いという感覚がある気がして。逆に、僕もそうですけど、圭介は最初にスイッチを押したんですけど、あとは客観的に引いていくんですよね。なんだか波があって、引いて見ている感じはありましたね」とふたりの関係性を分析してみせた。
さらに「今日はまりかがいないから言っちゃおうかな」といたずらっぽく笑った大森監督は、佳代を演じた松本に向けた演出について言及。松本は同作の撮影を「表面的なことではなく、ちゃんとこの映像の中で本当に生きろと言われたようで恐ろしかった」と述懐し、大森監督が俳優を全肯定して、すべてを任せてくれるからこその苦しさを常々述べていた。
大森監督はその意図について「やはり現場はすごく大変だったんですけど、大変だからといって、そこで(松本の演技について)ダメだよというのは簡単なんですよ。だから俺は絶対に何も言わない。(福士)蒼汰は『フォローしようと思えばできますけど、(圭介と佳代という役柄の上での関係性もあるので)僕は何も言わないですけどいいですか?』と言ってきたんで、『それでいい』と言ったんです」と明かす。
「だから俺は何があってもとことん、まりかに付き合います、と。何があっても、まりかを信じる。これってけっこう大変なんです。(劇中で佳代が)四つん這いになって、圭介から『つらかったことを言え!』と言われるシーンがあって。でもまりかは言えなくて、すごく大変だったんです。そしたら急にギャーッと叫びだしたんです。中に入っているのは役者とカメラマンと、数人しかいなかったんですけど、外で聞いていたスタッフがみんな台本を開いて『そんなシーンだったっけ?』って。どこかの部族の儀式をとっているんじゃないかという気分になるくらいすごいシーンだった。あれでまりかは何かを得たんじゃないかと思うくらいにすごかった。本人も言っていたけど、佳代という人間が脱皮して大きくなることと、松本まりかが大きくなっていくことは、彼女の中ではつながっていたと。だいぶ大きな作品だったと言っていますし、その現場を見ていた俺もそう思いました」と振り返った。
心を鬼にして“圭介という役”になりきり、佳代を追い詰めたという福士は「そのシーンは感情的になって、いろんなことが言えなくなってしまったんですけど。自分でも覚えているのは、(佳代に向かって)『もう1回言え!』というセリフは、台本では1回か2回だけだったんですけど、『今のはあかんやろ、絶対に(心が)入ってないやろ』ということで(本番では)ずっと言い続けていた。本当にヒドいなと思いますけど、でも圭介ならそうするんだろうなと思ったんです。意識的ではないけど、もう1回言わせたいという思いがあった。セリフ以上のことを言っていた気がしますね」と述懐。
福士の懺悔にも似た思いを受け止めながらも「それは言ってたね」と笑った大森監督は、「あそこ、最後に圭介は目に涙をためているんですよ。俺もあそこのシーンは好きなんですよ。あの状態で涙がこぼれそうになっているというのは台本に書いているわけではなく、たぶん勝手にやっているんだと思うんですよね。これはそういう映画なんですよ。感情移入で泣けるという映画ではなくて、すごいものを見ちゃったなという涙。だからいちばん美しい、だって意味に回収されない涙だから。だから福士蒼汰はすごいと思った」としみじみ語った。
観客からは「圭介の方が中の人に引っ張られたのか、中の人がたぐり寄せていったのか。そういう感覚で映画を観ていたんですが、ご自身と、監督とでそのあたりはどう考えていたんですか?」と質問が。「すばらしい!」と感心した様子の福士は「自分が圭介に乗り移っていったという感覚でしたね」と返答。その理由として『BLEACH 死神代行篇』のようなコミック原作の映画は、自分とは違う人物にならなくてはいけないが、本作のような作品の場合は「うそをつくと、どんどんと真実味がなくなっていくから」だと付け加えた。
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