阪急電鉄は、京都線の新型特急車両2300系と、同社初という座席指定サービス「PRiVACE(プライベース)」の報道内覧会を4月16日に実施した。今回の取材を通じて感じた「PRiVACE」および2300系の特徴や魅力について紹介したい。
ワンコインで利用できる座席指定サービス「PRiVACE」
座席指定サービス「PRiVACE」は、京都線特急車両の大阪梅田方から4両目に連結され、2024年7月に京都線の特急・通勤特急・準特急でサービスを開始する。導入当初は1時間あたり2~3本の頻度でサービスが提供され、2025年頃には1時間あたり4~6本の頻度となる予定。参考までに、2024年4月現在、日中時間帯における京都線特急は1時間あたり6本運行されている。「PRiVACE」はすべて2300系として製造され、2300系だけでなく9300系の一部編成にも組み込まれる。
「PRiVACE」は「PRIVATE(プライベート)」と「PLACE(場所)」を掛け合わせた阪急電鉄独自のネーミングである。命名にあたり、「どういったところをお客様に感じていただきたいのか」という体験価値を起点に練り上げる一方、「マルーンシート」といった安易なネーミングには走らなかったという。「PRiVACE」の場合、体験価値は「プライベート」となる。「PRiVACE」の「i」は小文字となっており、これは人や個人を表現し、ひとりひとりの「自分時間」に寄り添ったサービスであることを象徴している。
「PRiVACE」の車内は横3列(1列+2列)のリクライニングシートが並び、乗降用扉は中央部に1カ所設置されている。扉付近の壁面下部や床に落ち着いた木目調の素材、壁面上部に大理石調の素材を施した。ダウンライトの照明も相まって、出入口から高級感が漂う。
車内は中央の出入口を境として、2ブロックに分けた。座席の生地は阪急電鉄伝統のゴールデンオリーブ色とし、落ち着いた雰囲気を醸し出す。座席はリクライニングと同時に座面が連動する機構を採用。上部は周囲の視線が気にならないように、顔を覆うような形状になっている。担当者によると、車内の一押しポイントは小指の端まである肘掛けのパーテーションとのこと。隣の人を気にして肘を置くかどうか迷う場面を避けるねらいがある。
特筆すべき点として、座席1列ごとに配置した側面窓が挙げられる。実際に座席に座り、側面窓を眺めると、車内にいながら個室のような印象を受ける。座面が動くことにより、座席に包み込まれる感覚もプライベート感が増す要因のひとつだろう。
近年、京都線の特急においても、訪日観光客を中心に大型のスーツケースを持つ乗客を見かける。「PRiVACE」では「共用荷物コーナー」を設置し、大型のスーツケースにも対応する。
「PRiVACE」を利用するにあたり、区間運賃に加えて500円の座席指定料金が必要になる。基本的に専用ウェブサイトでの購入となり、列車と座席を指定できる。京阪電気鉄道の座席指定車両「プレミアムカー」は距離に応じて料金を400円・500円の2段階制としているが、「PRiVACE」で500円均一制を採用した理由として、「一律でシンプルなわかりやすさ」を意識したという。500円という料金設定は、大阪梅田~京都河原町間が長距離でない分、他社との比較の上で決めたとのことだった。
京都線では観光列車「京とれいん 雅洛」も活躍中だが、「PRiVACE」は観光客を重視した「京とれいん 雅洛」とはまったく異なるコンセプトに。あくまで「自分時間」に重きを置き、沿線住民の利用を意識している。十三駅で神戸線・宝塚線から京都線へ乗り換える場合や、桂駅で嵐山線から京都線へ乗り換える場合など、さまざまな利用場面が考えられる。
意外と変わった点が多い2300系の一般車両
「PRiVACE」以外の一般車両も見ていきたい。2300系は特急系列車で運行されることもあり、車内は片側3扉の転換クロスシートとなっている。転換クロスシートの形状自体は9300系と大きく変わらないが、モケット柄のデザインが異なる。縦線模様が目立ち、かつての特急車両6300系がリニューアルされる前の座席をほうふつとさせる。
大きく変わった点として、乗務員室周りのレイアウトが挙げられる。既存車両は乗務員室のスペースが比較的小さく、乗務員室の背後にロングシートが設置されていた。2300系の乗務員室は必要機器類の増加により、スペースが拡大。一方で乗務員室後方にあったロングシートは設置されなかった。その代わり、立客向けに腰当が設置されており、阪急電鉄らしい措置といえるだろう。
9300系に設置されていた扉付近の補助椅子もなくなった。担当者によると、現在の朝ラッシュ時の状況から補助椅子の設置を見送ったという。その他、両先頭車の車いすスペースが充実し、スペースを拡張したほか、2段手すりと非常通話装置を設置している。車いすに座った状態でも、非常通話装置を操作できるようになった。
2300系も「PRiVACE」と同じく2024年7月にデビュー。今年度、2300系の新造は1編成のみだが、9300系に代わる京都線特急車両として増備を進めていく方針だという。「PRiVACE」も2300系も「阪急らしさ」を保ちつつ、新しいサービスにチャレンジする姿勢を感じた。