第100回大会を迎える『箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)』が、今年も日本テレビ系で1月2日・3日(7:00~)に、両日約7時間にわたり生中継される。いまや正月三が日のテレビの定番で、前回の番組平均視聴率(ビデオリサーチ調べ・関東地区)は往路が個人16.7%・世帯27.5%、復路が個人17.9%・世帯29.6%というお化けコンテンツだが、日テレが中継を開始したのは1987年の第63回大会で、今年で38年目の放送だ。

様々な困難を乗り越えて実現したというテレビ中継には、どんな精神が受け継がれているのか。白熱のレースを放送する裏側では、何が起こっているのか。そして100回大会という節目にどのような姿勢で臨むのか。総合プロデューサーの日本テレビ・望月浩平氏に話を聞いた――。

  • 前回の総合優勝・駒澤大学のゴールシーン

    前回の総合優勝・駒澤大学のゴールシーン

チョモランマ山頂からの生中継も…チャレンジ精神が財産に

『箱根駅伝』を放送するにあたり、往復200kmを超えるレースを全編生中継するという壮大な番組の企画書は、何度も突き返されたという。お正月という在宅率の高い時期に、2日間にわたる長時間の枠を関東の地方大会に使うことへの懸念に加え、電波環境にとっても難所である箱根の山を含む各所から事故なく映像を届けるための技術的なハードルが高かったのだ。

それでも初代プロデューサーの坂田信久氏や、総合演出の田中晃氏らの熱意が会社を動かし、技術的な課題もクリアして、1987年に一部中断がありながらも全編生中継を実施。世帯視聴率は往路18.0%/18.7%、復路14.1%/21.2%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)をマークし、3年目には完全生中継を実現させた。

望月氏は「当時の日本テレビは、88年にチョモランマの山頂から世界初の生中継をしていますし、本当にチャレンジ精神がある局だったんだと思います。これは本当に財産です」と、立ち上げた先人たちに感謝する。

選手の名前は全員呼ぶ、たすきリレーは全部伝える

そこから40年近くにわたり、『箱根駅伝』テレビ中継の歴史を積み重ねてきたが、最も意識しているのは、「箱根駅伝をテレビが変えてはいけない」ということ。

「先輩方から、“テレビが大事な学生スポーツを変えてはいけない”と本当によく言われました。正月の2日・3日に国道1号で200km以上ロードレースをやるなんて、今の時代に始めようとしてもできない。100年続いてきたからこそ大事に受け継がれていると思うんです。だからこそ、選手の皆さんが主役なので、選手の名前は全員呼ぶ、たすきリレーは全部伝えるといった精神が、変わらずあります。よく“今年新しく変わることはありますか?”と聞かれるのですが、技術が進歩して画面上の見た目やディテールが変わっても、そうした根っこの部分は変えてはいけないと思っています」

  • 「第63回東京箱根間往復大学駅伝競走 駅伝放送手形」

それを裏付ける資料として望月氏が見せてくれたのは、「第63回東京箱根間往復大学駅伝競走 駅伝放送手形」という116ページにも及ぶ分厚い冊子。毎年全スタッフに配布される中継マニュアルで、日テレが初めて手がけたテレビ中継の際の貴重なものだ。基本的なカメラの配置も現在とあまり変わらないそうで、「トップ選手だけでなく下位の選手もしっかり映すというのが書かれているんです」と、今に続く精神が盛り込まれている。

  • 第63回大会中継の「Qシート」

もう1つ、大切に保管されていたのは、放送の進行予定が秒単位で記された第63回大会中継の「Qシート」。手書きで作成されているが、「実はいまだに手書きなんです。パソコンで作るとどこが大事なポイントなのか分からないのですが、手書きだと筆圧でそれが伝わるので」と、こちらも最初の中継から引き継がれている。