インターネットの発達により、YouTubeやTikTok、またサブスクリプションの動画配信サービスが台頭。これと反比例して、かつてほどの勢いが見る影もなくなったと揶揄(やゆ)されるのが地上波のテレビだ。その昔、地上波はこれらのネットコンテンツをライバル視し、ともすれば敵対する傾向にあった。だが2020年、民放キー局5社がTVerの筆頭株主になった頃から、地上波もネットを最大限活用するように。またライバルはネットでも他局でもなく、海外作品と捉え、日本の地上波が手を組む流れが起こった。

地上波が急速な過渡期にある今、それでも“テレビはオワコン”といった心ない言説はネット上に絶えない。果たして本当にテレビコンテンツは見られなくなったのか。現在、地上波や動画配信コンテンツの内部でどんな動きがあるのか。このたびタッグを組み、年間で連ドラ制作を行う総合動画配信サービス・DMM TVと、在阪準キー局のカンテレに、地上波ドラマとネットコンテンツの現在地について聞いた――。

  • カンテレの吉條英希氏(左)とDMM TVの久保田哲史氏

    カンテレの吉條英希氏(左)とDMM TVの久保田哲史氏

視聴率だけでない「トータルリーチ」を重視

両者がタッグを組んで1月18日にスタートするドラマ『極限夫婦』(毎週木曜24:25~ ※関西ローカル、初回は24:40~)は、モラハラ、浮気、男尊女卑など、妻の尊厳を踏みにじる最低夫たちを妻たちがスカッと成敗する新感覚“アットホーム”復讐ドラマ。3組それぞれの夫婦の結婚生活の果てにある夫婦の極限状態と、夫への断罪をオムニバス形式で描く。

これは、DMM TVとカンテレが1年間4クール続ける枠で放送されるもので、テーマは「復讐」。地上波で放送されるほか、DMM TVで1年間独占配信、またキャッチアップとしてTVerとカンテレドーガでも配信される。

昨今、ドラマ枠が急増しており、各局の動画配信サービスでも多くのオリジナルドラマが制作されている。とはいえ、ドラマ制作はバラエティ以上に予算がかかる。この視聴率低迷時代に、お金をかけてドラマが作られるのはなぜか。

「まず、テレビ局というのは制作会社的なコンテンツメーカーでもあるんです。その中でドラマというジャンルは、やはり一つの憧れですし、映像と音声を使ってストーリーを構築して視聴者に届けていくというのは、クリエイターならばとてもやりたい仕事の一つということが言えます。それだけではなく、昨今はTVerなど見逃し配信などでの数字も重視される時代になった。そこでは、ドラマのほうがバラエティよりその後の展開で利益を生みやすいということがあります」(カンテレコンテンツビジネス局専門局長の吉條英希氏)

かつての番組の評価指標は世帯視聴率一辺倒だったが、現在は従来の広告収入に配信などのコンテンツビジネス収入でも利益が生み出されるようになったことから、カンテレでは地上波の視聴率はもちろん、TVerなどの見逃し配信数、そしてNetflixなどサブスク動画配信サービスにコンテンツ販売を行い、コンテンツの接触機会を意識的に拡大させる「トータルリーチ」に重きを置くようになっている。そんな同局がDMM TVへラブコールを送り、今回の枠を生み出したのは必然だったかもしれない。

動画配信と地上波のちょうど間を狙いたい

だが動画配信サービスにおいて、“初速”はバラエティのほうが高いと語るのは、DMM.com プレミアム事業部オリジナル制作責任者の久保田哲史氏。

「バラエティは流行りものや話題の出演者をフックに興味を持ってくれる視聴者も多く、ショートタイムで見れば引きが大きくなる傾向にあります。DMM TVでも佐久間宣行さんプロデュースの『インシデンツ』、『水曜日のダウンタウン』(TBS)などを手掛ける藤井健太郎さんプロデュースによる『大脱出』といったオリジナルバラエティを配信しています。ローンチしたばかりの立場としては、その“初速”のワークは大変ありがたいです」(久保田氏)

ただ長い目で見た場合、ドラマはアーカイブされていくため、費用対効果が悪くても利益は増加していく。これはどのプラットフォームでも同じで、バラエティよりドラマのほうがライフタイム(生涯時間)で数字が伸びていくことが実証されている。

こうした背景もあり、今やドラマ群雄割拠の時代に。そこでの差別化を考えたときに、「オリジナルドラマで攻めるとなると、弊社単体だと限界がある。ここで地上波のカンテレさんが入ることでその認知力、制作力を生かせる。これを含めて、動画配信サービスのオリジナルドラマと、地上波ドラマのちょうど間あたりを狙っていきたい」(久保田氏)、「そのためにカンテレもテレビ局というよりは制作会社として関わり、DMM TVさんと一緒に考えて、企画や方針を決めていきます」(吉條氏)という戦略をとった。