地上波の局が制作会社的な動きをして動画配信サービスのオリジナルドラマを作るというのは、昔ではあり得なかった、昨今ならではの現象だ。こういった時代だからこそ、実はキャスティング方法も変わってきているという。

「過去はTVCMにどれぐらい出ているか、そういったタレントパワーが重視され、またドラマ初回放送日の電波ジャックや番宣などでたくさん稼働していただける俳優さんかが重要でした。ですが今はデジタルとの相性…つまり、いかにSNSなどと相性が良いか、拡散力があるかということや、どう切り抜き動画を出すか、ショート動画でどう見せるかということがキャスティング、PR含めて重視される時代になりました。つまりSNSパワーの時代です」(吉條氏)

「デジタル系のテレビ局はYouTubeなどのSNSで切り抜き動画を見せることが当たり前になっていますが、地上波の番組はなかなかそこへ行きづらい。地上波のドラマでそれをやろうとしても、上から“それは何の意味があるのか”と言われてしまう現状があります」(久保田氏)

視聴者の見方が変わったら、中身も変えなければいけない

そうした現状において、両者がタッグを組んだ今回の企画は先陣を切って、これまでの地上波がやれないことに挑んでいる。

「WebtoonやYouTubeの企画ものなど、デジタルで当たるものに今の若者は見慣れている。ただ、キャッチーでフックがある一方で、そのノリをドラマ制作でやると浅くなりすぎ、逆にストーリーが若者の心に入っていかないんです。こうした面はデジタル系プラットフォーム、全世界のクリエイターが葛藤しているところだと思います。結局、クリエイターの熱い思いのような目に見えないものが人の心をつかむので、デジタルでの統計だけで本当に数字が上がるのかというとそうではない。アナログな思いとデータ、その融合が重要であり、今回の我々の企画も、そのあたりの答えが出せればと思っています」(久保田氏)

さらに、今回は地上波でも放送されるということで複雑性が増す。「マスにアピールしつつ深掘りするという相反するバランスは非常に困難です。そこでローカル局であるカンテレさんの制作力が火を噴くのです」(同氏)

カンテレはキー局と比べるとステーションパワーが弱い。だからこそ、現状でできる中で差別化などに特化してノウハウが育まれ、そのバランスが担保できるわけだ。つまり、これはキー局にはできない試みとも言える。

「オンタイムでテレビが見られなくなったからと言って、テレビのコンテンツが見られなくなったわけではない。それはTVerの盛り上がりが朗々と物語っています。つまり見方が変わっただけ。でも視聴者の見方が変わったんだったら、中身も絶対に変えなければいけないんですよ。そこは各局、苦労して追いつこうとしているところであり、今のようなデジタルのビジネスモデルにマッチした作品を作らなければならない…それを我々がこの枠でいち早く模索しようとしているわけです」(同氏)

「同時に、よくテレビの表現がマイルドになったと言われていますが、デジタルコンテンツとの融合で、クリエイターが深く思いを込められるようになることに期待しています。カンテレだと、DMM TVと思いを込められる作品に携われると若いクリエイターが集まり、活気づいていく可能性もあります。そのためにこの作品をハズすわけにはいかない」(吉條氏)

キー局、また外資の動画配信サービスは巨大すぎるがゆえに、変化に対しての対応が遅れているのかもしれない。あまりに急速な進化で世界中が葛藤する中、日本のこの枠から、現代にマッチしたドラマコンテンツが生まれることを願ってやまない。

  • 『極限夫婦』のキャスト陣
    (上段左から)桐山漣、竹財輝之助、平岡祐太 (下段左から)岡本玲、松村沙友理、北乃きい

●久保田哲史
1995年にフジテレビジョン入社。ドラマ制作・海外事業を歴任し、19年にAmazonスタジオのHead of Scripted Originalsとして移籍。22年、DMM TVローンチを機にDMM.comに移籍し現職。フジテレビではドラマ制作で『医龍』『離婚弁護士II』『東京タワー』『ムコ殿』『人にやさしく』などを担当。海外事業で『空から降る一億の星(韓国版)』など、Amazonで『No Activity』『Homestay』などを担当した。

●吉條英希
1990年、関西テレビ放送に入社し、バラエティ・ドラマの制作に従事。ドラマ制作で『マザー&ラヴァー』『アンフェア』『モンスターペアレント』『白い春』『まっすぐな男』『ギルティ』などを担当。映画『アンフェア the movie』『アンフェア the answer』『アンフェアthe end』なども担当した。