再び岩谷時子さんを作品として届けたいと思った彼女の魅力について尋ねると、若い頃に岩谷さんの会話を近くで聞いたエピソードを明かしてくれた。

「20歳の頃に、当時の事務所の社長と岩谷さんが話をしていて、私は2メートルぐらい離れたところでお二人の話を聞いているということが一度だけありました。その後も、劇場にいらしているのを何度もお見かけし、越路さんと岩谷さんのお話も近い人からたくさん聞いていました。私は直接お話しすることはできず、もったいなかったなと思っているんです。もう少し勇気を持って一歩踏み出していたらお目にかかれたかもしれないのになと」

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そして、『越路吹雪物語』で岩谷さんを演じることになり、台本のみならず手にできる限りの資料を集めて勉強すると、「知れば知るほど素敵な方だな」と感じるように。

「凛としている女性だと思っていましたが、若い頃はけっこうお茶目だったり、彼女の生きてきた背景がわかってくると、さらに素敵な方だなと。いつも静かな印象でしたが、心の中はものすごく情熱的だったこともわかり、自分は演じたり歌ったりしないけど、この情熱を誰かに注ぎたい、誰かに伝えたいという思いがあり、それが詩になって、その詩を誰かに歌ってもらったり。燃える思いがあるから伝えたいと思うわけで、そういう方だったんだなと知りました」

■「私は岩谷さん的な人間なのかもしれない」と感じた共通点

岩谷さんのことを深く知った時、自分とすごく似ていると感じたという。

「私も恥ずかしがり屋で、目立つのは嫌いだし、できれば陰に隠れていたいけど、伝えたい思いはあると思った時に、厚かましいですがすごく似ている気がしてしまって、私は岩谷さん的な人間なのかもしれないと思いました」

さらに、「岩谷さんの湧き上がる情熱を文章に委ねて、その文章をパートナーである越路さんが歌ってくれるというのは、本当に幸せだったんだろうなと思うと、なんて羨ましい出会いをしているんだろうと思いました」と述べ、「その2人の物語を私が形にすることは幸せなことだし、岩谷さんを演じられることは、私という俳優として一番の名誉な場所だという気がしたんです」と、岩谷さんと越路さんの物語を届けることへの熱い思いを語ってくれた。

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■市毛良枝
1950年9月6日生まれ、静岡県出身。文学座附属演劇研究所、俳優小劇場養成所を経て、1971年ドラマ『冬の華』(TBS)でデビュー。以後、映画・テレビ・舞台と幅広く活躍。40歳直前に山と出会い、登山が趣味に。1993年にはキリマンジャロ登頂を果たす。登山に関する書籍の執筆や講演会なども行っている。山のエッセイの新刊『73歳、ひとり楽しむ山歩き』が2024年2月発売予定。「音楽のある朗読会『あなたがいたから~わたしの越路吹雪~』」公演詳細はアミューズHP市毛良枝ページ参照。