政府は子育て世帯への支援として、児童手当や幼児教育無償化、奨学金・授業料減免などを行っていますが、多くの制度で所得制限が設けられています。所得制限にかかると、わずかな差で制限にかからなかった世帯との間で支援差が生じます。枠組みの内と外での不公平感は、これに限らずさまざまな制度で生じることですが、子育て世帯では大きな問題になっています。そこで、年収がいくらになると所得制限の対象となるのか、子育て支援・教育費支援の所得制限をまとめました。
児童手当の所得制限
児童手当は中学校卒業までの児童を養育している家庭に支給されます。
現行の児童手当には所得制限が設けられており、夫婦と子ども1人(※)の場合は、年収の目安として、約918万円~1162万円になると特例給付の一律5000円になり、年収が1162万円を超えると児童手当が支給されなくなります。
※年収103万円以下の配偶者と子ども1人など、扶養親族が2人の場合
特別給付の5000円が支給される限度額を「所得制限限度額」、まったく支給されなくなる限度額を「所得上限限度額」とした、それぞれの年収の目安がわかる表が以下になります。
年収の目安は、給与所得のみで計算した場合であり、実際には、給与所得控除や医療費控除、雑損控除などを控除した後の所得額で判断します。また、夫婦共働きの場合は、夫婦で収入が多い方の所得が基準となります。
*2024年10月から所得制限が撤廃される予定
今年6月の「こども未来戦略方針」の閣議決定を受けて、2024年10月から児童手当の拡充が予定されています。
変更点は次の3つです。
- 所得制限の撤廃
- 高校生まで支給(支給期間を3年間延長)
- 第3子以降は3万円に倍増
所得制限がなくなり、高校生まで支給の対象となるのは、子育て世帯には喜ばしいことです。
幼児教育無償化の所得制限
幼稚園、保育所、認定こども園などを利用する3歳から5歳まで(小学校入学まで)の子どもの利用料が無料になります。なお、この年齢の無償化に所得制限はありません。
0歳から2歳までの子どもの保育料は、住民税非課税世帯は無料ですが、それ以外は所得が上がるに従って、保育料が上がっていくシステムになっています。保育料は国による基準が設けられていますが、市区町村ごとに決めることができるため、自治体によって異なっています。たとえば、世田谷区の場合、年収500万円世帯の月額の保育料は2万7000円ですが、年収1000万円世帯になると5万5500円となります。※
※片働き世帯、第1子、保育標準時間の場合。所得控除の額によって区分が変わることがあるため、あくまでも目安です。
0歳から2歳児クラスは、保育所等を利用する最年長の子どもを第1子とカウントし、第2子は半額、第3子以降は無料となります。ただし、年収360万円未満相当世帯は、第1子の年齢は不問とされます。2023年10月から、東京都は第2子の保育料も無料となりました。
高校の授業料無償化の所得制限
高等学校等就学支援金制度は、国公私立問わず、高校に通う所得要件を満たす世帯の生徒に対して、国から授業料に充てるための資金が支給される制度です。
所得基準は、親の働き方、子の数、子の年齢によって違いがあり、参考の基準として、両親のうち一方が働いている世帯で、高校生1人、中学生1人の子どもがいる場合は、年収約910万円未満の世帯が対象となります。また、支給額も世帯年収によって11万8800円までの支給、39万6000円(私立高校の場合)までの支給の2パターンがあります。
年収500万円世帯の私立高校に通う生徒は、3年間の合計で118万8000円の支援が受けられますが、両親の一方が働いている年収1000万円の世帯では、支援はゼロです。
大学無償化の所得制限
大学無償化と呼ばれる「高等教育の修学支援新制度(授業料等減免と給付型奨学金)」は、支援の対象者となる世帯の所得基準がかなり低く、住民税非課税世帯およびそれに準ずる世帯の学生が対象となっています。
基準を満たす世帯年収は家族構成や構成員の年齢などによって異なりますが、一番高くても年収460万円程度です。
さらに資産要件もあります。学生とその生計維持者が保有する資産(※)の合計額が、生計維持者が2人の場合は2,000万円未満、1人の場合は1,250万円未満に該当する必要があります。
※現金およびこれに準ずるもの、預貯金並びに有価証券の合計額(不動産は対象としない)
このように、大学無償化については、対象世帯がかなり限られることがわかります。
年収500万円世帯と年収1,000万円世帯の支援差
最後に、年収500万円世帯と年収1,000万円世帯の子育て支援の差をまとめてみたいと思います。
<条件>
- 両親の一方が働いている子1人世帯の年収
- 東京都世田谷区在住
- 0歳~2歳児保育を2年半利用
- 高校は私立高校に通う
支援額の合計をみてみると、年収500万円世帯は316万8,000円の支援が得られたのに対し、年収1,000万円世帯は90万円でした。幼児教育無償化については、かかった保育料の比較とします。年収500万円世帯は81万円かかったのに対し、年収1,000万円世帯は166万5,000円かかりました。支援額からかかった費用を引いてトータルの支援の差をみてみると、年収500万円世帯は235万8,000円になったのに対し、年収1,000万円世帯は▲76万5000円となりました。条件が同じでも300万円以上の支援の差があることがわかりました。
年収1,000万円世帯は一番損な世帯とよく言われます。これは、税金や社会保険料はたくさん払っているのに、支援がほとんど受けられないからでしょう。特に、高校の授業料無償化では所得制限ラインにあたる年収であるため、特に損を感じるようです。子育て世帯では、一般的に高所得とされる年収1,000万円でも決して楽ではありません。子どもを持つことがペナルティにならないように、子育て世帯でパイを分け合うのではなく、等しく支援が受けられる世の中になってほしいと思います。