■清水寅さんプロフィール
ねぎびとカンパニー株式会社代表取締役 1980年長崎県生まれ。高校卒業後、金融系の会社に就職し、20代でグループ会社7社の社長を歴任。2011年より山形県天童市にてネギ農家を始める。2014年に法人化。1本1万円のネギ「モナリザ」など、贈答用ネギでブランド化。2019年に山形県ベストアグリ賞受賞。著書に『なぜネギ1本が1万円で売れるのか?』(2020年・講談社+α新書)。 |
■河口武史さんプロフィール
1996年生まれ。地元の高校卒業後、宇都宮大学農学部に入学。卒業論文で都市近郊型農業である地元の農業について調査したことで農業に興味を持つ。卒業後に茨城県八千代町にて親元就農。農家の13代目。現在ネギ5ha、長なす60aを栽培。出荷組合zeroに所属。 |
■張替翔志さんプロフィール
1991年茨城県坂東市生まれ。同市にてネギ・レタスを栽培。高校卒業後、営業職を経て青果市場へ就職する。野菜への理解を深め、競り人 兼主任として勤務。2017年に家業を継承。 培った目利きや経験を活かし「妥協のない栽培」を信条とする。 |
■横山拓哉プロフィール
株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長 北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。 |
トガっている人が伸びる
横山:お三方の出会いを教えてください。
河口:寅さんの本『』が、ネギ農家の界隈で「すごい本を出すな」とざわついてたんですよ。読んですぐに寅さんに会いに行っても良いかとDMを送りまして、父と一緒に3年ほど前に、山形まで会いに行ったのが最初です。
張替:僕は河口さん経由で接点を持って、お会いしました。
横山:寅さんは、お2人の第一印象はいかがでしたか。
清水:河口さんは若かった。“トガっている”というか。「俺はちゃんとやってるぞ。俺くらいやってない奴はダメだ」という強い気持ちが言葉から伝わってきた。そのくらいの気持ちのある人が僕は好きですし、伸びると思います。
張替さんは、最初、髪が銀色だったんだよね。ドラゴンボールに出てんのかなと思って(笑)。「チャラいな」って言ったもんな。
張替:一言目に言われましたね(笑)
清水:だけどインスタグラムを見たら、僕にできないことをやっていたんです。面積を広げると、やらなければいけないことができなくなっていきますが、彼はやっていた。
2人とも生まれた頃から農業を見ていますし、僕にはない才能やセンスが備わっている。少し嫉妬しましたね。2人とも出荷組合「zero(ゼロ)」※の中でも、プレミアムと呼ばれる本当に良いネギを作っていますよ。
※ネギを出荷するためにねぎびとカンパニーが設立した組合。生産指導から販売までをトータルサポートしている。
横山:プレミアムとは、その中でも一段高いブランドということですね。
清水:はい。その代わり、僕が彼らに求める基準は厳しいし、うるさいですよ。
河口:厳しいですけど、自分も「いいネギを作りたい」という気持ちが強いんで。常に自分が吸収できることを言ってくれますし、毎回、電話するたびに勉強させられることがありますね。
張替:僕もビシバシ来てもらいたいぐらいなんで。もう蹴飛ばされたっていいぐらいの(笑)。
清水:そんなに怒ったことないですよ!(笑)僕は「畑に出ているだけで100点」だと思ってますから。1反歩の人も100町歩の人も、皆にリスペクトして話しているつもりです。
栽培方法を変える不安と周囲の反応
横山:さて、もともと化成肥料でネギを栽培していたお2人が、寅さんと出会ったことによって、有機肥料に変えたんですよね。そこに対しての葛藤や、地域の反応などはいかがでしたか。
河口:自分は有機肥料でのトンネル栽培を始めて3年目ですが、やはり初年度は周りの人にも聞いて。「有機肥料じゃ伸びが足らない。化成肥料じゃないと無理だ」といろんな人に言われました。けれど、1反だけ設けた試験区で手応えがつかめたので、今年は張替さんと一緒に調査して、本気で作りました。化成肥料で作ったものと遜色のない、むしろ化成肥料で作るよりも健康的でいいネギができました。
横山:最初は不安もあったのですね。当然、地元の常識に対しての、チャレンジなわけですもんね。寅さんは、どのように見ていたのですか。
清水:肥料を変えるのは農家にとって本当に勇気がいること。僕も当時は“化成一発信者”でしたから、勇気が要るのはよく分かります。僕も不安でしたし、責任もありますから、ダメだったら損失分は全量買い取るつもりでした。
張替:地元のJAに聞いてみたら、この地域では「定かではないけれど8割が化成肥料で残り2割は有機化成肥料」とのことで、100%有機肥料の割合は、皆目わからないと。僕も最初は有機肥料という選択肢はなかったので、不安感しかなかったですね。
横山:有機栽培というと、雑草や虫の発生の話をよく耳にしますが、どうなんでしょう。
張替:やってみると変わらないと思っちゃいましたけど。
私の地域(茨城県坂東市)はネギの大産地で、最初に「有機肥料でやる」と伝えた方には「大丈夫か?」と心配されましたし、地域に話が広がって、心配というより冷ややかな反応でしたね。「そんなんでできねえぞ」みたいな感じで。
でも今年、初夏どりネギのトンネル栽培で確かな手ごたえを感じています。
河口:自分はトンネル栽培を学んでいる最中に、同時に有機肥料の使い方も勉強していたので、手探りではありましたけれど、先入観はあまりありませんでした。自分の場合は、化成肥料で窒素30キロオーバーで入れるところを、有機肥料23キロにして、窒素量が7キロ以上も少ないのに太物率は化成肥料よりも高かったです。
有機肥料に変えて良かったポイントとは
横山:振り返って、有機肥料に変えて良かったことを教えてください。
張替:まず、ネギ特有のえぐみがなくなっていたことです。糖度計で化成肥料区画のものと比較して、10本ずつの平均で見ると、化成肥料区画のものは8~9度。有機肥料区画では12~13度でした。等級にもばらつきがなく、基本的にL以上で、2Lの比率も化成肥料で作ったものよりも上回っていました。栽培中でいうと、最初は化成肥料のほうが伸びもよく「やはり有機じゃ難しいか」と思いましたが、生育適温に近づく2月頃になると、太さも長さも有機肥料を使っているほうがグングンと超えていきました。極論、化成肥料より作るのが簡単になりましたね。
清水:有機肥料だと、上と下にバランスよく効くと思います。根っこに効いていくので後半に強い。初めて使う人は、「(伸びが)ちょっと遅い」と言いますが、梅雨明けの水と温度が保たれている時に、ぐわーと育つんです。結果的に、地域で一番早く収穫しました。
河口:土づくりも兼ねられますよね。3~5月に追肥しますが、その時期はネギの生育適温で、微生物も活性化しやすいと思うんです。そこで有機肥料や微生物を投入することで、土づくりにもいいのかなと思いました。
横山:なるほど。寅さんとの出会いでチャレンジした結果、いろんなものが変わったのですね。
張替:人生が変わりました。
清水:1人が変わると地域が変わりますから。地域が変わると、県が変わり、県が変わると日本が変わっていく。だから1人がやることで、どんどん日本が良くなると思いますよ。
どんぶり勘定からの脱却、経営者へ
横山:栽培方法以外で勉強になったことはいかがですか。
河口:経営面ですね。ずっと家族経営でしたので、売上や経費についての関心は薄かったのですが、規模を拡大するために従業員を雇うことになると、経費や売上について細かく電卓を弾いて、どこからプラスでどこからマイナスになるかを把握しないといけない。そこの考え方とかを、寅さんに教えてもらって。わかんないことがあったら、すぐに電話して聞いています。
張替:僕も家族経営でしたし、好きなことを好きなだけやっていればいいという考え方でしたが、それはダメなんだと寅さんから教えられました。原価率を見るとか、本当に事細かく「あれはこうした方がいいよ」とアドバイスいただいて、農業そのものに対しての見方も変わりました。
清水:結局、経営者になっていくということなので。賃金や原価も上がる中、売価は上がっていきづらいので、昔以上にシビアな原価計算などが必要ですし、それを、みんなでやるような仕組み作りは、何より大事だと思いますね。
横山:最後に今後の展望について聞かせてください。
張替:茨城で今、化成肥料主体で作っているネギもクオリティは低くないと思っています。ですが、有機肥料に変えていくことで、やせてしまった土を改善しながら食味も向上させ、将来的に産地の力をあげられると良いと思ってます。
河口:これから農業をやってくのは自分たち。先輩農家のバトンを受け継いで、若い人が、10年先、50年先を見たときに土をきちんと作っていかないといけないと思っています。
清水:今年とても暑かったので、売り上げがダウンする農業者が多いと思うんです。でもそのとき「うちのネギがダメだったのは自分のせい」と、気持ちまでダウンすることはない。「来年こそやるぞ」という気持ちでいてほしいですね。
横山:今年の気候で、露地栽培全般が苦労していると思います。だからこそ、未来に向かってがんばっていきたいですよね。今日、若い方がこれだけ未来に向けて一生懸命やっている姿に元気をもらえました。皆さん、ありがとうございました!
(編集協力:三坂輝プロダクション)