メルセデス・ベンツの新型車「EQE SUV」は、「Eクラス」や「GLE」などのエンジン搭載車から電気自動車(バッテリーEV=BEV)に乗り換える際の有力な候補になりうる1台だ。そこで気になるのが、BEVに乗り換えると燃費(電費?)がどう変わるのかということ。今回はEQE SUVの試乗レポートと燃費についての試算をお伝えする。

  • メルセデス・ベンツ「EQE 350 4MATIC SUV」

    メルセデス・ベンツの新型BEV「EQE SUV」のランニングコストは?

大きいのに小型車並みの小回りを実現!

EQE SUVは「日本の道路事情でも取り回しのしやすい小回り性能と高い走行性能を両立」した1台だというのがメルセデス・ベンツ日本の説明。これまで、ディーゼルを含むガソリン車に乗っていたオーナーが乗り換えても満足できるクルマなのかも含め、試乗して確かめてみた。

  • メルセデス・ベンツ「EQE SUV」

    試乗したのは「EQE 350 4MATIC SUV Launch Edition」というモデル。空力性能を高め継ぎ目が少ない「シームレスデザイン」を取り入れたことで、全体的に丸みを帯びたデザインとなっている。フロントフェイスには大きなエンブレムが鎮座。小さなスリーポインテッドスターが散りばめられたブラックパネルも相まって、迫力あるデザインに仕上がっている

車体サイズは全長4,880mm、全幅2,030mm、全高1,670mmと決してコンパクトサイズではないが、「リアアクスルステアリング」(左右に最大10度)が標準装備なので取り回しは良好。この装備は、低速走行時にハンドルを切ると後輪が逆方向に切れていく装備だ。これにより、最小回転半径はコンパクトカー並みの4.8mを実現。同社のSUV「GLE」が5.8m、コンパクトハッチバック「Aクラス」が5.0mであることを考えると、4.8mという数値がいかに驚異的かがおわかりいただけると思う。

実車を目の当たりにし、車内に乗り込んだ瞬間の印象は「デカい!」だった。実際に走り出してカーブや右左折を何度か繰り返してみても、本当に小回りがきくのかという不安は拭えない。ところが、首都高の大師PAに着いたとき、その不安は払拭された。

首都圏を走り慣れているドライバーにはおなじみかもしれないが、大師PAに入るには、料金所通過後すぐにUターンするようにハンドルを切って駐車場に入る必要がある。曲がりきれるのか不安だったのだが、EQE SUVのハンドルを全開に切ると思った以上に車体が曲がっていく。そこで初めて、リアアクスルステアリングの恩恵を実感した。都市部の路地や狭い駐車場での車庫入れにも困ることはなく、大きさの割に使い勝手はかなりいいと感じた。

  • メルセデス・ベンツ「EQE SUV」

    ハンドルを切ると後輪がわずかに切れる「リアアクスルステアリング」 を搭載する

空気抵抗の低さは「プリウス」級?

とかく「フル充電で何km走れるか」が注目されるBEVにとって、空力は重要な要素となる。EQE SUVは効率よく走るため、空気抵抗の低減に徹底的にこだわったBEVだ。クルマが走行中に受ける前後方向の風の力(抵抗力)を数値化した「Cd値」は0.25を達成。トヨタ自動車「プリウス」が0.24、マツダ「ロードスター」が0.20なので、これらのクルマより車高も高く横幅も大きいEQE SUVの数値は高く評価するに値する。

空気抵抗を減らすため、ボディ下面を可能な限りフラットにしたり、風を分散させるパーツ(フロントホイールスポイラーやリアアンダーカバーなど)を多用するなどの工夫を盛り込んであるEQE SUV。実際に走行してみて「これはCd値0.25の走りだな!」と実感することは難しいが、アクセルを踏み込んだときのレスポンスのよさも相まって、ストレスなく気持ちよく加速できる。

  • メルセデス・ベンツ「EQE SUV」

    小さなスリーポインテッドスターが散りばめられた内装にメルセデスファンなら気分はアガるはず。センターディスプレイが先進感を際立たせている。運転席からの視界については、車両の左右前方が少し見えづらいのが気になった

  • メルセデス・ベンツ「EQE SUV」

    車内前方からサイドドアに流れるようにデザインされているエアベントハンド。ネイビーカラーがアクセントになっている

高級車から乗り換えても不満なし? 乗り心地を試す

肝心の乗り心地はさすがとしかいいようがない。路面の振動をうまく吸収してくれるし、段差に乗り上げても下からの突き上げ感はほぼない。

車内の質感も非常に高い。特に好印象だったのは、明るめのベージュカラーとダッシュボードから両側サイドドアにかけてあしらわれたネイビーカラーの色使いだ。コントラストを高め過ぎると落ち着かない雰囲気になってしまう一方で、単色あるいは同系色でまとめると、場合によっては単調で退屈な色味におさまってしまいがちなところがインテリアの難しいところ。試乗車の内装は、ベージュとネイビーのコントラストが高級感たっぷりであると同時に、落ち着きも感じさせてくれた。

  • メルセデス・ベンツ「EQE SUV」

    体全体を包み込むような前席シートも好印象。長時間の運転でも疲れにくい

  • メルセデス・ベンツ「EQE SUV」

    前席のシートポジションを身長178cmのドライバーに合わせると、後席の足元は少し狭くなってしまう

完成度が非常に高いことは間違いないが、あえて気になった点を挙げるとすると「サウンドエクスペリエンス」だろうか。疑似エンジン音を「Silver Waves」「Vivid Flux」「Roaring Pulse」の3種類から選択できる機能で聞き心地は悪くないのだが、エンジンが回転する振動がほぼ感じられない中で、あたかもエンジンが吹け上がるような音が響くことには違和感が残った。ただし、同機能はOFFにもできるので、不要なら使わなければいいだけだ。

  • メルセデス・ベンツ「EQE SUV」

    メーターパネルは明るくて視認性がいい

  • メルセデス・ベンツ「EQE SUV」

    3種類の音から選択できるサウンドエクスペリエンス。エンジニアがこだわって作ったという電子音は試す価値ありだが、不要ならOFFにもできる

  • メルセデス・ベンツ「EQE SUV」

    バッテリーの残量はセンターディスプレイに大きく表示できる。あとどれくらい走行できるのかを示す航続可能距離の表示もわかりやすい

ハイオク・軽油と比較! EQE SUVの電費を試算

今回試乗したEQE SUVは89kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載していた。フル充電で走行できる距離は528km、電費値は5.9km/kWhだ。

しかし、ガソリン車のオーナーにしてみれば、「電費値」といわれてもどれくらいの燃費性能に相当するのかが把握しにくい。そこでメルセデス・ベンツ日本は、ディーゼルエンジン車の燃費に相当するEQE SUVの電費値を独自に試算し、軽油1リッターの値段でBEVなら何km走行できるのかを示してくれた。

まず、ディーゼル燃料(軽油)1リッターを150円と仮定する。BEVなら150円でどれだけ走れるのか。家庭用交流200Vでの充電が東京電力(TEPCO)の電気代で1kWh=30円だから、150円だと5kWhを充電できることになる。5kWhに電費値5.9を掛け算すると29.5kmになる。つまり、「EQE 350 SUV」ならば、軽油1リッターの値段で30km弱を走れる計算だ。ディーゼルエンジンを搭載するSUV「GLE 300d」の燃費13.6km/L(WLTCモード)と比べると、BEVのEQE 350 SUVは15.9kmも多く走行できることになる。

  • メルセデス・ベンツ日本による「EQE SUV」電費の試算

    メルセデス・ベンツ日本による「EQE」電費値の試算

ここからは筆者が独自に行った試算なのだが、ハイオク車とも比較してみた。ハイオク燃料が1リッター180円(2023年9月筆者調べ)とすると、同じ値段でEQE SUVなら35.4km(電費値5.9km/kWh×6)を走行可能と試算できる。ハイオク仕様のSUV「GLE 53 4MATIC+」の燃費が9.6km/L(WLTCモード)であるため、比較すると25.8kmも走行距離が長いということになる。

もちろん、BEVとガソリン車を単純に比較することはできない。加えて、地域ごとに異なる電気代、走行時の外気温、乗車人数、走行モードなどによって電費は大きく変わってくる。なので、この試算はあくまで目安として考えていただきたい。

  • メルセデス・ベンツ日本「EQE 350 4MATIC SUV」

    ラゲッジスペースは大きく開く。荷物の積み下ろしもしやすい

EQE 350 SUVの価格は1,369.7万円。電費値で比較したディーゼルモデルのGLE 300 dは1,120万円、ハイオクモデルのGLE 53 4MATIC+は1,510万円となっている。EQE 350 SUVは2車種の中間に位置する価格帯だ。決して安くはないし、筆者としても手の出ない価格ではあるのだが、高級BEVとして考えれば、この値段に納得できるメルセデスオーナーは多いだろう。

  • メルセデス・ベンツ「EQE SUV」
  • メルセデス・ベンツ「EQE SUV」
  • メルセデス・ベンツ「EQE SUV」
  • SUVでありながらクーペやハッチバックを思わせるデザインが特徴的だ

メルセデス・ベンツは2030年までに全新車販売をBEVにすると宣言しており、2024年ごろからEV向けパーツの製造を本格化するとしている。試乗したEQE SUVのように外部への給電が可能であり、「走る蓄電池」としても使えるBEVは、災害大国の日本にとって最も求められているモデルのひとつだ。取り回しのよさや空力性能、燃費性能に優れているとなれば、BEVのSUVというジャンルの中では敵なしと断言してもいい。ガソリン車から乗り換えても満足できるはずだ。