ミステリーの名手による同名小説を実写化した『連続ドラマW 湊かなえ「落日」』(※第1話無料放送・全4話)が、9月13日(日)22時に放送・配信スタートとなる。本作で、かつて自身が暮らしていた町で起こった一家殺害事件の真相に迫る新進気鋭の映画監督・長谷部香を演じたのは、今年デビュー20周年を迎える北川景子だ。シリアスな作品ながら「すごく楽しい現場でした」と撮影を振り返る北川に、香というキャラクターに対するアプローチや、内田英治監督の演出、吉岡里帆・黒木瞳ら共演者との交流などについて語ってもらった。
聞きたいことに対してズバッと言ってしまう
――主演発表のコメントで「真実に近づくためには手段を選ばなかったり突き進んでしまうところがあり、それ故に周りを傷つけてしまい、またそのことにも傷ついてしまう香の繊細さを表現したいと思い撮影に臨んでいました」とお話しされていました。その繊細さが見どころの一つになると思うのですが、実際のお芝居で表現するのは難しかったですか?
そんなに難しくなかったというか、今回の役柄自分なりにきちんとイメージしました。誰でも触れてほしくないと思っている過去とか「このことは人に話したくないな」っていうことを持っていると思うんですね。どこか棘というか、胃の中に石ころが入っているみたいな。そういう気持ちを抱えながら、でも懸命に普段生活をされている方もいると思うんです。
何も悩み事がゼロっていう人は、絶対にいないと思っていて。そういうざらざらした感情みたいなものを抱えながらも、普通に努めようとするということ自体が、既に人間ってぎりぎりのところで生きているじゃないですか。そこの部分を普通に、自然に演じられたらいいかなって思っていました。
だから「この人、繊細そうだな」「すごく目を揺らしてやってみよう」とか、そういうことじゃなくて、普通にこういう年齢の女性が一生懸命自分の触れたくないものに蓋をして、日常を何とかやり過ごしているっていう状況が、見る人からしてみれば既にいっぱいいっぱいな感じがして、緊張感だったりが伝わるんじゃないかなと思っていました。
香という人は映画監督という職業柄もあるのか、割りと聞きたいことに対してズバッと言ってしまうところがあるんです。「この事件について知ってるんじゃないですか?」とか。普通はもうちょっと遠回しなところから探って「お聞きしたいんですけど…」とかになると思うんですけど(笑)。
割と単刀直入にズバッと聞いてしまったりして「あの言い方、まずかったかな」って後で考えたりするような不器用さがあったり。知りたいと思ったら突き進んでしまうところがあるんですね。静かなる闘志みたいなものを持っている人だと思うので、声を荒げたりすごく走ったりするわけじゃないんですけど、静かにどんどん人との距離感を詰めてしまったり。
自分にも聞かれたくないことがあるのに、人の聞かれたくないことには平気で触ってしまうような。ちょっとした人としての欠陥がある、そういうところが演じられたらいいかなと思って、人と接するときの距離感がおかしいというのは、ところどころ取り入れてみました。
――内田英治監督をはじめとするスタッフの皆さんや、新人脚本家の甲斐真尋を演じた吉岡里帆さんなどキャストの皆さんとは、湊かなえさんの世界観を映像化するうえで、どのようなシナジーを生むことができたと感じていますか?
まずやっぱり、監督がすごく大きかったというか。気心知れたスタッフさんたちで結束力があり、「内田組」っていう感じでしっかり出来上がっているんです。スタッフの皆さんも監督が何を撮りたいのかっていうことを、そんなに説明されなくても阿吽の呼吸で受け取って、先に動いて準備するようなところがあったり。
とにかく「芝居を撮りたい」という監督ですし、カメラマンの伊藤麻樹さんも「ここに立ち止まる」とか「立ち位置・約束事」じゃなくて、本当にお芝居で自然に動いてもらったものを捉えたいという、やっぱりドキュメンタリーっぽい感じなのかな? 長回ししていく中で、微妙な表情の変化とかお芝居を捉えたいっていうような形を取っている方だったんです。そういうスタイルの組だからこそ、湊さんの描く微妙な心の揺れ動きとか心の機微みたいなものが表現できなきゃいけない作品で、すごくよかったんじゃないかなって思っています。
吉岡さんはすごく真面目で、きちんと理論的に考えていらっしゃる印象でした。感情でバーッと動くというよりは、きちんと頭で理解をして落とし込んだ後に、ロジカルにお芝居をされていて、とてもやりやすかったです。私自身も内田組に放り込まれている感じがが楽しかったんです。こういう組だったからできたなっていう気がしています。
吉岡里帆&黒木瞳との共演
――吉岡さんや、真尋の師である脚本家・大畠を演じた黒木瞳さんとは、現場ではどんなやり取りをされていたのでしょうか?
黒木さんは、もともと私が宝塚をすごく好きで伝説のトップスターでいらっしゃるので、そのことをいきなり言うと失礼なのかなって(笑)。ちょっとミーハーな感じがするっていうか「言わないでおこう」って思ったんですけど、結局は初日ですぐ言いました(笑)。「本当に、黒木さんが現役時代の映像を未だに見ています」と言ってお話をして、そこから盛り上がりました。この間も、黒木さんの朗読劇を誘っていただいて見に行ったんです。だから作品のためっていうよりは、普通に楽しくお話をしていた感じだったんです(笑)。
すごく楽しい現場だったんです。吉岡さんともいっぱいお話しをしました。頑張り屋さんなので、美容とか、どうやったらスタイルが良くなるとか、どうやって肌をキープするとか、そういう話にすごく興味をもって、何を食べているかとか、けっこう質問してくれた気がしています。私はそんなに気を付けるタイプじゃないので(笑)、期待に応えられる答えじゃなかったかもしれないんですけど、「楽しく食べよう」っていう話になって。黒木さんの朗読劇を吉岡さんと見に行ったんですけど、ご飯を食べて「やっぱり、甘いもの食べよう」っていう話になって(笑)。デザートを食べて、すごく楽しかったですね。
役者さんの中では、あまり役の話をする人はいなかったかもしれないです。黒木さんも「この役どう思う?」みたいなタイプの方ではなかったですし、監督をやっていらっしゃるから監督の目線をお持ちでした。「もっとこういう風に撮ったほうが伝わると思う」みたいなお話は、内田監督とよくされていましたね。吉岡さんも「このシーン、どう演じます?」みたいなことは言ってこなくて、合間はすごく気楽な話をずっとしていて、実際にそうして吉岡さんと仲良くなれたことが、自分もこの役柄を演じるにあたって助けになったというか、そんな気がしますね。
■北川景子
1986年8月22日生まれ。兵庫県出身。ファッション誌『Seventeen』のミスセブンティーンとしてキャリアをスタートさせ、特撮ドラマ『美少女戦士セーラームーン』ではセーラーマーズ役を務める。『モップガール』で連続ドラマ初主演を務め、これまでに『HERO』『家売るオンナ』など多数の作品に出演。映画では『間宮兄弟』で初出演を務め、近年では『スマホを落としただけなのに』『ラーゲリより愛を込めて』などに出演してきた。2023年の10月にはデビュー20周年を迎える。