キャンプ人気の高まりとともに、キャンプ場を起点とした地域活性への取り組みが進められている。ICTを活用したキャンプ場運営を進めているR.projectとNTT東日本は、「昭和の森フォレストビレッジ」において、自治体を招いた説明会を行った。

  • NTT東日本の岡本 理 氏(左)、R.projectの丹埜 倫 氏(右)

キャンプ場でのICT活用は何を実現するか?

千葉県千葉市の「昭和の森フォレストビレッジ」は、JR東日本・土気駅から車で10分ほどの位置にあり、東京からのアクセスが良好な人気のキャンプ場だ。オートキャンプサイトだけでなく、Snow Peakのアウトドア用品が体験できる「手ぶらプラン」や、館内宿泊も可能な「デイキャンププラン」など、自動車がなくともキャンプを楽しめるプランが充実しているのが大きな特長と言える。

  • 総合受付であるフォレストロッジは合宿や研修旅行にも使える宿泊施設だ

  • 薪やキャンプ用品、ジビエ、産直野菜などを販売するエントランス

いまキャンプ人口は増加の一途を辿っており、キャンプ場・グランピング事業は中小企業庁からも成長産業と見込まれている。この背景には、コロナ禍で3密を避けられるキャンプ場に注目が集まったことも大きいだろう。キャンプ場自体が、観光客を呼び込める魅力的な施設として認知され始めている。

そんなキャンプ場を中心とした地域創生の取り組みを行っているのが、R.project(アールプロジェクト)とNTT東日本だ。R.projectは、合宿やキャンプ、BBQなどを主な事業とするアウトドアコンサルティング会社。その目標は、キャンプ場を地域周遊のきっかけとし、ICTを活用して地域全体の活性化に繋げることにある。

2022年3月には、子会社であるRecampが運営する千葉県館山市の「RECAMP 館山」において、「ICTを活用したキャンプ場運営のスマート化・周辺地域活性化に関する実証実験」を実施。日本のキャンプ場に新風を吹き込んでいる。

「昭和の森フォレストビレッジ」では、2023年2月からスマートフォンだけでチェックインが行える「スマートチェックイン」の実証実験を行っている。これはR.projectが提供する、キャンプ場運営に特化した運営支援・予約管理サイト「なっぷ」によって実現されたもの。また、「なっぷ」から電子チケットを配布するといった取り組みにより、周辺施設の利用を促す取り組みも実施中だ。

  • なっぷアプリもしくはLINEエントリーによってスマートチェックインできる

  • チェックアウトも受付を介さずに行える

7月には、千葉市のスマートシティ推進課、緑地公園地事務所や、東京都環境局、多摩環境事務所、奥多摩町・大島町の自然公園担当者らによる視察も行われた。キャンプ場の効率的な運用のみならず、周辺施設の利用も含めた地域全体の活性化も促せる可能性があるとあって、どの担当者も真剣な表情で説明に耳を傾けていた。

  • 昭和の森フォレストビレッジの施設を見学する千葉市、東京都のみなさん

  • 説明会では実際になっぷに触れ、スマートチェックインを始めとした機能を体験した

求められる不便さと避けたい不便さ

これまでの実証実験から得られた課題感、そして今後の展開について、R.project 代表取締役の丹埜 倫 氏、NTT東日本 ビジネス開発本部 営業戦略推進部 営業戦略推進担当課長の岡本 理 氏に伺ってみたい。

2021年にスペースキーと資本提携を締結し、「なっぷ」を承継したR.project。この決断について丹埜氏は「我々は、ユーザーとしてビフォーなっぷ、アフターなっぷを経験しました。予約サイトが一般化する以前のホテル業界を想像してもらうと分かりやすいと思いますが、『なっぷ』のないキャンプ場予約管理は、電話、FAX、Eメールでやり取りする世界なんですよ」と話し始める。

  • R.project 代表取締役 丹埜 倫 氏

キャンプ場は繁忙期が非常に限られるため、ホテルのように恒常的に人を雇うことは困難だ。だが一方で、アナログな仕組みのままではチェックイン・チェックアウトにも多くの人手が必要。日本全体で人手不足が進行するなか、キャンプ場があるような地方はさらに影響が大きい。ある意味、デジタル化を駆使した業務効率化は当然の流れとも言える。

「不便には、不便“益”と不便“害”があると思うんです。便利さで言うとホテルに行って料理が出てくる方がはるかに便利です。でも、キャンプではテントを張ったりたき火をしたりという不便さを、失敗するリスク込みで楽しみたいわけですよね。一方で、キャンプ場に来たのに受付で1時間待つとか、自然による不可抗力の事故なんかは、取りたくない不便です。“できれば避けたい不便”をICTの力で取り除くことで、“本来楽しみたい不便”を満喫できる環境が作れるんじゃないかなと思っています」(R.project 丹埜氏)

こうした考えが、RECAMP館山での実証実験に繋がる。実証実験後、R.projectの声がけによりICT活用に興味のあるキャンプ場オーナーが集まる会が結成され、NTT東日本にはさまざまな要望が届いたという。

「RECAMPの協力もあって、アプリを活用した現場の運用は非常にうまくいっています。これによって人員の稼働を削減し、アルバイト採用人数を削減できたのは大きな成果です。一方で、急なプラン変更やアーリーチェックインといった突発的な対応はまだできていません。これはアプリに機能を実装していなかったことが原因ですので、今後は“現場ではできるがアプリではできなかった”差分を埋める開発を進めたいと思います」(NTT東日本 岡本氏)

  • NTT東日本 ビジネス開発本部 営業戦略推進部 営業戦略推進担当課長 岡本 理 氏

昭和の森フォレストビレッジの視察には、多くの自治体関係者が訪れた。今回参加した東京都も、アウトドアの官民連携の先進事例を参考にするために視察を行っていた。

「逆に地方の自治体が先進的であることが多いんですよ。自然の活用を真剣に考えていて、既存の条例の変更や設置管理許可、PFIの活用にも非常に熱心です。だからこそ今回も、奥多摩や大島などから千葉市まで来ていただけました。東京都の中心部にも魅力的な公園はたくさんありますので、今後の広がりに期待しています」(R.Project 丹埜氏)

重要なのは小さなキャンプ場でも採算が採れること

RECAMP館山、昭和の森フォレストビレッジでの実証実験を終え、キャンプ場でのICT活用の方向性も徐々に見えてきている。今後は、蜂や火事などによる被害の防止、子どもが敷地外に出て行かないようにする取り組み、キャンプ場の自然の管理といった活用を考えているという。

「『小さなキャンプ場でも採算が採れる』ことが非常に重要な観点です。自然公園を筆頭に、全国にはすばらしいキャンプ場になり得る場所がたくさんありますが、そういう魅力的な場所ほど大きな開発は難しく、事業収益が成り立ちづらいため、業者も自治体も開発に二の足を踏んでいます。でも、ICTを活用することで少人数でも運営できて、お客さんが満足できて、黒字化できるのであれば相当インパクトがあります。いわゆるへき地のキャンプ場の事業者サイドの課題を解決できれば、実はお客さんは自然豊かで静かで安全なところであれば、むしろ不便なことがうれしかったりもするのです」(R.Project 丹埜氏)

NTT東日本の岡本氏は、キャンプ事業におけるNTT東日本の展望と役割、そしてR.projectへの期待を次のように述べる。

「NTT東日本には、地域を元気にしていく使命があると思っています。キャンプ場は外から人を呼び込む必要があるコンテンツです。キャンプ場の経営を成り立たせ、さらに呼び込んだ人を地域に循環させていく。それが我々のキャンプ事業です。ですが、そのためには魅力のあるキャンプ場にしなければいけません。残念ながらNTT東日本にその力はないので、R.projectさんには我々にないピースに期待しています」(NTT東日本 岡本氏)

これを受け、R.projectの丹埜氏は次のように返答した。

「日本代表する大手企業がキャンプという分野に注目しているのは、アウトドア業界にとって非常にありがたいことです。NTT東日本さんは、全国の自治体とのネットワークを持っています。魅力的な資源をもつ自治体のニーズをくみ取り、我々の取り組みを共有して、日本のすばらしい自然を全国、海外に発信するパートナーになっていただきたいと思っています」(R.Project 丹埜氏)