大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第32回「小牧長久手の激闘」では、後に「徳川四天王」と呼ばれる本多忠勝(山田裕貴)、榊原康政(杉野遥亮)、井伊直政(板垣李光人)が目覚ましい活躍をした。

  • 榊原康政(小平太)役の杉野遥亮

■対照的な知性派・小平太と武闘派・平八郎

それぞれの甲冑もアップグレード。とりわけ本多忠勝こと平八郎は、2本の角のついた甲冑で、大きな数珠を肩から斜めがけして大迫力。「ここから先は一歩も通さん」と三方ヶ原の闘いで亡くなった叔父・忠真(波岡一喜)のように敵の前に立ちはだかった。第31回では、家康に叔父の形見のとっくりを渡していて、1573年の出来事を、10年経過しても叔父のことをちゃんと覚えていることにグッときたものだ(小牧・長久手の戦いは1584年)。

直政は、母・ひよ(中島安里紗)とのことを思い出したり、本多正信(松山ケンイチ)と同じく、家康を殺そうとしたにもかかわらず家康に許されたことを語り合ったりしながら、家康に報おうと戦った。

豊臣秀吉(ムロツヨシ)が「どうする家康?」と言いながら行った、中入りという挟み撃ち作戦への、徳川家康(松本潤)軍の対抗策は、土塁を掘り、そこを通っての奇襲作戦。中心になったのは、榊原康政こと小平太であった。

皆で泥だらけになって土塁掘りの作業をしているとき、平八郎は、小平太がこんな見事な図面が描けるようになって……と感心する。小平太は、戦闘能力の面において、平八郎に敵わないことを彼なりに悩んだ末、違う方向性に力を注いでいた。それは知恵を使うこと。古い小牧城を研究し、堅牢な城に作り替えたり(第31回)、正信の発案による秀吉の批評を書いてそこここに掲示するという精神的な攻撃の際、たくさんの言葉を思いついたりして(第32回)、彼なりに活躍。秀吉批判に関しては、平八郎は「たわけ」しか思いつかないのに、小平太は次々言葉が出てくるところが面白かった。さすが、本を読んでいる人は違う。

小平太は登場したときから、知性派のイメージがあった。家康とはじめて会ったとき、『論語』を読んでいて、大樹寺の登譽上人(里見浩太朗)から聞いた「厭離穢土欣求浄土」の言葉の意味を、家康に伝えたことで、家康に仕えることに。

武士の家系とはいえ家柄はよくなく、最初は、ちぎれ具足という、パーツが揃っていない不恰好な具足を身に着けていた小平太。ざるに「無」と書き、それを彼の信念にしていたようだ。第32回で、立派な甲冑になったときにも胴に「無」と書いてあった。初心を忘れていないのだ。実在の榊原康政も「無」を旗印にしていたと言われている。「無」とはとても哲学的というか文学的というか、奥深い。次男でもあるため出世も長生きも期待できなかった小平太が、何も期待せず、無私無欲でやってきたという意味なのかなと想像する。秀吉とは大違いである。

■他作品でも頭脳や技能で勝負する役が多い

知性派・小平太と対照的な武闘派・平八郎を演じている山田裕貴に以前、取材したとき、小平太役の杉野遥亮は、戦うという感覚がなく、人間は勝ち負けじゃないと思っていて、戦国時代の人々の生き方が理解できないと言っていたと語っていた(テレビブロス2023年5月号より)。杉野は山田には「ものすごく闘いのオーラが見える」とも言っていたとか。山田はそれを否定せず、「闘う」感覚があるのだと話していた。もちろん、いわゆる「戦争」のことではなく、俳優として成長することを勝つこととして捉え頑張ってきたという意味であるが。

戦う感覚のない杉野と、日々闘いの意識で仕事をしている山田のキャラの違いが、知性派・小平太の武闘派・平八郎の違いに出ていて面白いと感じる。

『東京リベンジャーズ』で杉野が演じている役が警察官の橘直人であり、山田が演じている役が喧嘩に強い龍宮寺堅であることも納得のキャスティングである。

『どうする家康』でも杉野は雄々しさや荒々しさ方面ではない、端正な役割を担っていて、月代を剃った額もなめらかな曲線で美しく上品。環境には恵まれてないもののポテンシャルはあって、それなりの才能を、跡継ぎではないため持て余している人物には現代にも通じるリアリティがある。この雰囲気は演技力か、はたまた当人の内面によるものであろうか。

2015年、大学在学中にFINEBOYS専属モデルオーディションでグランプリを獲得して芸能界に入った杉野。高校は進学校で、大学は法政大学、頭脳明晰らしく、顔つきや口ぶりにそれが滲み出ているように感じる。文字もきれいで(のびやかで品のいい字)、だからこそ小平太のような役が似合う。劇中でも「字がうまい」と言われていた。主演ドラマ『ばらかもん』(フジテレビ系)では書道家の役を演じている。これまで『罠の戦争』(カンテレ・フジテレビ系)では議員秘書見習い役、『ユニコーンに乗って』(TBS系)ではアプリ開発会社の技術責任者と、腕っぷしの強さではなく、頭脳や技能で勝負する役が多い。

事務所は松坂桃李、中村倫也、菅田将暉の所属するトップコート。トップコートの四天王のひとりと言ってもいいかもしれない。現在、27歳。30代に向かって、これからが勝負のときであろう。

ちなみに、『どうする家康』のもうひとりの四天王は、酒井忠次(大森南朋)で、勝利の暁にはおなじみの「海老すくい」を「天下すくい」の替え歌で歌い踊って場を盛り上げた。

徳川家臣団の苦労人で、ドラマのなかでは相当尽力して見える石川数正(松重豊)はなぜ四天王と呼ばれないのか。第33回以降、物語られていく。

(C)NHK