船橋情報ビジネス専門学校(以下、FJB)とNTT東日本は、カリキュラムとしてではなく、企業が実際に取り組んでいるDXを学び、体験する特別講座「DX Camp FJB」を昨年開催。同講座の成功を受け、本年度も実践型の教育プログラムとして、『「システム開発演習」 Microsoft365 課題解決授業 Powered by NTT東日本』を取り入れることになった。

2023年4月から7月まで、全28回開かれた授業とはいったいどのようなものだったのか。7月21日におこなわれた最後の授業に密着してきたので紹介しよう。

  • FJBで約4カ月に渡って開催された『「システム開発演習」Microsoft365 課題解決授業 Powered by NTT東日本』

企業が先導する体験型授業

FJBとNTT東日本が取り組んだのは、これから社会人になる若い学生がDXに対して興味を持ってもらい、理解を促進するという主旨を授業の中で体現するための特別講座の実施だ。

この取り組みは4月から7月の約4カ月間継続して行われるもので、講師としてNTT社員らがFJBへ出向く形でカリキュラムを実践していくというもの。使うツールは企業としてはもっともオーソドックスなツールであるMicrosoft 365を採用し、社会人となってからもこの授業が即戦力となる「体験」としてスキルになるよう工夫がなされている。

取材をおこなったのは最後の授業となる7月21日。これまで学生たちはそれぞれプロジェクトチームに分かれ、想定とする仮想の企業における課題の発見と解決策の提示をおこなってきた。その内容によって選ばれた上位2チームがこの日に発表されるのだ。

最初に壇上に呼び出されたのは優秀賞を受賞した「チームN」だ。リーダーの渡邉氏は「メンバーをまとめることやチームワークの大切さを学びました」とこれまでを振り返りつつ、成果を発表する。

  • 自分たちで開発したアプリのプレゼンをする「チームN」

彼らが取り組んだのは業務プロセスの改善だ。「業務プロセスに不満があまりにも多くありました。それをアプリで解決します。それが『私たちが考えた最強のアプリ』です」と語るリーダー。不満を解消するために彼らが真っ先に取り組もうと考えたのはカレンダーの改善だ。「カレンダーの使い勝手を良くし、データ反映の自動化や、自動通知などの機能を盛り込みます」と解説する。

  • 課題の発掘と解決策の提示。すべての企業が絶え間なく続けている活動を学生のうちから学べるのがこの授業の特徴だ

カレンダーは、ユーザーごとに選択しているのはどの日なのか、予定がある日はどこにあるかを分かりやすく表示。ユーザー名での絞り込みなども可能なのだが、あえてリスト化せずに手入力による検索方法を採用している。

「新しいユーザーが入ったときにリストを変更しないといけません。その手間を不要にするため、あえて手入力を残しました」と説明した。

また、特定ユーザーへの評価やフィードバックを送ることができるフォームも用意しており、情報の共有がやりやすいように工夫されている。このほか、データベースのレコードを使った情報の追加、変更の改善なども実装させた「チームN」。「このアプリを使えば、誰もが簡単に楽しく仕事ができます」と発表を締めくくった。

  • 優秀賞を受賞したチームNのメンバー

続いて壇上に登ったのは、最優秀賞を受賞した「チームE」。リーダーの福島氏は「私たちが取り組んだのは業務に最適化された案件管理システムです」と成果物の発表をはじめた。現状の案件管理システムにおける課題として冗長作業や手作業が多く、非効率な部分が目立つとした「チームE」。原因として彼らが導き出したのは、作業の複雑さとデータ互換性のなさ、冗長作業と最適化の不足となった。

  • さまざまな角度から分析した結果を発表する「チームE」。冷静かつ正確な判断が行われたのは驚きだ

「解決すべき最大の原因は冗長作業とし、有効な解決の手段として、Power Automate、Power Apps、重複の除去を挙げました」と話し、それぞれを評価したところ、差が無かったことからこの3つすべてを用いて解決していくことを決定したという。

「アプリケーションはPower Automate、Power Apps、Outlook365、Microsoft Forms、SharePointを使用して実装しました」と話す。これらの各ツールで構成したアプリケーションはコストパフォーマンスが高く、必要な機能の抽出が的確に実行できる点、高いユーザーエクスペリエンスの実現などが挙げられるとした。

  • Microsoft365のライセンスで入手できるツールだけを使用することで、付加価値を増やしていった

その後、開発したアプリケーションの詳細説明を行った「チームE」。「アプリ導入によって得られる効果は1件あたり85分かかっていた業務が45分に短縮できました。つまり1件あたり40分の削減効果があります」とその効果を実証した。

彼らの発表を受けて、FJB 校長の鳥居氏は「とても貴重な学びの場を得ていたことが、この発表だけでも感じました。講師の方々との一体感も素晴らしかったと思います。学校なので理論中心の学びが多いと思いますが、こうして企業で実際に課題解決を仕事としている方々による学校ではなかなかできないリアルな学びがあったかと思います。近い将来、みなさんも同じように課題解決に迫られます。その時に今回の学びが大いに活かされると思います。先生方に大変感謝しています」と語った。

  • 冷静で合理的な課題解決をおこなった「チームE」が最優秀賞に選ばれた

  • 学校法人三橋学園 船橋情報ビジネス専門学校 理事長・校長の鳥居 高之氏

その後、これまでの授業の振り返りや、今までの学びをどのように活かしていくかをディスカッションする場などを設け、参加者全員が自分たちが得たスキルをしっかりと心に刻んだ。NTT東日本の講師らはもちろん、学生たちも別れを惜しむ中、『「システム開発演習」 Microsoft365 課題解決授業 Powered by NTT東日本』は修了となった。

  • 今回の授業に参加した学生たちによる記念写真(スペースの都合で2組に分かれての撮影)

■授業を終えて

  • (左から)船橋情報ビジネス専門学校 ITエンジニア科4年制 教職員の若井 誠文氏、学生の永沢 空氏、NTT東日本 千葉事業部 千葉西支店 設備部 京葉サービスセンタ 担当課長の古川 貴之氏

――長期間の授業が終わりました。振り返ってみてご苦労された点はありましたか?

若井氏:私はエンジニア出身の教員ですが、インフラ担当だったのでシステム開発はあまりやったことがありません。ですから私にとっても今回の取り組みは初めての経験でした。

私が見てこなかったものをどうやって伝えようかといろいろと悩みました。しかし、学生達自らでいろいろなことに気が付いて欲しかったので、あまり踏み込まずに要点だけ教えるところが苦労した点ですね。

とはいえ、学生たちは一生懸命取り組んでいたので、実際にはアドバイスすることは少なかったように思います。NTTの先生方にも良い授業をしていただけたということもあるので、その点でも感謝するばかりです。

古川氏:NTT東日本から直接学校へ出向いて、4カ月という長期間の授業を実施するため、実業務に支障がでないように稼働調整を図ったり、業務分担を実施するという点においてはかなり工夫が必要でした。もうひとつ、どうすれば学生たちに伝わるのか、各授業のコンテンツや学生への伝え方については社内でも何回か議論しました。私たちが普段実施している新人育成とは違いますから、どのようなメッセージを伝えればよいかを決めるのは本当に難しかったです。

永沢氏:プロジェクトチームのリーダーとして今回の授業にあたってきましたが、チームメンバーは自分を含めて5名のメンバー間をまとめたり、タスクの管理をしたりするということの難易度の高さを実感しました。メンバーの状況も把握しつつ自分も作業を進めなくてはいけませんし、アプリケーション開発の品質も上げていくといった、同時に複数のことをこなすのは本当に難しかったです。

――本日で授業は終わりです。今率直にどのような感想を持っていますか?

永沢氏:難しいことも多かったですし、苦労もありましたが、その分普段の授業では学べなかったことをたくさん知ることができました。そういった意味では、本当に良い経験をさせていただいたなと感じています。ただ、最後の表彰式に残れなかったのは本当にくやしいですね(苦笑)

若井氏:学生たちの中からリーダーや技術リーダーを選出する方法について悩みましたが、最終的に私が決めることにしました。チームの中でリーダーになるであろう人、技術を引っ張っていくであろう人、タスクをこなしてくれる人といった形で、チームを振り分けていきました。

私の想定以上にリーダーはリーダーらしく動いてくれましたし、すべての学生が与えられた役目以上の活躍を見せてくれました。時間的な制約や選んだ手法などによって、成果物には差が出ましたが、全員が成長できたのがとてもよく分かりましたね。

古川氏:4カ月に渡って一つのカリキュラムをこなすというのは私たちもやったことがないチャレンジでした。学生の皆さんが日々受けている授業と同等のクオリティを提供できるか、かなり不安もありましたが、今後に役に立つ授業を届けたいという想いで、講師メンバーと共にここまで続けてきました。

今回は就職活動を控えた学生を対象に授業を行いましたが、実際のエンジニアが日頃行っているリアルな課題解決を通して、エンジニアは”技術力”が全てではなく、”課題が何かを見定めること”や“チームで共創すること”の大切さを少しでも感じていただきたいと思っていました。

結果として学生の皆さんにとても満足していただいたので、やってよかったと実感しています。今後、学生の皆さんには世の中の課題を技術力で解決できるプロフェッショナルな技術者を目指してほしいと思いますし、就職された後、皆さんの成果がニュースや記事として取り上げられることがあれば、私たちもとても嬉しいですね。

――ありがとうございました。