札幌市電の240形243号車を往年の塗装に復刻するクラウドファンディングが、無事に目標金額を達成。8月1日、報道関係者にお披露目され、車両を貸し切っての走行も盛況だった。復刻塗装の243号車は2024年5月まで運行予定となっている。

  • リバイバルカラーとなった243号車と、(写真左から)プロジェクト代表で街歩き研究家の和田哲氏、北海道鉄道観光資源研究会の会長を務める永山茂氏(筆者撮影)

クラウドファンディングは5月11日から6月30日まで実施され、当初の目標金額は550万円だった。期限の6月30日までに多くの支援が集まり、目標を大きく上回って終了。7月中に塗装作業が行われ、今回が初お披露目となった。

13時50分頃、243号車が外回り線から登場。すすきの停留場の貸切電車専用ホームに停車した。イメージ図に描かれていた塗装が実際に眼前に現れると、従来の塗装に慣れている沿線住民としては非常に新鮮な印象を受ける。札幌市営地下鉄の開業前を知る人をはじめ、長く札幌に住んでいる人にとっては懐かしさを覚える外観だろう。

  • すすきの停留場に進入する243号車(筆者撮影)

14時、列車は札幌市交通事業振興公社の関係者による見送りを受け、すすきの停留場を出発。モーターを唸らせて、内回り線を走行し始めた。

今回のお披露目にあたり、リバイバルカラープロジェクト代表で街歩き研究家の和田哲氏の招待で、沿線の小学校に通う4名の児童が乗車。札幌や市電の歴史に関する和田氏の軽妙なトークに耳を傾け、7月20日にグランドオープンしたばかりの商業施設「モユクサッポロ」に関するトリビアや、市電が環状運転となるまでの説明で大いに盛り上がっていた。

列車は窓を開けて走り、車内に入ってくる風が心地良い。いつもは停留場に停車しながらのんびり進む市電だが、アナウンスもなく通過していく様子は新鮮だった。

  • こどもたちに札幌の歴史や市電について話す和田氏(筆者撮影)

プロジェクトを支援した人には事前にメールで走行予定や時刻が知らされていたため、沿線に支援者やファンらが多数駆けつけていた。中には「祝! 243号」というメッセージを書いた手製の紙を掲げ、電車に手を振る人も。札幌市電が多くの人に愛されていることを実感する。

和田氏は目標金額達成を知った瞬間を「感無量だった」と振り返る。準備不足も影響して初動金額が思うように伸びず、スタートダッシュは成功とはいえなかった。募集期間の半分を過ぎても、目標まで200万円ほど必要な状態で、焦りもあったという。状況を打開するためにリターンを増やしたほか、沿線住民へのポスティングや動画サイトでの毎日生配信など、地道な活動も行った。札幌市交通事業振興公社も前向きに協力し、皆で目標達成のために戦略を練ったという。

こうした努力の結果、募集終了まであと10日となった頃から徐々に支援が伸び、大口の寄付も集まるようになった。担当者らの熱意が届き、6月25日の14時頃に目標金額を達成。その後も支援の勢いは止まらず、結果的にセカンドゴールも大きく上回り、支援総額は724万2,000円となった。

和田氏をはじめとするプロジェクト関係者は、地元の人々の市電に対する思いの強さを実感したという。支援者520人のうち、市電が走る札幌市中央区の在住者は50人ほど。客観的に数字だけ見れば全体の1割程度だが、北海道鉄道観光資源研究会宛に激励のはがきが届いたほか、ポスティングした世帯からも支援の申し出があったという。チラシを置いてもらった飲食店等でも、「よくぞやってくれた」という声をもらうことが多かったと話す。乗車時間や効率を考えれば地下鉄のほうが便利だが、市電には数字やデータに表せない魅力があるということなのかもしれない。

243号車は14時半頃、中央図書館前停留場付近の渡り線を使用し、電車事業所へ。所内で撮影・取材を行う時間が設けられた。

  • 前面にはリバイバルカラー実現への感謝を示すヘッドマークが掲げられた(筆者撮影)

  • 「ワンマンカー」表示など、細かいディテールにもこだわっている(筆者撮影)

改めて外観を観察すると、再現度の高さが際立っている。前面にヘッドマークを掲出したほか、系統番号を示す赤い札も塗装で再現。車内に支援者の一覧(名前の掲載に同意した人のみ)も掲示され、多くの人の思いが込められていると感じる。ツートンカラーの車体に白い帯が入った昔ながらのスタイルは、昭和レトロやSNS映えを求める令和の若者の琴線にも触れるかもしれない。

15時に電車事業所を出発し、再び内回り線へ。電車は東へ進み、さわやかな夏の空と藻岩山をバックに走る。こどもたちは窓から通行人に熱心に手を振るなど、楽しんでいた様子だった。「いままで見たことがない」と話していたリバイバルカラーの市電は、こどもたちにとって夏休みの特別な思い出のひとつになることだろう。

243号車は15時半にすすきの停留場へ到着。関係者らを下車させると、すぐに電車事業所へ回送された。和田氏は、「路面電車が走る風景を見てほしいし、札幌にはこれまで市電をあまり利用してこなかった人も多いはず。市電に関心を持ってもらうきっかけになれば」と話していた。

リバイバルカラーとなった243号車は、当初、2024年4月までとしていたが、多数の支援を受けて1カ月延長され、2024年5月10日まで運行予定となった。8月2日から営業運転に入っており、今後はイベント運転の開催等も企画しているとのことだった。

札幌市電に新たな装いの車両がまたひとつ加わった。路面電車は地元住民にとって、最も身近で重要な公共交通機関のひとつである。観光客の輸送も担う札幌市電の新たな顔となるだけでなく、全国の路面電車で活性化に向かう事例が増えることを期待したい。