フジテレビ系バラエティ番組『新しいカギ』(毎週土曜20:00~)のコーナー「学校かくれんぼ」が好調だ。長田庄平(チョコレートプラネット)率いる「新日本かくれんぼ協会」のメンバーが、テレビの力を駆使して実際の学校内に隠れ、生徒全員が制限時間内に探し出すという大規模なロケ企画で、昨年11月の第1弾から放送のたびに反響が拡大し、応募総数は1万5,000件を超える。
視聴率も、フジが重視するコア層(13~49歳)や、ティーン層(13~19歳)、キッズ層(4~12歳)というカテゴリーで横並びトップをマークするように。また、複数人数でテレビ画面に目線を向けた視聴データ(REVISIO社調査)では、今年4月3日~6月18日の期間で全番組トップに立った。
この企画はどのようにして生まれ、どのように準備を進め、本番の収録に臨んでいるのか。番組の立ち上げから総合演出を担当してきたフジテレビの木月洋介氏と、今後、番組全体の演出を引き継ぐ田中良樹氏に、大の大人が「かくれんぼ」に本気で挑む舞台裏を聞いた――。
■メンバーと高校生たちの“青春感”に手応え
「学校かくれんぼ」誕生のきっかけは、『クイズタイムショック』(テレビ朝日)でおなじみの「今、何問目?」から派生した問題をひたすら解答者に問うコント「クイズ何問目?」だった。ここから、『高校生クイズ』(日本テレビ)のように学校対抗とし、カギメンバーも加わった形に進化させた「高校生クイズ何問目?」を立ち上げたところ、「意外にもカギチームがガチで勝って、高校生たちとの“青春感”があってすごく良かったんです」(木月氏)と1つの手応えをつかんだ。
そんな中、「はこね男子(=松尾駿、せいや、岡部大による、なにわ男子のパロディーユニット)のゲーム企画などでコア視聴率横並びトップが何週も続くようになり、番組が知られるようになってきた中で、番組をさらにもう一歩進化させたいと考えたときに、やはり総合バラエティの宿命として、カギメンバーの7人がより輝く企画が必要だと、去年の5月ぐらいから新企画を考えていました。『高校生クイズ何問目?』の感じを見て、彼らが学校に行ったら生徒たちが盛り上がってくれるのではないか、という仮定のもと、学校に行く企画も考えてみようということで、構成作家の皆さんに募集したんです」(木月氏)と着手。
そこに、『魔改造の夜』『光秀のスマホ』などを手がける竹村武司氏が提案したのが「学校かくれんぼ」だった。「『学校にメンバーが隠れて、見つけられるか』という企画案メモだったんですけど、それを見て僕が個人的に思ったのは、『新しいカギ』は、全局全番組の中でコント美術スタッフのすごさが一番の強みだと自負していたので、その技術や財力を生かして教室の中に柱を作って隠れるとか、演者にペイントをして隠れるとか、学校では起き得ない、子どもたちにとって夢のようなことが起きたら面白いんじゃないかとパッと想像が膨らみました。シンプルなかくれんぼに留まらず、美術の大人たちvs生徒何百人たちの真剣勝負を見せるドラマチックなコーナーに進化させることができるんではないかと。壮大すぎて、何分くらいのコーナーになるか分からないけど、とりあえずやってみようと決めたんです」(木月氏)と、具体的に企画が動き出した。
この担当ディレクターを決めるにあたって白羽の矢が立ったのが、青春時代にやり残した思いを抱える芸能人が、期間限定の転校生として実際の高校生活を体験するバラエティ番組『BACK TO SCHOOL!』(19年10月~20年3月レギュラー放送)を作った田中氏だった。木月氏は「学校ものというまだ見ぬ領域に、しかもコロナ中に着手するには苦難が予想されていたので、一番ノウハウがありそうな田中Dに任せました」と、その意図を明かす。
■生徒との接触を避けながら入念にロケハン
まずは、かくれんぼの舞台となる学校を選定。「収録日に行ける距離に立地していることも条件ですが、ホームページの応募フォームの最後に、意気込みを1,000文字以内で書いてもらえるようにして、そこで結構熱いメッセージを書いてくれると行きたくなりますね」(田中氏)と、熱量も重要になる。そこには、「コロナで楽しいことがずっとなかったので、思い出を作りたいという人から、“果たし状”みたいなコメントもあります(笑)」(木月氏)と、個性あふれるメッセージが届くのだそう。
8月12日の放送回では関東から初めて飛び出し、沖縄の学校で敢行。「応募フォームに『まさか来るとは思いませんが』と書いてあったので、“じゃあ行ってやるぞ!”という思いで行くことにしました」(田中氏)と燃えた番組側は、隠れ場所になる美術セットを船便も使い、1週間かけて輸送して乗り込んだ。
学校が決まり、制作スタッフで現地を訪れて挨拶した後、美術スタッフを連れて4~5時間かけてロケハンを実施する。放課後など、極力生徒との接触を避けられる時間に訪問するが、「学校かくれんぼ」の下見とバレないように「横目でサラッと見たりして(笑)」(田中氏)隠れるのに適した場所を探し、生徒がいなくなったタイミングで採寸や色合わせ。その翌週には技術スタッフを連れて、校内に50台以上仕掛けるカメラの配置や機材ケーブルの配線を検討する。
美術スタッフはロケハンから1週間で、骨組みを作成。『新しいカギ』の収録日に合えばスタジオに持っていき、実際に入る演者が中に隠れられるかを試してみるが、「毎回せいやさん(霜降り明星)のサイズが合わなくて(笑)」(木月氏)、「日に日にちょっとずつ大きくなっているのかもしれないです(笑)」(田中氏)というくだりもありつつ、サイズを確定。そこから本番日に向けて2週間程度かけて作り込んでいく。
とは言え、「色については、3週間前にロケハンでカラーチャート(色彩表)を使って確認しているだけなので、95%くらい完成させた状態で前日に現地に持っていき、実際に現場で接する部分の色に合わせて塗り直す作業を夜な夜なやっています」(田中氏)と、ギリギリまで最終調整。リアル過ぎる植木やコピー機は、生徒たちを大いに惑わせてきたが、こうして予算と手間をかけた大規模なロケは、まさにテレビならではの企画と言えるだろう。
■予想を超える登場時の盛り上がり――スタッフが報われる瞬間
準備を整えると、昼休みに全校生徒の前にカギメンバーがサプライズで現れ、その日の放課後に「学校かくれんぼ」を開催することを発表。この瞬間が、いつも最大の盛り上がりになる。
メインキャストの3組はYouTubeチャンネルが人気で、“高校生が好きな芸人ランキング”の調査でも上位に入っていたため、「若い子にはウケるだろうなという感覚はありましたが、最初に行ったとき予想を超える生徒さんたちの反応にびっくりしましたね。他の芸人さんが学校でロケしたらあんまり盛り上がらなかったという話も聞いたんですけど(笑)、その時代によって学校に行って盛り上がるタレントさんというのは限られていて、かつてはV6さん(TBS『学校へ行こう!』)だったんでしょうけど、今はこの3組なんだなと感じました。学校に行く企画は、カギメンバー7人を輝かせる企画として現状最も相応しいと実感しました」(木月氏)と言うように、熱狂してくれるのだ。
田中氏は「沖縄の高校は特にすごくて、もう地鳴りのようでした(笑)。この瞬間は、僕らスタッフもみんな報われたような気がします」と実感を語る。