以前、『BACK TO SCHOOL!』を企画した田中氏。この番組は、番組の評価が世帯視聴率から新指標に切り替わる手前の20年3月に、レギュラー放送がわずか半年で終了してしまっただけに、そのリベンジを果たしたという思いもある。

「『BACK TO SCHOOL!』の最終回は、コロナで学校が休みになるというタイミングだったので、もう1回学校に行くバラエティを作りたいという個人的な思いもありました。ちょうど『学校かくれんぼ』が立ち上がるタイミングでロケもできるようになってきたところだったので、この企画の担当ディレクターに決まってプレッシャーはもちろんありましたが、“これは自分がやらなきゃ”という思いが強かったですね」(田中氏)

『BACK TO SCHOOL!』の経験値は、「学校かくれんぼ」に大いに生かされている。

「学校選定の際に、その学校のホームページや情報サイトを細かく見たり、事前に訪問して学生たちの雰囲気を探る作業に時間をかけてきたので、テレビの企画を楽しんでくれる学校の嗅覚は養われたと思います。また、前番組で生徒たちのいい顔をどう撮るかといろいろ試行錯誤した中で、やっぱり放課後にゲーセンとかカラオケに寄るときや、友達同士でくだらないことをしている時間が一番いい顔をすることが分かったんです。だから『学校かくれんぼ』でも、不良っぽく学ランを着た長田さんをはじめ、ちょっとヤンチャなお兄さんたちが来るという形にして、筆文字を多用したり、オープニングにタランティーノ監督の『ジャンゴ 繋がれざる者』の曲をつけたりすることで、“勉強や日常からの解放”という目線で作っています」(田中氏)

  • 田中良樹氏

■学校企画で番組が軌道に、今後の課題は…

前述の通り、「学校かくれんぼ」はシミュレーションができず、予算もかかる企画で放送尺も見えないところからスタートしたが、“何がどうなるか分からないけど、面白そうだからとにかく1回やってみよう”というマインドで企画が開発できるのが、コントにゲームなど様々なコーナーを配置できる総合バラエティである『新しいカギ』の強みだ。

「学校かくれんぼ」の2回目を開催した今年1月14日の放送は、「高校バスケ全国制覇の道」「高校生クイズ何問目?」もラインナップして“学生と真剣対決2時間SP”と銘打ったが、「この回で一気に視聴率が上がったんです。ここから番組が軌道に乗りましたね」(木月氏)と番組的にも手応えをつかみ、それからカギメンバーと学校の先生が生徒たちの前で漫才を披露する「先生と漫才グランプリ」など、学校を舞台にした企画を増やしている。

「『先生と漫才グランプリ』は(構成作家の)樅野(太紀)さんの発案なんですけど、僕の母校の桐朋高校には、文化祭で“教師かくし芸大会”という企画があったんです。普段、真面目な先生の意外な姿に対するギャップ笑いや、生徒のために一肌脱いでくれることによる感動があり、めちゃくちゃ面白かった原体験があったので、この企画をやってみたくなりました。先生とカギメンバーが、その学校のあるあるネタを題材に漫才を作るんですが、それだと内輪ネタに終始しそうだという懸念も言われたんですけど、僕はそう思わなくて。大きい声の先生が『起きろー』とか言うような先生の口癖とかを面白がる経験は誰もがあるじゃないですか。そういう記憶を思い起こさせて、誰もが共感し楽しめる間口の広いコンテンツに進化していきそうな予感がしたんです。この企画は杉野(幹典)Dに頑張ってもらっています」(木月氏)

今後は、「先生と漫才グランプリ」のコントバージョンや、実現までに約半年を要したという、長田率いる工業高校の生徒たちがロボコンさながらに、サッカーのシュートロボを作って、キラキライケメンサッカー部とPK対決する企画を放送予定。さらにこの先は、学生たちがカギメンバーを驚かす「学校きもだめし」に加え、先生が駅伝で対決する「学校駅伝」というコーナーも計画しており、「先生が生徒のために頑張るというものをやりたかったのと、学校中で走ったりする“背徳感”が味わえるのも、テレビならではだと思い企画しました」(木月氏)と狙いを語る。

このたび、総合演出の木月氏がバラエティ制作センターから編成部企画戦略班に異動するのに伴い、今後は田中氏が全体の演出を引き継ぐことになる。木月氏は「総合バラエティ番組として演者のポテンシャルが引き立つコント企画を大事にしながらも、かくれんぼ・漫才・バスケといった学校企画を先鋭化させることで、土曜8時にコア層の方々や子どもが一番見てくれる人気番組に成長しました。2年かけてようやく軌道に乗った感触です。演者・スタッフ皆さまのお力のおかげです。ありがとうございました。学校企画は準備に時間がかかるので、年内放送予定の楽しみな新企画もいくつか仕込んでいました。少々名残惜しいですがその結果は放送で見ることにして、ここからは田中Dにさらなる進化と発展を任せ、応援したいと思います。ただいま絶賛、引き継ぎ期間中です(笑)」と、後任にエールを送る。

それを受け、田中氏は「『学校かくれんぼ』は、もちろんカギメンバー7人がいるからこそのコーナーだと思うのですが、企画先行な部分があるので、これからはメンバーそれぞれの個性や笑いの特性が立つ企画で当たりを見つけていくのが課題だと思います」と意気込みを述べた。

●木月洋介
1979年生まれ、神奈川県出身。東京大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『ピカルの定理』『ヨルタモリ』『AKB48選抜総選挙』『スカッとジャパン』『笑っていいとも!最終回』の演出などを経て、この夏に編成部へ異動。『新しいカギ』『今夜はナゾトレ』は今後、後輩に総合演出を引き継ぐ。『キスマイ超BUSAIKU!?』『久保みねヒャダこじらせナイト』『さしフワご相談ナイト』『ポップハライチ』など、いくつかの番組は編成部で引き続き担当する。

●田中良樹
1991年生まれ、埼玉県出身。早稲田大学卒業後、14年にフジテレビジョン入社。『さまぁ~ずの神ギ問』『ホンマでっか!?TV』でディレクター、『BACK TO SCHOOL!』『関ジャニ∞クロニクルF』で演出などを担当し、現在は『新しいカギ』の演出を担当する。