先行き不透明な状況が続く中、金のように資産として「高級時計」を購入する人が増えている。世界的な需要増を背景に高級時計相場は高騰が続いており、一部では定価の100倍に値上がりしているモデルもあるという。

とはいえ、すべての高級時計に高い資産価値があるわけではない。資産価値が高い時計とそうでない時計には、どのような違いがあるのだろうか。「買取大吉」を運営する、エンパワー大吉事業部の木村健一本部長に聞いた。

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■資産として高級時計を購入するなら「ロレックス」「パテック・フィリップ」「カルティエ」など

ーーブランド時計の中でも、資産としての価値が高いブランドや時計の種類を教えてください。

資産価値が高いブランドの代表格が「ロレックス」で、ほかには「パテック・フィリップ」「オーデマ ピゲ」「ヴァシュロン・コンスタンタン」「カルティエ」なども定価より値上がりする可能性のあるブランドです。

時計の種類で言えば、やはり機械式時計のほうが資産価値が高いと言われています。5年に1回程度、オーバーホールと呼ばれる分解洗浄が必要ですが、きちんとメンテナンスをすれば半永久的に使えるからです。

また機械式時計は、小さな部品がたくさん組み合わさってできており、美術的な要素があるのも価値が落ちにくい一因です。時計の裏ぶたがガラス張りで内部が見えるデザインもありますが、内部の構造をルーペで拡大しながら鑑賞する人もいるくらい、時計好きにとってはロマンを感じさせてくれる存在です。

  • エンパワー大吉事業部の木村健一本部長

――資産価値が高いと言われるブランド時計の中でも、特にロレックスはここ20年ほどで著しく価格が上がっている印象があります。その背景を教えてください。

ロレックスのブランディングがうまくいっていることと、供給が需要に追い付いていないことがおもな要因として挙げられます。特に近年はコロナ禍での工場の一部閉鎖などもあり、生産数が減りました。一方、金と同じように資産性を考慮して時計を買う人が増えているので、ロレックスを欲しがる人が増えており、需要に供給が追い付いていない状況です。

さらに、部品の高騰なども加わって、新品価格は年々上がっていますし、中古相場も高騰しています。発売当時の定価が100万円ほどだったモデルが、今では400~500万円程度で取引されているケースもあるくらいです。

――有名あるいは人気のある高級時計ブランドでも、資産価値が下がりやすいブランドはあるのでしょうか?

時計相場自体は安定していますが、しいて言うなら、「ウブロ」のように一部の層のあいだでは高い人気があるものの、サイズ感やデザインが特徴的で万人受けしにくいブランドはリセール価格が下がってしまう傾向にあります。

また、一部の限定品を除いて、十分な供給量がある「オメガ」の定番品なども資産価値としてはそれほど高くありません。

■資産価値が高い時計の"3つの条件"とは?

――同じ「高級時計」の中でも、資産価値が下がりにくいものとそうでないものがあるのはなぜですか?

資産価値が高い時計の要素として、まず生産数が少ないことが挙げられます。2つ目の要素が、ブランド自体の人気が高く、需要が供給を上回っていることです。ロレックスはその人気ブランドの筆頭です。そして、3つ目の要素が機械式時計であるということです。

反対に、資産価値が下がりやすい時計は、供給が需要を上回っていて、欲しいときにいつでも買えるという特徴があります。また、電池式のクォーツ時計は基盤が破損してしまうと修復不能となり、寿命があることから、クォーツ時計が極端に値上がりすることはありません。

――これまでの買取大吉での買取実績において、買取価格が定価を上回った事例を教えてください。

ロレックスは定価を上回るものが大半を占めています。"サブマリーナ"、"デイトナ"、"GMTマスター"、"エクスプローラー"といった、プロフェッショナルモデルと呼ばれるモデルが代表的ですが、デイトナは定価の2.5 倍~3倍、サブマリーナは2倍弱。GMTマスターは約2倍、エクスプローラーは1.5 倍程度の買取価格が付いていますね。

1960~1970年代に製造されたロレックスのヴィンテージ時計の場合、当時定価が20~30万円程度だったものが、今では5倍~10倍程度の価格で取引されています。ものによっては100倍になるケースもあるくらいです。例えば、1960年代~1980年代に製造されたデイトナ6263は、当時の定価が30万円ほどでしたが、現在の取引相場は1,000~1,500万円と、顕著に値上がりしています。

また、カルティエの限定コレクション"クラッシュ"は、定価が200万円程度だったのに対し、現在は3,000~3,500万円に高騰しています。

――冒頭で挙げていただいた、ロレックスやパテック・フィリップ、オーデマ ピゲといった資産価値が高いとされるブランドの限定品を買っておけば、将来値上がりすると考えていいのでしょうか?

ロレックスなら値上がりの可能性が限りなく高いですが、限定品だからといって必ずしも値上がりするわけではありません。モデル自体の人気の度合いなども影響するので、場合によっては限定品でも定価より値下がりしてしまうことがあります。特に、パテック・フィリップやオーデマ ピゲのようなハイエンドブランドは好みが分かれる傾向にありますね。

実は、一番値上がりしやすいのは定番をベースにした限定品です。特殊なデザインは好き嫌いが分かれますが、定番のデザインで文字盤だけ色が違うなど、汎用性の高いデザインは人気が出るので価格が上がりやすいんです。

■高額買取を狙う方法とは?

――高級時計を売りたい場合、高く買い取ってもらうために注意することはありますか?

オーバーホールや新品仕上げをして、きれいにしてから買い取りに出したほうが高く売れると思っている人が多いですが、実はそうではありません。

研磨をすると外装が削れて痩せてしまうので、防水時計の防水性がなくなるなど、時計本来の機能が発揮できなくなることがあります。また、ヴィンテージ時計の場合は、傷や汚れがあることに価値を見出す人もいるので、きれいにすることで価値が落ちてしまうこともあるんです。

一番高く買い取ってもらう秘訣は、できる限り購入したときのままの状態で買取店に持っていくことです。買い取った後、オーバーホールや新品仕上げをするかどうかは買取店が判断するので、個人で手を加えず、そのままの状態で持っていくのが一番です。

――高級時計を買うとき、直営店以外の場所で購入する場合は、偽物に遭遇するリスクもあります。偽造品を買ってしまわないために気を付けたいことを教えてください。

最近ではメルカリのようなCtoC(個人間取引)も活発になっていますが、私ならCtoCでは購入しません。仮に商品が本物だったとしても、アフターサービスがきかないため、故障やトラブルがあった場合は結局高くついてしまうからです。その点、ちゃんとした中古時計専門店であれば、数年間の保証が付くので、保証期間内であれば何かあっても無償で修理が受けられます。

「偽物をつかまされない」という観点からも、アフターサービスの観点からも、やはり実店舗で現物を見てから購入するのが一番安心です。実店舗を構えている時計専門店であれば、偽物を扱っていることはほぼないでしょう。

イメージ違いなどを防ぐためにも、一度は現物を見ておくべきですが、もし最終的にECで購入するのであれば、実店舗を持っている企業のオンラインショップで購入することをおすすめします。

■高級時計相場は今後も高値継続か

――今後の高級時計の相場はどうなっていくと予想されますか?

中長期的に見れば、高級時計の価格は今後も上がっていくのではないでしょうか。そもそも高級時計は、職人がパーツの作成から組み立てまで、1つひとつ手作業で行っていて、大量生産ができないので、供給が不足しがちです。

また昔は、知る人ぞ知るという位置付けだった情報が、今はネットで誰もが手に入れられるようになりました。それによって、「資産として時計を持っておこう」と考える人が増えれば高級時計への需要も高まり、価格も上がっていくと考えられます。新興国にも富裕層が増えている中、海外でも高級時計への需要が拡大する可能性が高く、そうなると日本国内の価格にも影響します。

ただ、短期的に見れば若干値下がりする局面も出てきます。実際に、高級時計相場は去年の夏頃がピークで、それ以降はやや下がり調子です。とはいえ、現在の相場は「上がりすぎた価格が適正価格に戻りつつある」という程度で、歴代最高額をやや下回っているくらいです。

最近、「買取大吉」でも昔購入したロレックスの持ち込みが増えています。10~20年前に30~40万円に購入したロレックスの時計に100~150万円の値が付くので、非常に喜ばれる方が多いですね。ピークよりはやや下がっているものの、依然として高値が続いていることには変わりはないので、売却を検討されている方は、早めに買い取りに出したほうがいいかもしれません。