東京・新宿のSOMPO美術館で、「生誕100年 山下清展 -百年目の大回想」展が始まりました。関東大震災の前年に生まれた“放浪の天才画家”の生誕100年を記念し、昭和の時代に「日本のゴッホ」とも呼ばれた山下清の、画業と人生を振り返る大規模な回顧展となっています。
ある世代以上の人にとっての山下清は、日本各地を放浪し、旅先で起こる事件をなんとなく解決して、絵を描く。そんな国民的人情ドラマ『裸の大将』での、独特の口調と素朴で純真な姿ではないでしょうか。ドラマ未見の筆者も、山下清といえば裸の大将、ランニングに短パン姿で「おむすびが食べたいんだな」という人、というイメージしかありませんでした。
山下清といえば“放浪する画家”ですが、実際には画材道具を持たずに旅に出て、旅先で絵を描くことはなかったそう。行く先々でご飯やお水をもらい、寝泊まりはたいてい駅の待合室。時には魚屋や蕎麦屋などで、住み込みで働くこともありました。
彼は驚異的な記憶力を持っていて、スケッチやメモをとらずともその風景を脳裏に焼き付けて克明に記憶し、細部に至るまで正確に思い出すことができたのです。そして、長い放浪の旅から戻ると、旅先で見た風景を、高い集中力で手で細かくちぎった紙片を緻密に貼り合わせ、『長岡の花火』に代表されるような超絶技巧の貼絵を次々に生み出していきました。
1954年、新聞で「日本のゴッホ いまいずこ?」と大きく報道され、山下清は“放浪の画家”として世間に広く知られるように。清が好んだ自由気ままな放浪生活を続けることが難しくなり、「放浪を辞める誓い」を出して、制作活動に専念するようになりました。
1956年にはすでに有名画家となっていた清の展覧会が、東京の大丸百貨店で開催されるや、26日間でなんと80万もの来場者を集めたというから、その凄まじい人気ぶりがうかがえます。各地で催される展覧会でサイン会が行われれば、どこも大盛況。このころからペン画を制作するようになり、展覧会で訪れた土地での風景や季節の行事を描いています。
一般人が海外旅行に行くことがまだまだ難しかった1961年、39歳の時に、清は約40日間のヨーロッパ取材旅行にも出かけています。画材道具を持たずに飛び出したかつての放浪とは異なり、この時にはスケッチブックを持参して、各地の建築や名所の風景をスケッチ。帰国後に本格的に制作に取り組み、写実的に捉えられた『ロンドンのタワーブリッジ』や『パリのエッフェル塔』など、貼絵や水彩画に昇華していきました。
『裸の大将』として人気者となり、大衆からそのキャラクターが愛されても、本人はランニングと短パンというイメージには納得せず、外出するときはベレー帽にジャケット姿だったといいます。1971年、清は脳溢血で倒れ、49歳の生涯を閉じました。最期の言葉は「今年の花火見物はどこに行こうかな」だったそう。
本展は、山下清の代表的な「貼絵」の作品に加えて、子供時代の鉛筆画、後年の油彩、陶磁器、ペン画、さらに未発表点を含む約190点の作品が集結。旅に持参したリュックや浴衣、所蔵していた画集などの関連資料も展示されています。フィクションで描かれてきたステレオタイプな山下清とは異なる、真の芸術家・山下清の生涯と、その圧倒的な才能をぜひ目撃してください。
■information
「生誕100年 山下清展-百年目の大回想」
会場:SOMPO美術館
期間:6月24日~9月10日(10:00~18:00)/月曜休※ただし7/17は開館
観覧料:一般1,400、大学生1,100円、高校生以下無料