6月6日の四国知事会にて、「四国新幹線の整備は岡山ルート」で一致したと報じられた。これまで、徳島県の飯泉前知事は淡路島ルートを主張していたが、新任の後藤田知事が岡山ルートに賛同したため、4県知事の意思が統一された。四国新幹線の実現に向けた取組みが加速しそうで喜ばしいが、いくつか疑問がある。

  • 新幹線基本計画の四国新幹線(大阪市~大分市)と四国横断新幹線(岡山市~高知市)。赤の実線と紫の実線は費用便益比「1.03」と実現性が高い。一方、徳島県の飯泉前知事は淡路島ルート(青い点線)を啓蒙する活動を進めていた(地理院地図を加工)

■疑問1 : すでに岡山ルートで意思統一されていたはずでは?

新幹線の建設は、全国新幹線鉄道整備法にもとづき、大臣が「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」で路線を告示し、その中で優先順位の高い路線について整備計画を決定する。これを「整備新幹線」という。

整備新幹線は「費用対効果」「営業主体のJRの同意」「地方自治体が並行在来線の経営分離に同意」「建設財源について国と地方自治体の合意」といった条件が整うことで着工、そして開業という段階をたどる。四国の新幹線基本計画は、「四国新幹線(大阪市~徳島市~高松市~松山市~大分市)」と「四国横断新幹線(岡山市~高知市)」の2つ。実現にあたり、この2路線を整備新幹線に昇格させる必要がある。そのためには、「地域にとって新幹線が必要か」を示さなければならず、「費用便益比(B/C)」が判断材料となる。建設費が便益(社会的利益)を上回れば、新幹線整備の投資を行うだけの価値があるとされる。

2011年、四国4県と四国経済連合会、JR四国などが「四国の鉄道高速化検討準備会」を結成し、四国新幹線の基礎調査を実施した。2014年に発表された調査結果によると、四国新幹線は費用便益比「0.31」、四国横断新幹線は費用便益比「0.59」とされ、最低基準の「1.00」に満たなかったという。ただし、四国新幹線で最もコストの大きい海峡部分を除き、同時に四国横断新幹線を開業することで、費用便益比「1.03」となり、最低基準をクリアできた。

四国4県の県庁所在地を結び、瀬戸大橋を出入口として岡山を結ぶ。このルートが費用便益比の条件をクリアした。発表当時、「整備新幹線の格上げに近づいた」として大きな話題になった。このルートが現在、「岡山ルート」あるいは「T字ルート」と報じられている。

調査結果をもとに、整備新幹線格上げをめざした組織として「四国の鉄道高速化連絡会」を2014年に設置。さらに四国一丸となって新幹線整備を推進する組織「四国新幹線整備促進期成会」も設置された。「四国新幹線整備促進期成会」は、四国経済連合会会長またはそれに準ずる者を会長とする。副会長は四国4県の知事、四国4県の商工会議所連合会会長あるいは会頭である。もちろん徳島県知事も、徳島県商工会議所連合会会長も含まれている。

つまり、すでに岡山ルートでまとまっている話ではないか。わざわざ徳島県知事が「岡山ルートを表明」し、四国4県知事が意思統一を喜ぶとは不自然に思える。じつはここに、前徳島県知事の「建前」と「本音」が見え隠れしている。四国知事会は水面下でくすぶっていたようだ。

■疑問2 : 四国知事会で岡山ルートと淡路島ルートの議論があったか?

ほとんどの報道は、「いままで四国知事会は淡路島ルートを支持する徳島県と岡山ルートを支持する3県で意見がまとまらなかった」としている。しかし前項で説明した通り、建前上は岡山ルートで決まっているし、いままで意見が不一致ならば、なんらかの報道もあったはず。「徳島県と他3県の対立」などと煽る報道もありそうなものだが、ニュース検索サービスでは見当たらなかった。

四国知事会は毎年6月上旬に開催されている。高知県の公式サイトに、2006(平成18)年から2022(令和4)年までの議事録があった。概要を列挙すると、「四国新幹線を要望する」で一致しつつ、ルートについては議論されていないことがわかる。

  • 2006(平成18)年6月 : 四国新幹線の議論なし
  • 2007(平成19)年6月 : 四国新幹線の議論なし
  • 2008(平成20)年6月 : 四国新幹線の議論なし。新幹線がないから羽田便発着枠を配慮してほしいとの意見あり
  • 2009(平成21)年6月 : 四国新幹線の議論なし
  • 2010(平成22)年6月 : 四国新幹線の議論なし
  • 2011(平成23)年6月 : 四国新幹線の議論なし
  • 2012(平成24)年6月 : 徳島県飯泉知事(当時)の四国新幹線、四国横断新幹線を要望するとの意見に3県知事が賛同
  • 2013(平成25)年6月 : 四国新幹線の議論なし
  • 2014(平成26)年6月 : 徳島県知事より、今後新幹線を議論していきたいとの意見。3県知事も賛同
  • 2015(平成27)年6月 : 四国新幹線の推進に賛同で4県知事が一致
  • 2016(平成28)年6月 : 四国新幹線の推進に賛同で4県知事が一致。徳島県知事は「リタンダンシー」(後述)、高知県知事は「岡山や関西圏の皆様との協力が不可欠」と発言
  • 2017(平成29)年6月 : 徳島県知事発言「北陸新幹線の大阪までのルートが決まって、そこから先、関空はどうするのかと(中略)それをどう取り込むかを我々としては当然考えておく必要があります。つまり、関空新幹線をあれだけ与党が言い始めていることを、しっかりと横目で見ながら、対応(四国新幹線の接続)していく必要があるように考えます」
  • 2018(平成30)年6月 : 持続可能な地域公共交通ネットワークの構築に向けた緊急提言。新幹線は必要で一致
  • 2019(令和元)年6月 : 徳島県知事が「山陽新幹線の代替機能」と発言
  • 2020(令和2)年5月 : 「JR四国の維持のためにも新幹線は必要」で一致。北海道との連携を検討
  • 2021(令和3)年5月 : コロナ禍、エネルギー問題が主で新幹線は議題にない
  • 2022(令和4)年6月 : 新幹線に全員賛同するも、具体的なルートの議論なし。四国における鉄道ネットワークの維持・活性化と四国の新幹線の早期実現に向けた緊急提言

ここまで、「岡山ルート」という言葉は議事録にない。「四国に新幹線を」という意見のみ統一されただけだった。徳島県の飯泉前知事が2016年に発言した「リタンダンシー」は、山陽新幹線の冗長化という意味を含んでいると思われる。具体時には、淡路島ルートと九州到達によって関西と九州を結ぶ新幹線が二重化される。そのため、山陰新幹線よりも利点がある。飯泉前知事は2019年も「山陽新幹線の代替機能」と発言していた。

ちなみに、2010年に民間企業等も合わせた「四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会」が立ち上がり、2013年に「四国の鉄道高速化検討準備会」が調査に着手。2014年に「T字ルート案の採算とB/C」を発表し、岡山ルートの優位が確認された。

その後も飯泉前知事は四国知事会で淡路島ルートをにおわせている。香川県知事、愛媛県知事、高知県知事はこれに反対することもなく「新幹線整備要望に賛同」しているわけで、四国知事会が淡路島ルートを追認しているようなものだろう。

徳島県にとって、京阪神は淡路島を挟んで「ご近所」であり、岡山ルートは遠回りになってしまう。徳島県民の利点を考えれば、淡路島ルートは捨てられない。徳島県がもっと京阪神経済圏に近づきたいと考えたとしても、当然のことといえる。

飯泉前知事は2014(平成26)年5月12日の定例記者会見で、次のように述べている。

「山陽新幹線1本では心もとない。やはり大動脈として、四国新幹線をリダンダンシーと。この2つの意味、これは近畿(ブロック)知事会議の場でもね、皆さんが賛同したのが、今では逆に近畿の皆さんの方が必死になってね、関西空港に新幹線かリニアを入れるんだと。あるいは、名古屋まで開業のリニア、これを早く大阪に持ってくる。その必要性の1つとして、関空をしっかりつなぐんだと。これだということでね、徳島が火付け役になったわけでありますけどね」

「そして我々としては、関空まで新幹線が来て、関空がターミナル駅、終着駅になる。これはありえない世界ですよね。やはり関空、対岸にはすぐ淡路島が見えている、目と鼻の先に。淡路に新幹線、リニアを渡らせてしまえば、大鳴門橋は新幹線仕様になっているわけですから、そのまま佐田岬までは行けるわけなんですよね。あとは豊予海峡をどうするか。これは九州の大分、宮崎、ここも期成協議会のメンバーに既になっているところでありますんでね、そうしたことからすると、四国の中でもいろいろな所で、いや縦軸だ、横軸だとかね、あるいはそれに対してのB/C(ビーバイシー)だ。経済界も巻き込む中で、最初私が言った時ね、この場でも言った時に、そんな財源どうするんですかと言われた記者さんもおられましたけどね、そういう話じゃないんですよね」

徳島県知事は近畿ブロック知事会にも出席して連携を深めている。近畿ブロック知事会は、大阪府、京都府、兵庫県、和歌山県、奈良県、滋賀県、三重県と、近隣の福井県、徳島県、鳥取県が参加する。事務局は関西広域連合本部にある。記者会見の発言にもあるように、近畿ブロック知事会は北陸新幹線あるいはリニア中央新幹線の関西国際空港への延伸を要望しており、飯泉前知事はさらなる延伸として淡路島ルートを望んでいた。

つまり、飯泉前知事は「四国新幹線整備促進期成会」に名を連ねておきながら、知事会以外の場所で淡路島ルートを主張し続けていたことになる。2018年に徳島経済同友会が開催したシンポジウム「未来を創る交通インフラ」でも、「ポイントは、関西国際空港を核として四国や関西が急増するインバウンドをいかに引き受けていくかである」と飯泉前知事は述べている。

しかし報道にあるように、飯泉前知事は四国知事会に対して「淡路島ルートを求めていた」「淡路島ルートを訴えていた」ことはない。一方で、岡山ルートを主張する知事もいなかった。知事会記事録に「徳島県以外の3県が岡山ルートで一致」という根拠はない。

ただし、基本的に徳島県以外の3県は「四国新幹線整備促進期成会」の岡山ルートに賛同している。そこに飯泉前知事も名を連ねておきながら、淡路島ルートで活動し続けていたから、四国知事会としてはルート問題に触れられなかった。だから知事会の統一意見として、政府与党などに対する交渉は歯切れが悪かった。

2023(令和5)年の四国知事会の議事録は、原稿執筆時点でまだ公開されていないが、報道の通り徳島県の後藤田知事が「岡山ルート」と言明したことにより、やっと四国知事会は新幹線に対して積極的に動けるようになった。

■疑問3 : 後藤田知事は淡路島ルートに「撤回」を表明したか?

一部報道で、「後藤田徳島県知事が淡路島ルートを撤回」と報じられた。6月の四国知事会と、5月25日の近畿ブロック知事会議にて、「四国は岡山ルートでやっていく」と後藤田知事が明言したことによるものと思われる。

とはいえ、「撤回」には違和感がある。徳島県にとって京阪神経済圏は重要だが、その関係を断つ発言をするだろうか。知事が交代して政策が変わることはあっても、徳島県の利益に反する発言があったとは信じがたい。「四国新幹線整備促進期成会」の岡山ルートについても、「山陽新幹線の代替経路の確保(将来)」としており、大阪市や大分市への延伸を否定していない。

別の報道を見ると、後藤田知事の談話として、「岡山ルートを優先的に」「二つあるうちの一つをまず進めていくのは、これは当たり前のことで、それを徳島1県が邪魔することではないと思う」「JR四国の在来線がたいへんな状況で手をこまねいて 国に要請して1ミリも前に進まないで良いのか」という発言もあった。

6月9日に行われた後藤田知事の定例記者会見でも、徳島新聞社の「紀淡ルートを否定するのではなくて、進めるために優先順位を変えるというお考え(ですね)」に対して、「そうですね」と即答している。徳島県知事は「撤回」という言葉を使っていない。「撤回」報道は先走りすぎ。むしろ誤報と言っていい。

前知事は淡路島ルートを推す動きを見せていたが、新知事はそれをしないと宣言した。「四国は岡山ルートで一致」というまとまりを見せることで、四国新幹線の整備新幹線への格上げをめざしていく。なぜかと言えば、JR四国の経営悪化が深刻になっており、四国の鉄道網維持、公共交通の確保が危機的だからだろう。いち早く新幹線を整備しないと、JR四国がもたない。早く経営を安定させたい。徳島県の都合より四国全体の利益を考えた、後藤田知事の「英断」といえるだろう。

■後藤田知事は淡路島ルートに含みを持たせている

後藤田知事はJR四国の新幹線について、岡山ルートの優先順位を上げて四国の意見を統一し、まずは実現をめざすという考え方のようだ。淡路島ルートは「撤回」ではなく、そのあとで整備する余地を残している。いま、他の3県の知事と行動を共にすれば、次に淡路島ルートを提案する際、3県の知事の後押しが得られるという期待もあるかもしれない。

筆者は「後藤田知事に淡路島ルートの副案がある」と予想している。京阪神と徳島を結ぶルートとして、新幹線以外に「紀淡ルート」があるからだ。JAPIC(日本プロジェクト産業協議会)が2017年に刊行した『提言! 次世代活性化プロジェクト BEYOND 2020』によると、和歌山県と淡路島の間の紀淡海峡に「道路」と「高速鉄道」の2つの提案がある。これらと鳴門大橋を連絡すれば、大阪・関西国際空港・徳島を結ぶルートになる。鳴門大橋は鉄道を通す空間が設けられており、現在はサイクリングロードに転用されている。

JAPICは建設業界やインフラ関連機器メーカー、商社などが参加し、国土開発に関する調査研究と政策提言を行っている。『提言! 次世代活性化プロジェクト BEYOND 2020』で全国のプロジェクトを網羅しており、「四国の新幹線」を「重点推進プロジェクト」と位置づけている。これとは別に、「紀淡海峡連絡路」と「新大阪~関西空港~四国連絡高速鉄道」を「提案プロジェクト」として掲載している。

「高速鉄道」は2つの意味を持つ。ひとつは新幹線。もうひとつは神戸高速鉄道、埼玉高速鉄道、横浜高速鉄道などに代表される「路面電車より高速な鉄道(都市高速鉄道)」である。北陸新幹線やリニア中央新幹線が関西国際空港に来るかは未知数だが、在来線で整備し、JR阪和線や南海線と連携すれば話が早い。

いくつかの報道が、いきなり「徳島県が他の3県との対立を解消」といった論調だったので、筆者は疑問を持った。実際には、いままで四国知事会で真摯なルート議論が行われなかっただけだった。ともあれ、結果的に四国新幹線が進捗する流れが加速しそうで、鉄道ファンの1人として喜ばしい。また並行在来線問題、路線存廃問題が浮上するかもしれないが、それもずっと後の話。いまは四国新幹線の開通に希望を持ちたい。