4月25日に行われたJR四国の社長会見で、西牧世博社長が利用者の少ない路線について自治体と協議する意向を表明したと報道された。予土線の全区間、予讃線「愛ある伊予灘線」の向井原~伊予大洲間、牟岐線の阿南~牟岐間・牟岐~阿波海南間が対象となった。

  • JR四国が自治体と協議したいとする3路線4線区(地理院地図を加工)

このタイミングは、4月21日の「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」の改正法案成立がきっかけとみられる。輸送密度1,000人/日未満の鉄道路線について、国が主体となって協議会を設置し、地域にふさわしい交通体系の構築を促す方針を打ち出した。この法律自体は鉄道路線廃止をめざしたものではないが、地域によっては鉄道以外の手段に最適化される可能性が高い。

さかのぼると、2016(平成28)年にJR北海道が「持続的な交通体系のあり方について」という意見書を発表し、自治体と協議する意向を示した。このときから、「同様に経営状況が厳しいJR四国はどうなのか」と心配する論調も見られた。以前から予想できた事態が、ついに社長会見で明言された。

JR四国の社長会見から2日後の4月27日、愛媛県知事と高知県知事がそれぞれ定例記者会見を開き、記者の質問に答える形で意見を述べている。JR四国の対象線区となった3路線4線区について、現状と自治体の反応をまとめた。

■予土線 若井~北宇和島間(高知県・愛媛県)

予土線は若井駅(土佐くろしお鉄道)と北宇和島駅(予讃線)を結び、単線非電化で路線距離は76.3km。起点は若井駅だが、同駅から川奥信号場までの線路は土佐くろしお鉄道が保有している。列車の運行形態として、全区間を通して走る普通列車が1日4往復。若井側・北宇和島側ともに1駅先まで乗り入れ、窪川~宇和島間で運転される。他に区間運転の列車として、江川崎~宇和島間で4往復、近永~宇和島間で2.5往復を設定している。

  • 予土線の路線図(地理院地図を加工)

宇和島駅周辺に学校が多いため、宇和島駅発着の列車が多い。沿線の土佐大正駅付近に県立四万十高校、沿線外だが窪川駅付近に県立窪川高校もあり、利用者の多くが通学生と推察される。

予土線といえば観光列車の運行でも知られる。貨車を改造した「しまんトロッコ」、沿線の観光施設にちなんだ「海洋堂ホビートレイン」、新幹線0系に似せた「鉄道ホビートレイン」など、ユニークな車両が普通列車として運転されている。JR四国はこれら3タイプを「予土線3兄弟」として宣伝しており、テレビの旅番組にもしばしば登場する。ただし、都市部から行くには不便なところゆえ、乗りにくい列車といえる。

もっとも、この不便さがJR四国にとって重要だったかもしれない。空港からも高速バスの停留所からも遠いため、訪れるならJR四国の予讃線または土讃線の特急列車が便利。つまり予土線自体は赤字でも、予土線にアプローチする列車がJR四国の収入増につながる。これが筆者の見立てだったが、輸送密度はそれほど高くなかった。2020年度の平均通過人員(輸送密度)は195人/日。フリーきっぷ利用者を除くと133人/日である。ローカル鉄道にとって観光利用の期待は大きい。しかし実力が伴わないと経営的には評価されない。

  • 予土線で活躍する観光列車のひとつ「鉄道ホビートレイン」

JR四国の社長会見を受けて、高知県の濵田省司知事は「都道府県間をまたがる交通手段の確保は国が一義的行政責任を負うべき分野だ」としつつ、「JR四国側からの話し合いの申し出が具体的にあったら真摯に受け止めて検討していく必要がある」「関係する愛媛県、あるいは沿線の市町と歩調を合わせ、県境をまたぐ地域交通をどう守っていくかという観点で必要な対応を取っていこうと考えている」と語った。

愛媛県の中村時広知事は、予讃線「愛ある伊予灘線」区間も含めて、「本来、鉄道は全国規模でサービスを展開する前提だ。国にとって鉄道とは何か、全国あまねくという体制になっているか、分割民営化の見直しなど根本的な議論がないがしろになっている」とコメント。八矢拓副知事は、「利用促進については全面的に協力していきたい。利用促進のための協議会もあるので、しっかり意見交換していきたい」と述べた。

予土線に関して、高知県予土線利用促進対策協議会が観光情報サイト「よどせん」を立ち上げており、予土線と駅の紹介、予土線の旅のコラムなど掲載している。愛媛県予土線利用促進対策協議会も、予土線の利用促進を図るため、「YODOSENサポーター」を募集している。入会すると沿線の4施設で割引などの特典がある。

民間では、愛媛県松野町の松野商工会による「JR予土線圏域の明日を考える会」が発足している。建築家の隈研吾氏が総合アドバイザーに就任し、今後も予土線の活性化について行政と連携しながら活動していくという。

■予讃線「愛ある伊予灘線」区間(愛媛県)

予讃線は高松~宇和島間を結ぶJR四国の主要幹線だが、複線区間は高松~多度津間のみ。高松~伊予市間が電化区間となっており、岡山・高松~松山間で特急「しおかぜ」「いしづち」が走る。どちらも電車で運転され、JR四国の看板列車、稼ぎ頭となっている。

伊予市~宇和島間は非電化区間。このうち向井原~下灘~伊予大洲間(41km)は、かつて名実ともに「本線」といえる区間だった。しかし、1986(昭和61)年に内子駅経由の短絡ルート(34.7km)が完成すると、特急列車はトンネルで直線的に結ぶ短絡ルートに移り、海岸沿いに曲がりくねった下灘駅経由のルートは普通列車のみ走る閑散ローカル線区となった。その後、観光利用促進のため、「愛ある伊予灘線」の愛称が付けられた。

  • 「愛ある伊予灘線」のうち、向井原駅から伊予若宮信号場(分岐点)までが対象線区(地理院地図を加工)

  • 「伊予灘ものがたり」は2022年から2代目車両に

下灘駅は「青春18きっぷ」の販促ポスターなどをきっかけに、海に近い駅、夕陽が美しい駅として知られるようになった。2014年に観光列車「伊予灘ものがたり」の運行が始まると、下灘駅は人気となり、テレビ・雑誌・新聞等で広く紹介された。「伊予灘ものがたり」は営業成績も良く、2022年から3両編成の2代目車両を投入している。

JR四国の象徴的な観光列車が走る区間だけに、「愛ある伊予灘線」の協議入りは意外に思えた。しかし2020年の平均通過人員は、フリーきっぷ利用者を案分しても274人/日にとどまる。愛媛県は利用促進策として、「サイクルトレイン愛ある伊予灘号」などを実施している。JR四国としては、観光要素の強い路線であれば自治体に還元される経済効果もあり、自治体に積極的に関わってほしいと考えているかもしれない。

■牟岐線 阿南~阿波海南間(徳島県)

牟岐線は徳島駅から南へ進み、阿波海南駅に至る単線非電化の路線で、路線距離は77.8km。かつての終点は海部駅だったが、この駅を境界としていた阿佐海岸鉄道に阿波海南~海部間を譲渡した。阿佐海岸鉄道がDMV(デュアル・モード・ビークル)を導入するにあたり、地上にモードチェンジポイントが必要になり、高架の海部駅ではなく、1駅手前の阿波海南駅がその役割を担った。

  • 牟岐線のうち、阿南駅より南側が対象線区に(地理院地図を加工)

列車の運行状況として、徳島~牟岐間で特急「むろと」を1日1往復設定している。早朝に牟岐発徳島行、夕刻に徳島発牟岐行を運転しており、観光というより通勤ライナー的な存在といえる。普通列車は全区間直通列車を6.5往復、徳島~阿南間など区間運転の列車を約20往復設定。徳島駅寄りの列車が多く、利用者も多い。2020年の平均通過人員は徳島~阿南間3,574人/日、阿南~牟岐間423人/日、牟岐~阿波海南間146人/日だった。協議の対象は阿南~牟岐間・牟岐~阿波海南間の連続した2線区となる。

JR四国と徳島バスは、2022年から「徳島県南部における共同経営計画」を実施している。牟岐線の阿南~牟岐~浅川間において、並行する徳島バスと南部バスをJR四国の乗車券・定期券で利用できる。列車の運行本数の少なさを徳島バスで補うねらいがある。列車とバスの両方を組み合わせた時刻表も公開している。

列車のほうがバスより速いものの、バスのほうが便利となれば、鉄道の必要性が薄まるのではないか。ちなみに、筆者がDMV取材のため牟岐線に乗車した際は、朝の通勤通学時間帯に高校生の利用者が多かった。バスで代替できるかといえば、この時間帯に限っては難しそうに思える。

  • 牟岐線の通学風景

もうひとつの懸念は阿佐海岸鉄道である。牟岐線を延長する形で建設され、現在はDMVを走らせている。牟岐線がなくなれば鉄道路線として孤立する。せっかく鉄道路線を残したというのに、徳島市内から鉄道で乗りに行けなくなってしまう。私案として、阿南~牟岐~阿波海南間はJR四国から阿佐海岸鉄道へ移管してはどうか。

DMVの導入は当時の徳島県知事、飯泉嘉門氏が推し進めたプロジェクトだった。しかし4月9日の徳島知事選挙で落選している。新任となる後藤田正純氏の知事就任は5月18日から。徳島県の公式サイトも知事に関するページは更新されていない。記者会見の記録も3月17日から更新されていなかった。後藤田氏は読売新聞の4月23日付インタビュー記事で、「導入してしまったから仕方ない、使うしかないではなく、持続可能かどうかを考えてスタートしたのか検証したい。(中略)誰もほとんど使わないのに、維持管理費がかかるだけになってしまっては本末転倒だ」と語っている。牟岐線と合わせて存廃協議に入る可能性もありそうだ。徳島県は「徳島県生活交通協議会」を設置しているものの、牟岐線に特化した利用促進協議会はないようだ。

■2024年度まで利用促進施策を進めよう

協議に入る3路線4線区は、「鉄道と観光」において重要でもある。JR四国としては廃止したくないだろう。しかしそれを許さない経営状況になった。

報道によると、JR四国は2025年度までに「路線の存廃を含めた検討」を行うという。これを深読みすると、コロナ禍回復期の2023~2024年度は「現状のまま様子見」となる。高知県知事、愛媛県知事は「利用促進」「活性化」を進めるとコメントしており、それが着実に実行されることを期待したい。一方、地域の人々にとっては、鉄道という交通手段が最適か、もっと便利な交通体系はないか、検討するチャンスかもしれない。

JR四国は経営状況に関して、決算と「JR四国グループ中期経営計画2025の達成に向けた取組み」を報告している。ただし、個別の路線の動向について公式サイトに記載していない。これらの経営報告は出資者向け、取引先に向けたものである。社長会見で路線の存廃という利用者に向けた重要な発言があったにもかかわらず、公式サイトには記載されていない。

徳島県知事が交代の時期で公式コメントがないという「県政の空白」も気になった。これは徳島県の問題で、JR四国がわざわざこの時期を狙ったわけではないと思うが、配慮してほしかった。