織田・徳川連合軍対武田軍による壮絶な戦い。大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第22回「設楽原の戦い」は、家康(松本潤)の息子・信康(細田佳央太)と武田信玄(阿部寛)の息子・勝頼(眞栄田郷敦)という次世代が成長し、活躍をはじめた。未来ある若者たちが戦いに身を投じていくことは見ていてつらいが、この時代では仕方のないことだったのだろう。

  • 『どうする家康』武田勝頼役の眞栄田郷敦

偉大なる信玄の後を継いだ息子・勝頼のプレッシャーは相当のもの。父を尊敬するゆえに、父と違う方法で戦に挑む。だが、それは裏目に出て、織田信長(岡田准一)の作った横に長い馬防柵と鉄砲3,000丁を使った物量作戦によって、片腕だった山県昌景(橋本さとし)を失ってしまう(死屍累々のなか倒れる橋本さとしの迫真。さすが舞台俳優)。

どうする勝頼? という感じなのだが、眞栄田郷敦の揺らがない瞳はたのもしく、父譲りの派手な真っ赤な甲冑も着こなしていて、堂々たるもの。赤い彗星のシャアかという感じである。彼が率いる「赤備え」と言われる真っ赤な甲冑の軍団も強そうで、決して負けそうに見えない。

史実では、ゆくゆく武田は滅ぶ。そうしてしまった勝頼は、偉大なる信玄に比べ、ぼんくらな人物だと考えられているが、『どうする家康』の勝頼はそうは見えない。若い才能ある颯爽とした人物に見える。瞳がくりっと大きく、ヒーロー顔なのである。

信玄には「そなたは、わしのすべてを注ぎ込んだ至高の逸材じゃ」と言われたほどの勝頼。それに説得力はあるのは、演じている眞栄田が、日本を代表するアクションスター千葉真一さんの息子で、なんだか強く見えてしまうからだろうか。でも、設楽原の戦いでの勝頼は、信玄は天下をとるために慎重に時間をかけ過ぎて寿命が尽きてしまったので、自身はスピード勝負、機を逸しないという考えで攻めに出て、あえなく負けてしまって残念だった。

父が偉大過ぎるから息子は劣っているに決まっていると思われる勝頼と、父が偉大だから凄そうという期待値が高い眞栄田。この組み合わせが、『どうする家康』の武田勝頼を魅力的に作りあげている。

眞栄田はこれまで、ぼんくらな役も、そうでない頼もしい役も見事に演じてきた。アメリカ育ちで、2019年、19歳で俳優デビューして、現在23歳。フレッシュだし、期待の若手として主演作も何作かある。恋愛ドラマ『プロミス・シンデレラ』(TBS)やよるドラ『カナカナ』(NHK)など、一見ワルそうだが根はいい人物を好演するなか、実力を広く注目されたのは、昨年放送された『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ)であろう。

『エルピス』は朝ドラこと連続テレビ小説『カーネーション』の脚本家・渡辺あや氏がはじめて民放で脚本を書いたことで話題になったうえ、忖度しないで社会の暗部に切り込んだ挑戦作としても高い評価を得た。眞栄田が演じたのは、テレビ局の新人ディレクター。ある事件をきっかけに正義に目覚め、事件の真相を暴いていく。お坊ちゃんでちゃらっとしていたぼんくら青年が、見違えるようにどんどんきりっとした顔になっていく変化は見応えがあった。

デビューしてまだ4年目。新鮮だからこそ、色がついてなく、成長し変化していく役が合う。若いときのみの貴重な時期を、ひとつも無駄にすることなく、いい役を常に全力で演じているように感じる。例えば、『キン肉マン THE LOST LEGEND』(WOWOW)という異色作も、発表されたとき、あのキン肉マンをやるの? どうやって? と驚いたものだが、フィクションとドキュメンタリーを混ぜたような趣向で、実写化が難しい作品に参加した眞栄田本人が、主役の重責を背負って徐々にたくましくなっていくという、やっぱりこれも若き俳優の成長譚だった。

悪気ない素直さの表現が素なのか演技なのかわからないところが魅力で、『エルピス』の取材で、「(パンドラの箱に)もし災いが入っていたらどうします?」と筆者が聞いたときの回答「それはそれでなんとかしますけれど。選ぶなら希望がいいですね(笑)」(シネマズプラスインタビューより)も絶妙だなと思った。「それはそれでなんとかしますけれど」と、変に力が入ってないところが逆にたくましい。

天然、よくいえばピュアさが、いまどきあまりいない真面目なヒーローっぽいではないか。役と素が混ざったような人物が物語の進行に従ってどんどん変化して、最後は成長する過程込みで楽しませてもらえるところは武田勝頼も同じだろう。勝頼は主役ではないため、あまり多くは描かれていないが、短い出番でも、成長期の柔らかい若葉のような魅力が発揮されている。ぼんくら路線か優秀路線か、まだどこに向かうか未知数だが、確実にエネルギーに満ちていて、それだけで物語になってしまう。

設楽原の戦いでは負けた武田軍だが、勝頼は瀬名(有村架純)や信康の調略を進めている。武田滅亡の前に勝頼が活躍する場はまだあるはず。どうなる勝頼?

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