是枝裕和監督×脚本・坂元裕二×音楽・坂本龍一による映画『怪物』が、2日から公開されている。豪華タッグが実現し、第76回カンヌ国際映画祭でも話題を呼んでいる同作が公開される。大きな湖のある郊外の町に住む、息子を愛するシングルマザー・早織(安藤サクラ)、生徒思いの学校教師・保利(永山瑛太)、そして早織の息子・湊(黒川想矢)と同級生・依里(柊木陽太)……よくある子供同士のケンカに見えた事件は次第に社会やメディアを巻き込んで大事になり、ある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した。

今回は、公開後に気になる作品の結末を含む話について、是枝裕和監督にインタビュー。編集で変わったラストシーンや、作品に含まれるテーマ、撮影するための環境づくりについても話が及んだ。

【※このインタビューは作品の結末についての記述を含みます】

  • 映画『怪物』 (C)2023「怪物」製作委員会

    映画『怪物』 (C)2023「怪物」製作委員会

■「この映画を作りたい」と目指した姿に

――改めて作品について、坂元さんとはどのようなことを話し合ったのでしょうか?

最後に関しては、編集で「こういう形でどうだろうか」という提案を僕からさせていただきました。ちょっとしたことで、観た後の感じがずいぶん変わってしまうんですよ。言い方が難しいですけども「2人は死んじゃったのかな」という形に見える編集のパターンもある。本当に、途中で一言セリフを足すか削るかで2人のラストの見方が変わってくるような状況だったんです。

僕も坂元さんも「2人が死んじゃったようには見せたくない」というのが共通の認識だったから、どういう形で着地させるか、0号から初号の間で、最後の15分の編集をずいぶん変えました。坂元さんにも見ていただいて「こんなに編集で変わるもんなんですね」と言っていただいたので、今の形になりました。最初に「この映画を作りたい」と思ってみんなが目指した後味に、1番近いと思います。

――テーマとして、性の揺らぎ、少年たちの同性愛の関係が含まれると思います。作品にするにあたって、どのように臨まれましたか?

非常に今日的な題材ですし、繊細な扱い方を求められるテーマなので、LGBTQのこどもたちの支援をしている専門家の人にも脚本を読んでもらって、意見をいただきました。彼らの感情にどう寄り添うのか、2人に対していろいろと専門家の方にレクチャーをしていただいたり、スタッフの勉強会を開いたりしながら、やってみました。ただ今回の湊と依里に関しては自らをゲイだとかクィアというような自認はまだ出来ていないという設定にしました。自らのアイデンティティをそうやって客観的には名付けられないからこそ「怪物」と自ら名付けてしまうという設定です。そのあたりはレクチャーで学んだことを反映させました。

自分の中に得体の知れないものを感じる時期ですし、周りの大人たちの“普通”や“男らしく”という言葉が、当人は決してネガティブに使ってないのに、ある種の暴力、ある種の怪物として彼らに迫ってしまうのはあり得ることですし、そこはちゃんと描くべきだと思いました。僕が脚本を読んで最初に感じたのは、「この2人は『銀河鉄道の夜』のジョバンニとカンパネルラだ」ということでした。なので2人にも最初に「読んでほしい」と『銀河鉄道の夜』の話をしたのを覚えています。

――だから廃電車が出てくるんですか?

それが、電車はプロットの最初からあったんです。坂元さんがどこまで意識してたかはわからないですけど。

――これまで、子役には台本を渡さず口伝えの形で撮影をされていましたが、今回は台本も渡しての撮影方法と伺いました。

今までは本人のパーソナリティに沿う形で撮ることが多くて、瞬間瞬間をちゃんと生きてくれればいいという感じだったんだけど、今回はやっぱり抱えているものが非常に重く、その場で言ってできるものでもないとは、感じていました。事前に湊が抱えているものを本人も認識して納得した上で、ちゃんと演じてもらう必要があるなと思いました。

きっと2人は今後も役者を続けていくと思います。黒川くんは撮影中も、もう僕やサクラさん、瑛太さんに「お芝居ってなんですか?」「気持ちってどうやって作るんですか?」って、それは熱心に聞いてたんです。僕も「気持ちはここ(胸)にあるわけじゃない、頭にもないよ。もっと体のいろんなとこにあるよ」という話をしていました。

――そういう問いが出てくる現場ということだったんでしょうか?

それはやっぱり、サクラさんや瑛太さんの芝居を間近で見てたら、感じることがあるんだろうと思います。「なんだろう?」と思うんじゃないかな? すごくいい勉強の場だったと思います。

■是枝裕和監督
1962年6月6日、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。2014年に独立し制作者集団「分福」を立ち上げる。1995年に『幻の光』で監督デビューし、その後も『誰も知らない』(04)、『そして父になる』(13)、『海街diary』(15)等、数々の作品を世に送り出す。2018年の『万引き家族』は、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞し、第91回アカデミー賞外国語映画賞にノミネート、そのほか多くの映画賞を受賞した。2019年の『真実』は国際共同製作作品として海外の映画人とのセッションを本格化させ、2022年には初の韓国映画となる『ベイビー・ブローカー』で、第75回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品、エキュメニカル審査員賞を受賞。また主演のソン・ガンホが韓国人俳優初となる最優秀男優賞を受賞した。

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