藤井聡太棋聖に佐々木大地七段が挑戦する第94期ヒューリック杯棋聖戦(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)は、6月5日(月)にベトナム・ダナンの「ダナン三日月」で幕を開けました。対局の結果、113手で勝利した藤井棋聖が4連覇に向けて好スタートを切りました。

角換わり腰掛け銀の研究勝負

振り駒が行われた開幕局、先手となった藤井棋聖は角換わり腰掛け銀に誘導します。対して後手の佐々木七段が用意した4筋への飛車回りは専守防衛に構えて先手の仕掛け方を限定する狙い。待っていても手詰まりになると見た藤井棋聖が単騎の桂跳ねで局面を打開して戦いが始まりました。複数の前例がある展開を前に、ともに早いペースで指し手を進めます。

藤井棋聖の攻めのターンが続きます。角を犠牲に7筋にと金を作った藤井棋聖は、後手陣中央に構える佐々木玉めがけてじわじわとこれを近づけ始めました。局面は、藤井竜王のと金攻めが間に合うまでに佐々木七段がうまい反撃を用意できるかどうかがポイントに。攻めを急ぎたい佐々木七段は、こちらも角を犠牲に藤井玉を危険地帯に引きずり出しました。

決め手逃すも藤井棋聖が勝利

手番を得た先手の藤井棋聖はここから丁寧な受けを基調に徐々にリードを奪いますが、やがて一つの分岐点を迎えます。持ち時間が切迫する中、後手の佐々木七段が詰めろの角打ちで下駄を預けた局面で局後の検討では藤井棋聖の方に5手1組の攻防手があったと佐々木七段から指摘が。決め手を逃した格好の藤井棋聖は感想戦でがっくりと肩を落としました。

実戦で藤井棋聖は5筋で攻め駒を清算してから自玉の詰めろを解除する妥協策を選びますが、これで形勢は互角に。紆余曲折を経て仕切り直しの終盤戦となった本局ですが、直後に佐々木七段の指した8筋の歩突きが攻め急ぎの敗着になりました。これを手抜いて端角を打ったのが藤井棋聖の機敏な勝着で、手順に急所の桂を外して先手優勢が確立されました。

終局時刻は18時56分、形勢の針を取り戻してからは安定した指し回しを見せた藤井棋聖が佐々木玉を寄せきって開幕局を制しました。敗れた佐々木七段は「(初めてのタイトル戦で)慎重になりすぎる部分も多かった」と振り返りました。日本に戻って行われる第2局は、6月23日(金)に兵庫県洲本市の「ホテルニューアワジ」で予定されています。

  • 藤井棋聖は自身初となった海外対局について「素晴らしい環境を用意していただいていて気持ちよく対局できた」と感謝を口にした(提供:日本将棋連盟)

    藤井棋聖は自身初となった海外対局について「素晴らしい環境を用意していただいていて気持ちよく対局できた」と感謝を口にした(提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)

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