子役から長いキャリアを積んできた神木の確かな演技力は、本作でも遺憾なく発揮されているが、特に緩急あふれる演技の振り幅も最大の武器だ。愛くるしい子犬のような笑顔や、日だまりのような微笑みは、ヒロインばりの破壊力があるかと思えば、これまでに何度か登場した「雑草という草はない」という名言を放つ情熱的な眼差しには毎回惹きつけられる。
「『雑草という草はない』は、富太郎先生の言葉です。とはいえ自由民権運動の演説で、万太郎が草木について演説をするというのは長田さんの脚本ならではの設定で、富太郎先生の名言と上手くリンクさせたなとびっくりしました。富太郎先生が自由民権運動に参加されていたのは事実ですが、やはり植物学をやりたいということで、自由民権運動から足を洗ったそうです。ちなみに実際に逮捕された経験もあったそうで、その史実をヒントにそれも長田さんがストーリーに入れ込んでいて、そこも感心しました」
巧みな長田脚本だが、神木が万太郎に息吹を注ぐことにより、そのチャーミングな魅力はより立体的に浮かび上がる。男性が主人公の朝ドラは『らんまん』で12作目と少数派だが、松川氏は、以前に男性主演作の難しさについて問われた時に「それよりも天才を主人公に描いていくことのほうが難しい」と答えた。そして脚本作りの骨子について、長田氏と話し合い「『らんまん』では、天才を描くにあたり、天才になるまでの過程をちゃんと描きましょう」という方向性に決めたとか。
「実際に、放送開始から5週までの高知編は、万太郎だけではなく、綾や竹雄(志尊淳)も自分の道を定めていくという話でした。でも、富太郎先生をはじめとする天才たちは、たぶん初めからぶれなかったと思います。きっと悩みもせずに、一直線に行ったかと思いますが、『らんまん』では天才になるまでの葛藤を膨らませようとして描いたのが高知編です。そこは富太郎先生と万太郎の一番の違いなのかもしれないです。今回は人並みに悩みながら、やっと自分の道をつかんでいくという等身大の主人公にしたかったので」
そして、東京編からの万太郎はもう迷うことなく、植物学への道を闊歩していく。
「彼自身が太陽のような存在になって、周りを照らすことで周りの人々が変わっていくという構図になっていくのではないかと。そこは実際の富太郎先生もそうだったと思いますが、万太郎もすごい熱の塊として走っていき、どんどん周りが巻き込まれていきます」というから頼もしい。
確かにそのとおりで、万太郎が上京後、住むことになった十徳長屋や、植物学を極めていく東京大学などでは、豪華俳優陣が演じる様々な個性派キャラクターが登場してきた。今後も万太郎が、各所で出会う人々とどんなドラマを繰り広げていくのか、大いに期待したい。
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