ホウレンソウ生産の動向
ホウレンソウは冷涼な気候を好むため、気温が上昇する6~8月にかけては高冷地や高緯度地域の冷涼地が主要産地となります。しかし、近年の気候変動により、今まで通りの栽培管理が通用しない場面が増え、安定した栽培が難しくなっています。特に、日照不足による軟弱徒長や高温による生育停滞などが原因で出荷量が減少する7~9月間は、いかに安定して出荷ができるかが産地の課題となっています。
タキイが2018年に発表した「タフスカイ」は、夏場の重要病害である萎凋病への耐病性と耐暑性にすぐれた早生種で、高温期の栽培となる7〜8月まきで安定して収穫ができる夏どり品種として冷涼地・一般地の主要産地で好評いただいています。一方、「晩抽サマースカイ」はじっくりした生育で収穫・調製作業がしやすい、4〜8月まきが可能な晩抽品種ですが、さらなる収量性の向上が課題と捉え、葉軸の太りがよく、徒長しにくく多収となる晩抽品種を目標として育成を進めてきました。
「晩抽サマーヒット」は、主力産地で試作を重ねた結果、収量性が評価され育種目標に達していることが確認できたため、発表の運びとなりました。曇天、高温でも比較的安定して収穫できる「晩抽サマーヒット」を使用することで夏場の安定生産につながると考えられます。
品種特性
多収性にすぐれる濃緑種
葉は肉厚で葉柄が太るため株張りがよいことが特長です。徒長しやすい条件でも葉柄が間伸びしにくく、収量が安定します。また、葉色が濃いため色が淡くなりやすい時期でも品質を損ないません。
収穫・調製 作業が容易
草姿は立性で葉柄がしなやかで折れにくいため、収穫・調製作業が容易に行えます。
在圃性にすぐれる晩抽種
生育はじっくりしており、収穫期間が比較的長いため在圃性にすぐれます。晩抽性が安定しているため、春~夏(※)まで幅広く栽培が可能です。
※北海道の5~6月まきは除く
萎凋病耐病性、べと病抵抗性をもつ
萎凋病に中程度の耐病性をもち、べと病レース1~11・13・15・16・18に抵抗性をもちます。
栽培ポイント
生育ステージに応じて、潅水を実施
「晩抽サマーヒット」は葉肉が厚くなる特性を持ちますが、乾燥した圃場(ほじょう)ではその特長が発揮できない場合があります。特に生育中盤(本葉5〜6枚)以降は、1回の潅水量を多めに実施することで肉厚となり、葉焼けなど高温障害発生のリスクを軽減できます。
遮光資材を活用した高温期の温度管理
遮光管理のタイミングには4つポイントがあります。
❶発芽までは遮光率の高い遮光資材(80〜90%)で地温を下げることが重要です。
❷発芽後、遮光率の低い遮光資材(30〜40%)に切り替え、立ち枯れが心配な時期まで地温上昇と乾燥を防止します。
❸本葉4枚目以降は、株張りを充実させるため基本的には遮光を外しますが、曇天が続いたあとの高温時など、生育に影響を与える場合は天候に応じた遮光管理が必要です。遮光資材の上げ下げが難しい場合は、遮光率が低い遮光資材(30〜40%)を使用します。
❹収穫時は遮光率の高い遮光資材を収穫前日に掛けて、しおれを防止します。
春夏どり「晩抽サマーヒット」「タフスカイ」の使い分け
晩抽サマーヒット
「晩抽サマーヒット」は株張りがよく収量性に優れ、4~8月まで播種が可能な春夏どりの基幹品種としておすすめします。生育がじっくりで在圃性があるため、計画的に出荷を行う段まき栽培に適した品種です。温暖で曇天が多く、早生品種では徒長しやすい5~6月まきが特に特性を発揮します。
タフスカイ
「タフスカイ」は耐暑性、萎凋病耐病性に優れる夏どり早生種です。
「晩抽サマーヒット」より株張りは劣りますが、高温による生育停滞や、萎凋病の発生が問題となる場合は、高温下での栽培がより安定する「タフスカイ」をご使用ください。
(執筆:タキイ茨城研究農場 神田 拓也)