キリングループは、「プラスチックが循環し続ける社会」に向けた直近の新しい取り組みを中心に、キリングループ各事業会社の具体事例を交えながら説明する「キリングループ プラスチックの資源循環に関する取り組み ラウンドテーブル 2023」を開催した。
■プラスチックを取り巻く課題とペットボトル
「日本におけるペットボトルリサイクル率は世界最高水準を維持している」と、キリンホールディングス CSV戦略部 主幹 門脇寛氏が、ペットボトルのリサイクルにおける現状を説明。日本のリサイクル率は約85%の水準で、欧米諸国と比較しても高い数字となっているが、その状況においても、“ペットボトル to ペットボトル”の水平リサイクル率は20.3%にとどまり、多くのペットボトルはペットボトル以外のものにリサイクルされているという。
また、現在ペットボトルは、市町村や事業者によって94%程度が資源回収され、リサイクルに有効利用されているが、一方で、可燃物、不燃物、あるいはプラスチック製容器包装として排出され、回収されているものは年間で約3.5万トンあり、その多くは、サーマルリサイクルされるか、埋立処分されている。ペットボトルは、しっかりと分別・回収されれば資源として利用できるが、可燃物・不燃物として回収されるとリサイクルできない。つまり、ペットボトルをペットボトルとして回収し続けることが重要であると強調する。
さらに、ペットボトルの回収ルートのひとつである自動販売機横のリサイクルボックスでは、その中身を調べると、30%程度の異物が混入しているという。異物は、輸送効率を下げるほか、ペットボトルを汚してしまうことで、その後のリサイクルにおける品質にも影響を与える。回収における課題は、使用したペットボトルを決められた回収ルートに乗せることであり、同時に、異物混入を減らし、できるだけキレイな状態で回収することによって、ボトルのロスをなくすことが重要であると続ける。
国内飲料メーカー各社の目標数値から同社が試算した結果、2030年には、販売されているペットボトルの約8割をボトル to ボトルの水平リサイクルに回す必要がある。これは、樹脂の重量として8割をリサイクルするということであり、現在主流となっているメカニカルリサイクルの歩留まりから見ると、かなりチャレンジングな数字になっているという。
このままでは、使用済みペットボトルの取り合いが発生したり、使用済みのペットボトルを原料にリサイクルされていた、シート・繊維なども石油由来の樹脂に戻さざるを得ないケースも発生することが考えられるため、各社が掲げた目標を達成するためには、ペットボトル以外のPET素材、食品トレイや卵パックなどをペットボトルにリサイクルできるような技術の実用化が必要となってくる。
キリングループが2020年に作成した“キリングループの環境ビジョン2050”では、「ポジティブインパクト」をキーワードとして掲げており、「容器包装」については、「容器包装を持続可能に循環している社会」の実現を目指している。そして、20250年までにリサイクル材やバイオマスで100%を達成するために、リサイクル樹脂比率を2023年は30%、2024年までに38%となるよう、計画を策定、実行し、メカニカルリサイクルだけではなく、“ケミカルリサイクル”を活用することで、「プラスチックが循環し続ける社会」を目指すという。
■プラスチックに関するキリングループの取り組み
続いて、キリンビバレッジ 企画部 企画担当 主務の榊原万里佳氏が、リサイクル樹脂比率を2027年に50%、そして2050年に100%を達成するために、現在行われている取り組みについて説明。「プラスチックが循環し続ける社会」の実現に向けて、「商品製造・消費・使用」「収集・回収」「再生」といった3つの観点で取り組みを行っているという。
「商品製造・消費・使用」の観点では、2023年4月にリニューアルを行う「キリン 生茶」を、ブランドを通した取り組みとして取り上げた。「キリン 生茶」は、同社の環境フラッグシップモデルとして、R100ペットボトルの導入拡大やラベルレス商品の発売などが行われてきたが、今回のリニューアルで、さらに取り組みを推進。「R100ペットボトルを主力容器へ新たに採用」するほか、ラベルを薄く、面積も小さくした「ロールラベルを新たに採用」することによって、年間約5,500トンのプラスチック使用量と、5,600トンのGHG(温室効果ガス)排出量削減が見込まれている。
また、昨年4月より、生茶ブランドに角型のペットボトル「グリーンエコロジーボトル」を採用。新容器では、ラベルの短尺化・ロールラベル化に加え、ラベルレス6本パック用の紙製包材の短尺化によって、1パレットあたりの積載ケース数を従来の1.25倍として、物流課題の解決にも貢献している。
「キリン 生茶」のほかにも、ラベルレス商品のラインナップを拡充。昨年5月には「キリン 午後の紅茶 おいしい無糖」「キリン ファイア ワンデイ ブラック ラベルレス」、そして今年4月には「キリン 自然が磨いた天然水 ラベルレス」をEC限定で投入。これによって、年間約2.4トンのプラスチック使用量、年間約4.8トンのGHG排出量削減が可能になるという。
また、キリンビールの飲食店提案「タップ・マルシェ」「TAPPY」で使用するペットボトルに、酒類では日本初となるケミカルリサイクル樹脂が導入されるほか、大型ペットボトルの軽量化を進めることで、環境負荷を低減。2003年当時、63グラムだった2リットルのペットボトルが、2019年には28.3グラムと半分以下にまで軽量化されている。ただし、2リットルのペットボトルの軽量化は、かなり限界に近づいているため、メルシャンが発売するワイン用ペットボトルの軽量化など、横展開が進められている。
「収集・回収」については、自治体や企業と共同で、使用済みペットボトルを回収し、ボトル to ボトルでの水平リサイクルを加速。さらに、新機能リサイクルボックスを導入することで、異物混入の削減を目指している。新機能リサイクルボックスは、従来のリサイクルボックスが抱えている課題を解決する、清涼飲料業界統一の仕様として展開されるもので、「空き容器の投入口を下向きに設定」「ゴミ箱に見えにくいオレンジカラーの採用」「異物抑止を啓発するステッカーを掲出」という特長があり、過去の調査から、異物混入に対して、約3~5割の削減効果があり、新機能リサイクルボックスを導入することで、使用済みペットボトルを確実に回収し、その品質向上を目指すという。
「再生」については、門脇氏が“メカニカルリサイクル”と“ケミカルリサイクル”について解説。廃ペットボトルを選別、粉砕、洗浄して汚れや異物を取り除いた上で、熱や真空により揮発成分の除去や物性調整を行いPET樹脂に調製する、現在主流の“メカニカルリサイクル“に対し、廃PET素材を選別、粉砕、洗浄して汚れや異物を取り除いた上で、解重合(化学分解処理)を行い、PETの分子レベルまで分解、精製したものを再びPET樹脂に合成する“ケミカルリサイクル”を導入することで、ペットボトル以外のPETの樹脂の再資源化を実現。「PET樹脂全体の循環利用」を目指すという。
ケミカルリサイクルは、食品トレイや卵パックなど、ペットボトル以外の素材も分解できるのが特徴。メカニカルリサイクルよりも工程が多い分、コスト面での課題は残るが、日本国内において、年間約187万トンのPETの樹脂が生産・輸入されている内、ペットボトルとしての販売量は約58万トンに留まる。ケミカルリサイクルを導入することで、残りの129万トンもリサイクル対象にできるため、PET資源循環の増大が可能。実際、キリングループが掲げる、2027年のリサイクル樹脂使用率50%という目標を実現するためには、メカニカルリサイクルとケミカルリサイクルの療法を活用する必要がある。
ケミカルリサイクルについては、三菱ケミカルと共同で取り組むことで、「原料となる各種PET素材の回収」「最適な解重合の技術探索」といった課題の解決に向けて順調に進捗。現在、ケミカルリサイクルの新技術として、“酵素”による分解の共同研究などが行われている。
キリングループでは、自治体や企業との連携やリサイクルボックスの設置などを通して、使用済みペットボトルの回収ルートを拡大。技術面では、ケミカルリサイクルの取り組みを加速することで、その実用化までは、メカニカルリサイクルを中心に、2023年は30%、2024年は38%のリサイクル樹脂比率を目指すことで、さらなるプラスチックの削減、そしてリサイクルの推進をはかるとしている。