第73期ALSOK杯王将戦(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟主催)は、一次予選の山崎隆之八段―井田明宏四段戦が3月28日(火)に関西将棋会館で行われました。対局の結果、138手の熱戦を制した山崎八段が次回戦進出を決めました。

■相掛かりの力戦形

振り駒が行われた本局、先手となった井田四段は相掛かりの戦型を目指します。これに対して後手の山崎八段は左銀を3筋に上がり、矢倉囲いの要領で先手の攻めを受け止める方針を採りました。山崎八段の角は囲いの中に閉じ込められている形で、この角がどのように活用されるかに関心が集まります。井田四段は自玉を中住まいに囲って戦いの時を待ちます。

駒組みが頂点に達した局面で、先手の井田四段は驚きの構想を披露します。後手の飛車が待ち受ける8筋に自陣の歩を伸ばしていったのがそれで、角の利きを生かして飛車を押さえ込む狙いを持っています。この歩を取ると飛車を捕獲されるのを見越した山崎八段が桂跳ねの妥協策で応じた結果、盤面左方で井田四段が主導権を握って中盤戦が展開しました。

■混戦抜け出し山崎八段が勝利

局面の複雑化を目指す後手の山崎八段は8筋に飛車を戻して飛車先突破を狙います。この直後、駒損覚悟で銀を打ち込んで王手をかけたのが渾身の勝負手。飛車の成り込みが約束されたことで形勢は混とんとしてきました。井田四段は自玉を右辺に逃げ込んで延命を図りますが、玉頭に控える後手の2枚の垂れ歩が大きな脅威となって圧力をかけています。

一手ごとに形勢が揺れ動く玉頭戦が繰り広げられたのち、抜け出したのは後手の山崎八段でした。井田四段が角を出て詰めろをかけたのに対して歩成りの王手で態度を打診したのが好手。詰み筋を含みに井田四段の玉を危険地帯の5筋に誘うことに成功しました。最後は遊び駒の角を1筋に上がった手が詰めろ逃れの詰めろとなって攻めの速度が逆転。一局を通じて働きの弱かった山崎八段の角が最後の最後に登場して劇的な幕切れとなりました。

勝った山崎八段は次回戦で池永天志五段と対戦します。

  • 勝った山崎八段は23勝20敗の勝ち越しで今年度を終えた

    勝った山崎八段は23勝20敗の勝ち越しで今年度を終えた

水留 啓(将棋情報局)