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加地さんはりっちゃんに対して、「もう一度付き合うとしても、りっちゃんと付き合うね」「本当にかわいい人だよね」と、なかなか日本人男性が言えない妻への愛の言葉が直球で次々に飛び出すが、普段は営業中ずっと厨房にいるため、「店に通ってる人は、こんなにしゃべる人なんだと皆さん驚くと思います」という。放送ではカットされているが、毎週一緒に体操教室に通うおしどり夫婦だ。

番組ではそんな2人の仲睦まじい関係性が伝わってくるが、そこには50年以上店を切り盛りしてきた“戦友感”もにじみ出ている。

「かつては、ヤクザが乗り込んできたり、組同士でビール瓶の投げ合いをやったり、食い逃げが流行ったりと、街が荒れていた時期も経験している2人なので、一緒に店を守ってきたという思いが確実にあると思います」

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■自宅取材は頑なに拒否「そんな姿は見せねえ」

りっちゃんが客に対してたしなめるように、田渕Dも取材中は「いっぱい怒られました(笑)」とのこと。そうした中でも、夫婦の自宅の取材を試みたが、最後まで入れてくれることはなかった。

田渕Dがその理由を聞くと、りっちゃんから「美空ひばりはステージ上の姿は見せるけど、ステージ以外の姿を見たことがねえ。私はクインがステージだと思ってる。家ではただのヨタヨタおばあちゃんだから、そんな姿は見せねえ」と、プロ意識を覗かせる言葉が返ってきたという。化粧も装飾品も、クインに立つときの一種のキャラクターになるためのものだといい、店を辞めたら「化粧もしたくねえし、宝石も売りたい」と言っているそうだ。

来年夏に店の賃貸契約が更新を迎えることから、年齢も考えて閉店を検討している。「やはりどこかで覚悟を持って店に立っているんです。営業時間を考えても、体に良いことをしているとは思ってないから、いつ倒れてもおかしくないという覚悟がどこかにあるんだろうなと感じて、老いというのは残酷だなと、今回の取材を通してちょっと思いました」。

店を継ぎたいと声をあげる常連客もいるそうだが、この夫妻がどのようにクインの歴史に幕を下ろすのか「やっぱり気になりますね」という田渕D。今後、プライベートでも通いつつ、行く末を追っていくつもりだ。

改めて、長年取材してきた“夜の街”の魅力を聞くと、「基本的に、すっごく面倒くさいんですよ(笑)。みんな酔っ払ってるから、昼間に会うと『昨日何しゃべったか覚えてないからカットしてほしい』なんてざらにありますし。でも、そうやってお酒を飲みながら話すから、すごく仲良くなるんです。今回のクインも、最初にビール瓶20本飲んだところからスタートしてるんで、他のお客さんからも『こいつは飲めるやつだ』という認識になっていて、その後も飲みながら取材しました。これが手法として正解なのか、いまだに分からないです(笑)」というが、そうした姿勢だからこそ、1人の客としての自然な目線でクインの人間模様が映し出されている。

  • 田渕慶ディレクター