岡山県の名物といえば、白桃やマスカットなどのフルーツ、そして瀬戸内の海の幸。しかしそれだけではない。岡山県北部に位置する津山市は「お肉の聖地」と呼ばれていることをご存じだろうか?
あまり「肉」のイメージはないかもしれないが、津山には牛肉の骨の周りの肉をそぎ落とした「そずり鍋」、牛すじ肉を煮込み冷やし固めた「煮こごり」、牛の大動脈を短く切った「ヨメナカセ」など、津山ならではの肉の旨さを引き出した食べ方がある。さらに、ご当地グルメ「津山ホルモンうどん」や東京ではなかなか食べられない「干し肉」なども! 今回は知るとその魅力にハマってしまいそうな、津山の肉文化を紹介する。
なぜ津山が「お肉の聖地」に?
そもそも、なぜ津山は「お肉の聖地」と呼ばれるようになったのだろうか。日本では仏教の伝来後の675年に天武天皇により「肉食禁止令」が出され、江戸時代になるまで表向きには肉、特に牛馬豚を食べることが禁じられていた。
しかし近江彦根藩(滋賀県)と津山藩だけは、肉を薬として食べる「養生食い」が特別に認められており、津山では様々な肉の食べ方が発展したという。そして津山では独自の肉料理が今でも食べられているのだ。
旨味が凝縮された保存食「干し肉」
まずは「干し肉」。おそらくほとんどの人が「なにそれ?」となるであろう。これは牛肉をに塩を揉み込んだ後、乾燥させたもの。1カ月ほど日持ちする保存食で、火で炙って食べる。
乾燥させることにより肉の水分がとび、牛肉の旨味が凝縮されているのが特徴。ビーフジャーキーほど硬くはなく、しかし生肉よりは歯ごたえがある。津山の人々は酒のつまみやおかず、バーベキュー、キャンプ飯などで食べるという。数年前までは津山以外では食べることができず、ネット通販などのお取り寄せもできなかったというからかなりレアだ。
黒毛和牛で作られた干し肉を食べてみたところ、味付けは塩のみだが、まさに「旨味が凝縮」されており、噛むほどにぎゅっと美味しさが口の中に溢れる。食べ終えてもずっと口の中に旨味の後味があって、これは確かにお酒が進むなぁとハマってしまった。
いろんな意味で「ヨメナカセ」
続いては「ヨメナカセ」。津山地域では牛の大動脈の血管をこう呼ぶのだそう。一般的には「ハツモト」と呼ばれている部位だ。名前の由来には諸説あり、「下処理が大変で嫁が泣く」「だれが調理しても旨いので嫁の出番がない」など様々あるが、炭焼きや天ぷら、から揚げ、バター炒めなどその調理方法は多岐にわたる。
見た目はまるでイカ。食感も味もほぼイカ……なのだが、イカよりも独特の歯ごたえが強く、噛みきりやすく心地よい。そして味も旨味が強い。牛1頭から100gしか取れない希少部位だという。
ぷるぷるの「煮こごり」
続いては「牛肉の煮こごり」。津山では牛肉を使う。牛すじ・アキレス・テールなどをネギと共にとろ火で何時間も煮込み、冷やして固めることでコラーゲンたっぷりに。そのまま食べても美味しいが、温かいご飯にかけて食べると牛肉のうまみが溶け出す!
ぷるぷるとした食感で、より濃厚な牛の旨味が感じられる。「秘密のケンミンSHOW極」(日本テレビ系)にも取り上げられたことがあるのだそう。
野菜と牛のダシが混ざり合う「牛そずり鍋」
そして「牛そずり鍋」。津山の肉料理には知らない言葉が多く登場するが「そずり」とは何なのだろうか。これは、「削り落とした」という意味で、牛の骨から削り落とした肉・ごぼう・ニラ・豆腐などの具材と一緒に醤油ベースで甘辛く煮込んだ鍋のことだ。
こんなにも細長い牛肉が入っているのは面白い。牛肉から出たダシと、野菜から出た旨味が混ざり合ったスープは最高に美味しい。〆には地元の小麦粉で作られた焼きそばの麺を入れるのが津山スタイル。
こってり! 濃い! 「津山ホルモンうどん」
最後は津山市内の鉄板焼店、焼肉店で多く提供されているご当地グルメの「津山ホルモンうどん」。一見普通のうどんのようだが、たっぷりと牛ホルモンが入っているのが特徴だ。小腸(てっちゃん)、大腸(シマチョウ)、心臓(ハツ)、胃袋(ミノ)、胃袋(ハチノス)、胃袋(アカセン)、胃袋(センマイ)など様々な部位がミックスされ、さらに玉ねぎや長ネギなどの野菜も入る。
まずはごろごろと入ったホルモンが贅沢。そして味噌・醤油ベースのソースがこってりと濃いめで、濃厚な美味しさだ。2011年のB-1グランプリではシルバーグランプリを獲得し、津山の名物として居酒屋の〆の定番となっている。
今回ご紹介した津山肉グルメは、干し肉を筆頭になかなか津山以外では食べることができないメニューばかり。しかし、東京・新橋にあるアンテナショップ「とっとり・おかやま新橋館」では3月1日~14日まで「干し肉フェア」を開催中。津山の肉文化に触れてみたい方はこの機会に味わってみてはいかがだろうか。