キックボクシングで無敵を誇った“神童”那須川天心のプロボクシング・デビュー戦が正式発表された。4月8日(土)、東京・有明アリーナ『Prime Video Presents Live Boxing 4』がその舞台。対戦相手は日本バンタム級4位の与那覇勇気に決まった。

  • キックボクシング無敗の実績を引っ提げ、ボクシングのリングに上がる那須川天心(写真:SLAM JAM)

挑む階級は、"モンスター"井上尚弥と同じスーパーバンタム級、与那覇との試合は6ラウンド制で行われる。那須川天心は、ボクシングでもやはり強いのか? 大舞台でのデビュー戦で何を見せる?

■デビュー戦でも破格の扱い

「はじめまして、那須川天心です。今回の試合はボクシングからの果たし状だと思っているので、しっかりと勝って(強さを)証明します。尊敬の念と覚悟を持ってボクシングと向き合いますので、皆さん御注目ください!」

2月13日、ザ・リッツ・カールトン東京で開かれた記者会見で那須川天心(帝拳)は、語気を強めてそう話した。
この会見で、那須川天心プロボクシング・デビュー戦の概要が発表されたのだが、私は2つのことに驚かされた。

まず1つ目は、那須川のデビュー戦の扱い。
この試合は、『Prime Video Presents Live Boxing4』の中で行われるが、ほかにも好カードが目白押しだ。
寺地拳四朗(BMB)vs.ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)、この一戦はWBA、WBC、WBOの3本のベルトがかけられた世界ライトフライ級王座統一戦。また、井上拓真(大橋)とリボリオ・ソリス(ベネズエラ)の間でWBA世界バンタム級王座決定戦も行われる。ならば、2大世界戦の前座で那須川がデビューする形かと思いきや、どうやらそうではない。

那須川のデビュー戦が、イベントの軸に据えられていたのだ。
壇上では現世界王者、元世界王者が両脇、那須川が中央に座った。
「試合順は未定、後日発表」と主催者からアナウンスがあったが、会見場には「メインは那須川のデビュー戦」との雰囲気が漂っていた。
寺地拳四朗の3団体世界王座統一戦は、スーパーファイトである。しかし、知名度においては寺地よりも那須川が上位。そのため、メディアからの質問も那須川に集中していた。実力よりも大衆からの注目度が優先され、那須川がデビュー戦にしてメインを務める可能性が高い。そうなれば「レベル尊重」「実力&格重視」だったボクシング界の常識が覆されることになる。

  • 記者会見で立ち上がり、ボクシング挑戦への決意を話した那須川天心。髪は短く刈られていた(写真:SLAM JAM)

■「俺は甘くないぞ」

2つ目は、那須川の対戦相手が日本ランカーの与那覇勇気(真正)だったこと。 シビアな好マッチメイクだと思う。
タイ、フィリピンの選手が那須川のデビュー戦の相手を務めるとの見方もあった。実力測定不能な外国人選手を招聘し、那須川が豪快にKO勝利を飾るという図式である。だが、そんな茶番が通用したのは昭和の時代。いまは情報量が多く、観る者の目も肥えている。予定調和のマッチメイクはファンを鼻白ませるだけだろう。当然、那須川もそんな闘いを望んでいない。

今回、那須川と対峙する与那覇は、実力者である。
沖縄県出身。沖縄尚学高校、東洋大学ボクシング部を経てプロデビューしており那須川より8つ上の32歳。アマチュア戦績63戦50勝(27KO)13敗、プロ戦績17戦12勝(8KO)4敗1分とキャリア豊富だ。
先日行われた那須川のプロテストでスパーリングの相手を務めたランキング1位の南出仁(セレス)と昨年10月に対戦し判定で敗れたが、それまでは5連勝を飾っていた。高いKO率が示す通りのハードパンチャーでもある。

与那覇は、会見でこう話した。
「キックボクシング無敗の実績を持ってボクシング界に飛び込んでくる那須川選手に対して、一般的には“ボクシングは甘くない”との声もあるが、自分はそんなことは思っていない。ボクシングが甘くないんじゃなくて、『俺は甘くないぞ』という気持ちです。
自分のパンチは空振っても会場がどよめく、もちろん当たったら一撃で試合が決まる。その拳に挑戦してくる姿勢に敬意を込め、全力で殴り倒しに行きます」

  • 記者会見場に掲げられたスクリーン画像。イベントの主役が那須川天心であることを示していた(写真:SLAM JAM)

■試合は、どう転ぶかわからない

対して、那須川は言った。
「世間に対して、自分の本気度が伝わる相手を用意してもらえたと思う。プレッシャーはありません。もう、やるだけですから。全力で練習し準備します。勝とうが負けようが起きたことがすべて。そこに挑戦できることが楽しいし嬉しい。観てくれる人たちに自分の生きざまを伝えたい。
試合当日の会場の雰囲気も楽しみですね。
よそ者が入ってきた時って、ワクワクするじゃないですか。『変な奴が来たぞ』って。変な奴が来たらワッと騒ぎになる。(ボクシング業界を)良くするか悪くするか、盛り上げるか沈ませるかも変な奴次第なんですよ。いい意味での変な奴になりたい(笑)」

彼の決意は本物だ。そして、与那覇も咬ませ犬になるつもりはない。
試合も、どう転ぶかわからない。
攻防のスピードでは那須川が上だ。帝拳ジム側は、那須川が勝てると踏んでマッチメイクを施したのだと思う。だが与那覇には一撃がある。那須川の動きが硬いであろう序盤に与那覇が強烈なパンチをクリーンヒットさせたなら試合は俄然、面白くなろう。

那須川天心の闘い「第2章」─。
私は、神童がボクシングでも無敗を貫けるとは思わない。それでも、日本ボクシング界に新風を吹かし、変革を促すことは間違いないと期待している。

文/近藤隆夫