50代になると、リタイアや老後が頭をよぎるようになりますが、同時に、残りの現役生活の過ごし方について悩むこともあるのではないでしょうか。中には、これまでのキャリアを活かし、「起業にチャレンジしてみたい」と考える人もいるかもしれません。

実は、起業する人の4人に1人は50歳以上であり、50代での起業は珍しいことではないのです。では、50代から起業に挑戦するなら、どのような点に気を付けるべきなのでしょうか。この記事では、50代からの起業を成功させるポイント、注意点などをまとめました。

■50代から起業するメリットとは

50代というと、社会人としての経験を多く積み、それなりの地位を得ている人も少なくありません。養う家族がいれば、「今の立場を捨ててまで新しいことを始めるなんてできない」と考える人もいるでしょう。

一方、「リタイアして老後生活に入る前に、自分でビジネスを興してみたい」と、50代から起業に挑戦する人もいます。中小企業庁の「中小企業のライフサイクル」によると、1979年~2012年にかけて、起業家の平均年齢は、男性は39.7歳から49.7歳へ、女性は37.1歳から44.7歳へと徐々に上がっているのです。

「50代で起業は遅すぎる」と年齢を気にする人もいるかもしれませんが、冒頭でもお伝えした通り、起業する人の4人に1人は50歳以上ですし、むしろ、50代からの起業はメリットが多く、ビジネスを始めるのに向いている世代とも言えるでしょう。

では、50代からの起業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

経験や知見、人脈を活かせる

50代の人には、社会の中で20年、30年かけて培ってきた豊富な経験や知見、スキルがあります。また、50代ともなれば会社の中での重要なポジションを得て、それなりの人脈を築いている人も多いはずです。こうした経験や知見、スキル、人脈があることは、起業において圧倒的に有利になるでしょう。

たとえば、50代からの起業に向いている職種の1つに、「コンサルタント」が挙げられます。コンサルタントは、クライアントの事業や課題に対してアドバイスを行う仕事ですが、 これまで営業部長を務めてきた人なら営業コンサルタント、財務に関わっていた人なら財務コンサルタントなど、企業人として得た知見やスキルを存分に生かすことができるはずです。

特に、専門性の高い分野に勤めてきた人は、起業にあたって大きなメリットとなるでしょう。

子どもの手が離れ、自由に動きやすい

50代は、子どもの手が離れて自由に動きやすい時期でもあります。それに、子どもが学校を卒業して独立することで、教育費の負担からも解放される頃でしょう。まだ大学などに在学中の場合も、「教育費の支払いはあと○年」という見通しがつくのではないでしょうか。

子育てが終われば、これまで子どもにかけてきた時間やお金を、今度は自分のために使うことができます。50代こそ、思い切ってビジネスを始める絶好の機会かもしれません。

資金に余裕がある

50代は、資金にも余裕ができる世代です。子どもが独立すれば教育費の負担がなくなり、住宅ローンが残っていても、支払いに終わりが見えてくる頃でしょう。また、退職金制度のある会社に長く勤続している人は、退職金額も多くなっているはずですし、早期退職制度を利用するなら、退職金はさらにプラスされるでしょう。

もちろん、こうした条件が揃っている人ばかりではないかもしれませんが、若い頃と比べると、資金に余裕がある人が多いのではないでしょうか。資金に余裕があれば、退職し、これまでの生活を続けながら起業の準備に集中して取り掛かることも可能です。

気力や体力が充分残っている

若い頃と比べれば体調の変化があるかもしれませんが、50代はまだまだ気力や体力が充分残っている世代です。これから新しいことを始めるためのエネルギーに問題はないでしょう。

また、「人生100年時代」を迎え、50代は老後に向けて腰を落ち着かせる年齢ではなくなりつつあります。会社員時代を終え、これまでのキャリアや経験をもとに、「これからは自分で仕事をしよう」と動き出すにはちょうど良い時期なのではないでしょうか。

このように、気力や体力に問題がなく、資金や時間にも余裕がある50代は、トータルで見ると、起業するのにさまざまなメリットのある世代と言えるでしょう。

■50代からの起業を成功させるポイントは

50代は、起業するのに有利な条件が揃っている世代ですが、起業を成功させるためには、いくつかのポイントを抑えておく必要があります。50代というタイミングで起業するからこそ、若い時とは異なるリスクを把握し、50代であることのメリットを存分に活かして起業を成功させましょう。

まずは個人事業主で小さく始める

50代は、ビジネスで失敗しても挽回の時間がたっぷりある20代、30代と違い、失敗を取り戻す時間が限られています。そのため、はじめから大きなビジネスを目指すのではなく、できるだけ小さく起業するのがおすすめです。従業員を雇う必要がなく、大きな固定費のかからない、自宅でできるような仕事ですとベストでしょう。

また、いずれは法人化を考えるとしても、最初は個人事業主からスタートするのがいいでしょう。会社を設立するには登記などに費用や手間がかかり、手続きも複雑です。一方、個人事業主なら開業にかかる労力ははるかに少なく、利益が小さいうちは税負担も軽く済みます。

利益が大きくなってくると税負担が重くなり、法人化を検討する必要もありますが、最初はリスクを抑えて一人で小さく始めるのがいいでしょう。

これまでの経験や人脈を活かせるような職種を選ぶ

50代で起業するからには、これまでの経験や人脈を充分活用できるような職種を選びましょう。起業自体は初めてでも、自分が熟知した分野のビジネスなら、スキルや経験、人脈を活かし、スムーズに事業展開できるでしょう。

若い頃なら、「異業種に飛び込む」ことも可能かもしれませんが、50代は、未知の分野の経験を積んだりスキルを身に付けたりする時間が限られています。

これまでの社会人経験を大いに活用できるような職種を選ぶことが、50代からの起業を成功させる重要なポイントの一つです。

事業計画を立てる

自分が知り尽くした分野で起業するとしても、はじめに事業計画をしっかりと立てておきましょう。事業計画とは、起業に関する具体的な内容を明確に示したものです。たとえば、事業内容や開業時期、ターゲット層、収支計画、マーケティング方法などを詳細にまとめます。

事業計画は、起業後の行動指針として役立つほか、金融機関から融資を受ける際にも欠かせないものとなります。起業を成功させるためには、事業計画を必ず立てておきましょう。

家族の理解を得ておく

養うべき家族がいる場合、会社を辞めて自分でビジネスを始めることに理解を得ておきましょう。家族が起業に対して難色を示したまま事業を始めてしまうと、精神的な不安や焦りから、ビジネスがうまく進まなくなってしまうかもしれません。

起業を成功させるうえで、家族の協力は大切な要素となります。間違っても、家族に内緒で勝手に起業の話を進めたりしてはいけません。時間をかけてでも、これから始めようとしているビジネスについて丁寧に伝え、家族の理解を得ておきましょう。

■50代で起業する場合に注意したいこと

最後に、50代で起業する場合に注意したいことをご紹介します。50代というタイミングで起業するなら、どのような点に気を付ける必要があるのでしょうか。

体力的に無理な計画は立てない

50代は気力、体力ともにまだまだ充分な年齢ですが、一方で、健康面で何かしらの不安が出始める頃でもあります。起業すると、はじめはやるべきことが多いですが、決して体力的に無理な計画は立てないようにしましょう。

また、退職して会社員でなくなると、いざという時の傷病手当金や有給休暇、労災保険も利用できません。健康には日頃から注意を払い、定期的な人間ドックや健康診断も欠かさないようにしましょう。

今から始める事業として向いているか確認する

50代からの起業は、これまでの経験や知見を活かせる仕事を選ぶのが有利ですが、業種や職種によっては、起業に向いていない場合もあるので注意しましょう。特に、大がかりな設備や施設が必要となったり、長年にわたるメンテナンスやサービスの継続が必要になったりする場合は、50代という年齢から始めるには難しいケースもあります。

自分の経験や知見が活かせて、なおかつこれから始めるのに向いている仕事であるか、よく確認が必要です。

老後を見据えた資金計画を立てる

50代の中には、老後に向けてそれなりのお金を貯めている人も多いでしょう。しかし、起業のために、老後資金に手を付けてしまうことは絶対に避けましょう。老後資金は起業資金とは別に貯めておき、起業資金にも上限を設定することをおすすめします。

これから起業するのにまだ時間のある50代ですが、老後はそう遠い将来とは言えません。老後を見据えつつ、慎重に資金計画を立てていきましょう。

開業資金の支援制度は年齢制限の可能性がある

起業する人の支援のため、国や自治体では補助金や助成金などの支援制度が用意されています。しかし、こうした制度には、年齢制限が設けられている可能性があり、注意が必要です。

支援制度の利用を考えている場合は、年齢などの条件をクリアできるか事前に調べておきましょう。

■年齢と経験を武器に50代からの起業を成功させよう

今回は、50代からの起業について、成功のポイントや気を付けるべき点などを解説しました。50代からの起業というと、「この年齢からでは遅い」と考える人もいますが、むしろ、年齢やこれまでの経験が武器になる、起業に向くタイミングではないでしょうか。

ただし、若い世代とは異なるリスクもあるため、起業は慎重に進める必要があります。スモールビジネスで始める、体力面や資金面で無理のない計画を立てるなど、工夫をこらして50代からの起業を成功させましょう。