1月の終わりを待ってようやく2023年の幕開けとなる冬ドラマがそろった。刑事、医療、リーガル、復讐劇、ファンタジーなどの定番に加えて、あえてオーケストラやスタートアップを扱う異色作もあり、序盤から話題には事欠かない。今冬はどんな作品がラインナップされ、どんな傾向が見られるのか。

主要ドラマがそろったこのタイミングで、「本当に質が高くて、今後期待できる作品」をドラマ解説者の木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2023年秋ドラマ22作の傾向とおすすめ5作(第1弾)、目安の採点付き全作レビュー(第2弾)を挙げていく。

2023年冬ドラマの主な傾向は、【[1]“silent基準”に挑む大御所たち [2]オリジナルだからこその“功罪”】の2つ。

  • 『星降る夜に』(左からディーン・フジオカ、吉高由里子、北村匠海)

傾向[1]“silent基準”に挑む大御所たち

あらためて振り返ると、昨秋の『silent』(フジテレビ系)はドラマ史に残るインパクトを残した。

放送曜日にかかわらずネット上のエンタメニュースを席巻し続けたほか、ロケ地への聖地巡礼をするファンが続出。とりわけ凄まじかったのは見逃し配信再生数で、1話平均約600万回もの記録を叩き出した。それまでの最高が『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)の1話平均約300万回台だっただけに、いかに突き抜けていたかがわかるだろう。

このままドラマの配信再生数が上がっていけば、ネットCM収入アップにつながり、海外配信などで稼ぐ道も現実味を帯びてくる。各局内で配信再生数が評価指標に入りはじめただけでなく、メディアや人々の意識も変わるなど、のちに「『silent』がきっかけになった」と言われそうな兆しが見られた。

さらにその数字と同等以上に強烈だったのが、『silent』の脚本・演出。「メインテーマの恋愛のみに絞って心の動きをじっくりと描き、無音も含めたっぷり“間”を取って視聴者の感情移入をうながす」というプロデュースは、近年の作品とは真逆。近年、定番化していた「とにかくわかりやすくしないと見てもらえない」「大きな設定や展開を連続させて引きつける」というプロデュースに一石を投じるものであり、成功を収めたことで、今冬ドラマも影響を受けるだろう。

しかも『silent』の脚本・生方美久とチーフ演出・風間太樹は、ともにアラサーであり、いまだ脚本家が50~60代、演出家が40~50代が主力のドラマ業界では明らかに若い。一転して今冬は特に脚本家に70代の大石静を筆頭に、60代の吉田紀子、北川悦吏子、50代の橋部敦子、後藤法子、森下佳子、安達奈緒子と実績十分の大御所やベテランがそろった。なかでも同じラブストーリーを手がける大石、北川、安達は、『silent』がデビュー作だった生方との比較は避けられず、現在の実力やニーズを問われる形となりそうだ。

『silent』のヒットでドラマの評価指標が視聴率だけでなく見逃し配信再生数やトレンドランキングなどの反響も加わっただけに、大御所やベテランたちはこれを得るためにどう挑むのか。

  • 『夕暮れに、手をつなぐ』(左から広瀬すず、脚本の北川悦吏子氏)

傾向[2]オリジナルだからこその“功罪”

今冬は民放ゴールデン・プライム帯の14作中10作がオリジナル。各局のプロデューサーたちが企画を考え、彼らが実力を認めた脚本家たちが物語をつむぐ形での力作がそろっている。

そもそもオリジナルはゼロから脚本を作り、演出、美術、ロケの手配など、さまざまな点でプロデュースの労力が大きい上に、未知数のため企画が通りづらい。だからこそ販売や受賞などの実績がある漫画・小説の実写化が多いのだが、このところ多くのデメリットが指摘されていた。

まずネット上でネタバレされてしまい、結末に向けて大きな盛り上がりにはつながりづらく、自局系の有料動画サービスへの誘導も限定的なこと。原作者や原作ファンの心証を損ねないようなプロデュースが求められ、ネット上の反響を生み出すような脚本・演出が仕掛けづらいこと。原作料などの対価が必要なほか、海外展開や映画化などのハードルが高いこと。

これらのデメリットをすべてクリアできるのがオリジナルであり、とりわけ「ネット上の盛り上がりを生み出し、稼ぐ作品にするためにはオリジナルで勝負しなければいけない」というムードが生まれている。

ただ気になるのは、オリジナルで自由を得た制作サイドが、ネット上の反響を狙った脚本・演出を多用してしまい、物語の連続性や緊張感を分断し、視聴者を興ざめさせてしまうケースが散見されること。それらの不満もツイートされるため、けっきょくはトレンドランキング入りすることも多いのだが、作品としての満足度につながりづらく、継続視聴されるかは読めないところがある。

しかも大物のプロデューサー、脚本家、演出家ほど、「このセリフや設定はバズ狙いだろう」「若者狙いなのが見え見えで痛い」などと見透かされてしまうケースが少なくない。やはり『silent』がバズ狙いではない正攻法でコア層(10~40代)をつかんだあとだけに、その姿勢が問われるだろう。


  • 『スタンドUPスタート』(左から小手伸也、小泉孝太郎、竜星涼、吉野北人)

  • 『ブラッシュアップライフ』(左から夏帆、安藤サクラ、木南晴夏)

これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『スタンドUPスタート』(フジテレビ系)、『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)の2作。

まず『スタンドUPスタート』は、問題を抱える人々に光を当てる主人公が魅力的である上に、週替わりエピソードのディテールが繊細かつ感動を誘う心地よさもある。瑠東東一郎監督が原作漫画の魅力をドラマティックに昇華させている感があり、さまざまな境遇の視聴者に元気を与えられる作品になりそう。これほど人生賛歌のような清々しさのある“お仕事ドラマ”は、脚本家・野木亜紀子が著名になる前に手がけた『重版出来』(TBS系)以来かもしれない。

次に『ブラッシュアップライフ』は、「死んでしまった主人公が人生をやり直す」という深夜ドラマでよく見られるありきたりなファンタジーだが、それを忘れさせるほどバカリズムの脚本が見事。死ぬまでの33年間という長い人生を緻密なエピソードでつなぎ、さらに安藤サクラ、夏帆、木南晴夏の会話劇でクスッと笑わせる脚本は今冬ナンバーワンだろう。

その他では、『ワタシってサバサバしてるから』(NHK)は民放バラエティや自身のSNSを超える丸山礼の爆笑一人芝居。『罠の戦争』(カンテレ・フジテレビ系)は草なぎ剛の復帰作を待望論の多かった「戦争シリーズ」で実現させたカンテレの尽力。『大奥』はNHKしかできないスケールと森下佳子のハートフルな脚本にそれぞれ感動させられる。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局の動画配信サービスなどでチェックしてみてはいかがだろうか。

■2023年 冬ドラマのオススメ5作

  • No.1 スタンドUPスタート (フジ系 水曜22時)
  • No.2 ブラッシュアップライフ (日テレ系 日曜22時30分)
  • No.3 ワタシってサバサバしてるから (NHK 月~木曜22時45分)
  • No.4 罠の戦争 (カンテレ・フジ系 月曜22時)
  • No.5 大奥 (NHK 火曜22時)