第81期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)7回戦は永瀬拓矢王座―広瀬章人八段戦が1月12日(木)に東京・将棋会館で行われ、137手で広瀬八段が勝利しました。この結果、今期成績は勝った広瀬八段が5勝2敗、敗れた永瀬王座が4勝3敗となりました。

永瀬王座用意の端角

先手となった広瀬八段は矢倉のオープニングに誘導。これを受けて後手の永瀬王座は近年流行中の中住まい型の構えを採用しました。これは角筋を生かして積極的に動く含みを残す作戦ですが、本局の永瀬王座は角道を止めて先手からの攻めを受けて立つ指し方を選びました。これに対して広瀬八段も早繰り銀の素早い攻めで応じ、盤面右方で早くも戦いが起こりました。

先手の広瀬八段が攻めの銀を五段目に進出させたとき、永瀬王座の見せた端への角上がりが斬新な受けの手筋でした。これは自身の角を先手の銀と交換することを甘受するものですが、そのように進んだ場合は永瀬王座の方から二枚換えに持ち込んで駒損を回復する手が用意されています。永瀬王座の周到な準備によって実戦では急な戦いは回避され、盤上は一転して第二次駒組みに入りました。

広瀬八段決断の入玉路

虚々実々のやり取りのすえ、局面は広瀬八段が一歩得の戦果を挙げました。加えて攻めの角銀をさばいているのもポイントです。この代償として、永瀬王座は敵陣に打ち込んだ角を馬にして自陣に引き付けることで守備力を高めました。じりじりとした展開が続き、永瀬王座が8筋で歩を交換したところで局面が再び動き出します。歩を打って永瀬王座の飛車を閉じ込めたのが広瀬八段の強気な一手でした。

飛車の捕獲をめぐって盤面左方で激しいやり取りが展開した結果、広瀬八段が狙い通り飛車を手にして局面が一段落しました。とはいえ形勢は互角で、戦いの中で乱れた自陣の守り駒を広瀬八段がいかに整えるかに注目が集まります。時計の針が午後10時を回ったころ、広瀬八段は自陣の銀取りを放置して自玉の入玉路を開拓する決断を下しました。自玉の安全を優先するこの判断が正しく、形勢の針は広瀬八段有利に触れはじめました。

広瀬八段が攻め切って快勝

玉の安全を確保した広瀬八段は満を持して攻勢に転じます。自陣の飛車取りを放置して馬取りをかけ、手順にこの飛車を敵玉近くにさばいたのが一連の好手順。攻めに専念できる形になってからは広瀬八段の寄せを見るばかりとなりました。終局時刻は午後11時53分、自玉の即詰みを認めた永瀬王座が投了を告げて熱戦に幕が引かれました。感想戦で永瀬王座は、中盤での角切りの決断(40手目で△3五角)や、終盤の勝負術(98手目で△3七桂成)などに膝を打ちました。

これで勝った広瀬八段は5勝2敗となって暫定首位の藤井竜王(5勝1敗)を追います。敗れた永瀬王座は4勝3敗となりました。▲広瀬八段―△斎藤慎太郎八段戦、▲永瀬王座-△藤井聡太竜王戦を含む次局8回戦は、2月1日(水)に各地の対局場で行われます。

水留啓(将棋情報局)

  • 勝った広瀬八段は暫定的に2位につけている(写真は第35期竜王戦七番勝負第5局のもの 提供:日本将棋連盟)

    勝った広瀬八段は暫定的に2位につけている(写真は第35期竜王戦七番勝負第5局のもの 提供:日本将棋連盟)