宇宙開発組織JAXAは『Mynavi SPACE JOB FAIR 2022』にて、社会人・大学生を対象にした、宇宙業界の現状と仕事についての講演を行った。さまざまな広がりを見せている宇宙業界だが、宇宙ビジネスを中心とした新しい時代が到来している。今後、多様化していく宇宙の仕事と期待される人材像について人事部長の岩本裕之氏が語った。

■「宇宙の営業マン」から人事へ

岩本氏は平成3年に経済学部を卒業し、宇宙開発事業団(当時のNASDA)に入社。「宇宙の営業マン」として、宇宙ステーション計画のプログラム管理・民間利用の促進、H-Ⅱロケットの民間移管、宇宙教育、宇宙産業強化・利用拡大などに取り組んできた。

2021年1月より現職として、人材の立場から宇宙業界における人材育成や人材流動性に関する取り組みを推進している。

宇宙はビジネスというイメージもある一方、最近は改めて人材の重要性を実感しているとのこと。宇宙に興味関心のある人が、どのように宇宙業界に入って活躍できるのかが重要だそうだ。

  • JAXA人事部長の岩本裕之氏

■JAXAの活動と宇宙ビジネス

日本の宇宙開発は23センチメートルのペンシルロケットから始まった。最新のロケット「H3」は開発中であり、今年度中の打ち上げを予定している。

有人宇宙活動として、若田宇宙飛行士が宇宙ステーションで現在活動しており、古川宇宙飛行士も今後フライトする予定だ。国際宇宙探査への参画もしており、月のまわりを周回するGateway、アルテミス計画、月面探査、火星衛星探査機などに取り組んでいる。

政府全体の宇宙航空分野においてJAXAの果たす役割は広がっている。従来の基幹技術に加え、安全保障、データ利用、産業振興、通信・測位、国際協力など、宇宙が関連する領域がどんどん拡大しているのだ。

また環境・気候変動も重要なテーマであり、人工衛星による二酸化炭素の観測、気象衛星で地球の温度管理などを行っている。宇宙の活動が地球上の活動に役立つという点では、災害監視も同様だ。

宇宙業界の将来的な姿として、2040年には月や火星などに人が自由に行き来できるようになると考えられている。高速2地点間輸送(P2P)も発達し、たとえば日本からアメリカへ1時間で行ける世界になるという。

■宇宙ビジネス拡大に向けたJAXAの取り組み

JAXAや国はさまざまな産業振興策を実施しており、主な活動は3つある。1つ目は航空イノベーションハブで、民間事業者と協力して航空分野を盛り上げる。2つ目は宇宙探査イノベーションハブで、宇宙に携わっていない民間事業者が、独自の技術を使ってJAXAと協力しながら宇宙に参画するためのプログラムだ。3つ目は宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)で、民間事業者等とJAXAの共同による新たな発想の宇宙関連事業を創出する。

J-SPARCの共創プロジェクト・活動数は36だ(2022年7月末時点)。ロケットや衛星のほか、衛星データや衣食住分野における宇宙と地上でのビジネス、市場創出活動まで幅広い。他分野で実績ある自社技術を宇宙分野に持ち込み、顕在マーケットで競争力獲得を狙う案件、厳しい宇宙環境下の革新技術を獲得し、潜在マーケット開拓を狙う案件がある。

たとえば今後人類が月に住む場合、月に物を建てたり、物質を探したり、資源や食糧を作ったりする必要がある。これらを実現するのに、非宇宙分野の技術も求められているのだ。

■地域の取り組み事例

JAXAは地方自治体との共同の取り組みも進めている。佐賀県とは衛星データ×災害で、2021年8月の豪雨による浸水被害について衛星で雲を通過して分析する取り組みを行った。福井県は県民衛星を打ち上げており、福井県と県社内外の企業が共同で県民衛星を製造した。

近年は1kgにも満たない衛星が製造されているが、地域の中小企業の部品を組み立てることで成立している。東京などの都市部でなくても宇宙に参画することが可能な時代になった。

■JAXAの仕事

JAXAにおける事務系の仕事は、資金系として予算管理、調達、労務がある。事業系では経営企画、総務・法務、広報・教育、人事、産業連携、国際などの仕事がある。これまで宇宙とは関連のない企業で働いてきた人も、これまでのキャリアを生かしてJAXAで働くことが可能だ。

JAXAは就業環境がかなり良くなっており、テレワークが可能。またスーパーフレックス制度を導入しており、朝5時から夜10時までの間の任意の時間帯で7時間半勤務するといった働き方ができるとのこと。

技術系の仕事はマネジメント志向と専門志向があり、マネジメント系は事業運営に係る企画・立案、政府・省庁、社内外との調整などの仕事がある。また人工衛星や探査機の開発・運用・事業化といったプロジェクトを推進する役割もある。専門志向の職業は先端技術の研究開発で、機器・部品の開発、要素技術の研究、次世代技術の研究などがある。

■今後必要となる人材と育成

JAXAが求める人材像は「専門能力を基盤に、宇宙航空を通じて社会に対して新たな価値を提案・創造する意欲と能力を備え、挑戦し続ける人材」となっている。宇宙は分からないことや初めてのことがたくさんあり、失敗しそうになることもある。マニュアルなどがない環境でどのように克服するか、くじけずに挑戦し続けることが大切で、そのような人材が適しているそうだ。

宇宙飛行士に求める人材像は3点あり、国際的な場で協調性とリーダーシップを発揮できること、さまざまな適応能力があり柔軟な思考と着眼点を持ち適時的確な判断と行動ができること、ミッションで得られた経験や成果を世界中の人々と共有して人類の持続的な発展や次世代のために貢献することとされている。宇宙飛行士だけでなく、広く社会全体で必要とされる人材とも言えるだろう。

JAXAでは人材流動性を高めるため、一度JAXAで育った人材が外部の企業や省庁などに出て、そこからさらにJAXAに入る人材を増やす循環型の取り組みも行っている。宇宙分野の人材の絶対数を拡大し、市場の裾野をさらに拡大させることにつながる。