第81期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)6回戦の豊島将之九段―広瀬章人八段戦が12月22日(木)に東京・将棋会館で行われ、132手で広瀬八段が勝利しました。この結果、今期成績は勝った広瀬八段、敗れた豊島九段ともに4勝2敗となりました。

相早繰り銀の持久戦

先手となった豊島九段は得意の角換わりに誘導したのち、右銀を3筋に上がって早繰り銀に構えます。後手となった広瀬八段が同様に早繰り銀に追随した結果、本局は相早繰り銀の先後同型に進展しました。相早繰り銀の同型において、先手からはまず(1)3筋の歩を突いて銀交換を狙う、(2)6筋の歩を突いて後手からの仕掛けを待つという2つの選択肢が浮かびます。

本局の豊島九段はそのいずれでもなく、(3)玉を立って自陣を整備したのち右桂を跳ねる指し方を採用しました。これはやや珍しい作戦で、仕掛けのタイミングを計りながら好機に右辺での銀交換を目指す方針です。しばらく間合いの計り合いが続いたのち、後手の広瀬八段が攻防の自陣角を放って局面が動き出しました。この角打ちは、一歩を手にして先手の銀頭に歩を打つ手を見せることで局面のバランスを保つ意味合いがあります。

豊島九段の攻勢

昼食休憩が明け、午後の戦いが始まるとともに本局は本格的な中盤戦に突入します。3筋に銀を進出したのちに敵陣付近にこの銀を繰り出したのが豊島九段の狙いの手順で、広瀬八段が打った自陣角を手順に捕獲することに成功しました。対する広瀬八段も先手の桂を捕獲して駒損の回復に努めますが、豊島九段はその間隙を縫って後手陣に角を打ち込んで攻撃を続行。盤上は、角銀交換の駒得が大きく先手の豊島九段のペースで推移しています。

豊島九段が打ち込んだ角を引きつけて中央に厚みを築いたとき、ここを勝負所と見た後手の広瀬八段は盤面左方からの反撃に舵を切りました。戦いの中で豊島九段の玉が6筋に移動していたのを突いた構想で、広瀬八段としては豊島玉への直接攻撃に本局の命運を託した形です。攻めと受けのバランスが問われる難解な局面を前に、豊島九段は最後の長考に沈みます。やがて、豊島九段は角を切り飛ばし、じっとと金を寄せて相手に方針をゆだねる指し方を選びました。

広瀬八段が反撃決めて勝利

手を渡された広瀬八段は、ここをチャンスとばかりに怒涛の玉頭攻めに出ます。いったん歩を打って王手をかけてから7筋に角を打ったのがうまい組み合わせで、これが豊島玉に対する詰めろになっています。豊島九段が詰めろを解除するのを待って飛車と馬の交換を迫ったのもうまい組み合わせ。広瀬八段としては角を手にすれば豊島玉をさらに危険な状態に追い込むことができます。

広瀬八段の巧みな反撃が功を奏し、時刻が深夜0時を回ったころには形勢は大きく広瀬八段優勢に転じていました。反撃を期する豊島九段は飛車を打ち込んで手段を求めますが、決定的な攻めは見当たりません。これに対して広瀬八段は、自玉に詰めろをかけられたタイミングで満を持して豊島玉への王手を開始しました。終局時刻は0時16分、最後は豊島玉に対する20手近い難解な詰みを読み切った広瀬八段が見事に着地を決めました。

これで勝った広瀬八段、敗れた豊島九段ともに4勝2敗となりました。次局7回戦では▲広瀬八段―△永瀬拓矢王座戦、▲藤井聡太竜王―△豊島九段戦が予定されています。

水留啓(将棋情報局)

  • 広瀬八段は苦戦中の後手番で勝って名人挑戦権争いにとどまった(写真は第35期竜王戦七番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)

    広瀬八段は苦戦中の後手番で勝って名人挑戦権争いにとどまった(写真は第35期竜王戦七番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)